Treasure of life

月那

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【2】Malachite

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「そう、そっちでした。ね、しょおくんも間違っちゃうこと、あるよねー」
 へらへらと笑いながら、翔の手を剥がす。
 その力が、日頃から鍛えていると自負している翔が、少し圧されるくらいで。

 カフェテリア、というどちらかというと甘い空間である場所なだけに、二人の不穏な空気が周囲の目を引いてしまっていて。
 生徒会副会長、なんて立場的にはあまり褒められた行動ではないから。
「ここ、出よう」
 翔が言うと、「そだねー」と軽い口調で頷き、二人で外に出る。

「俺に対して、何やってもどんな嫌がらせしてもいい。でも、とにかくあいつには近寄るな」
 外に出た瞬間、低い声で言う。

「そんなに大事?」
「……ああ、大事だ。だから、絶対に誰にも渡さない」
「ふーん。……でも俺、あのコとおんなじ学年なんだよねー」
「……だから?」
「接触する機会は、俺にもあるってこと」
「ふざけてろよ。普通科が好き好んで特選科に接触するわけねーだろ」

 校舎も違えば、授業内容も総て違う。
 特選科は特別進学科以外とはすれ違うことさえ、殆どない。
 昼休憩の時間帯さえずれているし、専用のランチコーナーがあるから、そっちを利用する方が手っ取り早いので、わざわざ全生徒で溢れかえる食堂を利用することもあまりない。

 翔が成親と短い時間だけでも会うのはその約束をしているから。
 “会おう”という意思を持たなければ、接触することなんてないのだ。

「でも、放課後は、わかんねーじゃん? しょおくんだって、普通科のコと話してるし」
 そう、部活だけは話が別で。
 進学希望者の補講と終了時間が被れば部活帰りの者と出会いは珍しくない。

 だが。

「幸いあいつは帰宅部だからな。おまえが補講の時は俺だって受講してんだよ。だから絶対に会わせない」
 翔が睨みながら言った。
「ま、いいや。じゃあそうやって頑張って、ガードマンやってれば?」
「当然だ。あいつは俺が護る」
 言い切ったが、彬が不敵に嗤っているのが癪に障る。

「でもあのコが俺に惚れたら、俺の勝ちね」
「そんなことには、絶対ならない!」
「わかんねーじゃん? ほら、俺ってイケメンだから」
 言って、綺麗なウィンクを決めて見せる。

 本気で腹が立つ。
 が、翔の今までの人生に於いて、“人を殴る”ということをしたことがなく。
 拳がフルフルと震えるくらい苛立ちがそこに集中しているのに、それを繰り出すことはできなくて。

「関係ない! なるは俺に惚れてんだ! おまえなんかに絶対に靡かない!」
 言ってしまってから、気付く。
 自分の失敗に。

「ふーん、なる、ってのね。覚えとく」
 科が違えば、名前を聞き出すことなんてほぼ不可能。
 ましてや膨大な生徒数の普通科の中で部活にも何にも所属していない一生徒なんて、辿り着くわけがないと。
 だからずっと名前を出さないでいたのに。

 “しょーさんは肝心なトコ、ポンコツだよねー”という成親の声が頭に響いた。

「じゃ、今から勝負ってことで。しょおくん、ナイト、頑張ってねー」
 完全に、彬の空気に飲まれていた。

 翔は手をひらひらと振って消え去った彬を、ただただ拳を握りしめて見送ることしかできなかった。
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