Treasure of life

月那

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【5】Tiger’s-eye

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「じゃあ、とりあえず着替えてらっしゃい。御飯、玲子さんと準備してる間、双子たち見ててよ」
「ん。わかった。じゃあうーたんりっくん、ちょっと待ってて」
 双子が口々に「わーい」なんて言って小躍りしていて。
 翔は部屋に帰ってTシャツと短パンに着替えると、再び庭へと降りてきた。

「あ、これいいな」
 陸の持っていた水鉄砲は結構大き目のタンクが付いていて。中に水を満タンに入れると、
「うりゃ、うりゃ」
 ばしゅばしゅと勢いよく水が吐き出される。
 兄に水をかけられて喜んだ双子が、興奮して今度はやり返してきて。
 久しぶりに水遊びなんてやって楽しんでいると、今自分に降りかかっている汚いグダグダが洗い流されるようで。

 成親という癒しを失った今、日々惰性で勉強を続け、彬に誘われるがままに逸楽に耽る。
 表面的には全く以前と変わらない“優等生”の看板を掲げているけれど、中身なんて何もなくて。一番大切なものを見失ってただふらふらと彷徨っているだけの抜け殻でしかない。

 物理的には隣家という近くにいるから、成親の気配を感じることはある。
 たとえばさっきみたいに母たちが話していたり、庭で双子を遊ばせている成親を窓から見下ろしたり。
 翔の一番好きなふわふわの笑顔を目にすることだって、あるにはあるけれど。
 それは自分には向けられることがないから。

 いっそのことその存在が何も感じられない状況ならよかったのに、と思う。
 最初からいないものと思えれば、心がかき乱されることもない。
 姿や声がそこにあるから、その存在を感じられるから、余計にしんどい。
 あんなに傍にいたのに。自分を見て“しょーさん”と笑ってくれていた成親は、あんなにも自分だけのモノだったのに。

 手の中からこぼれ落ちた小さな、大切な宝石が。
 触れないのに、そこで光っているから。
 心の中の手が伸びる。拾い出したくて、手を伸ばすのに、絶対に届かない。
 数えきれない砂粒に紛れて、でも、確実にそこにある。

 どうすればいい? 
 どうしたらまた、自分の掌中に戻ってくれる?

 でも、どう考えてもそれは無理で。
 あんなにも傷付けたのに。
 護りたくて仕方なかったのに、護るどころが自分こそが傷付けてしまったのに。

 そんな自分に、陸が楽しそうに笑いながら銃口を向けた。
「ちねー」
 舌ったらずな言葉が可愛い。

「こら、りっくん。それは使っちゃダメな言葉だよ」
 小さなおにぎりを山のように積んだ大皿を持って現れた美香が、陸を窘めた。

 でも。
 翔にしてみれば、ほんとに殺してもらいたいくらいで。
 成親が味わった痛みを受けられるのなら、本当に同等の――いやそれ以上でもいいから――痛みを受けたいと思う。

「もお、どこでそーゆーこと、覚えてくんのよー」
「やーだ、美香ちゃん。そんなの可愛い可愛い。翔くんだってゆってたでしょー、昔は」
「そうだっけ?」美香が問いかける。
「そんなん、覚えてるわけねーじゃん」
 鼻で笑って。

 ピクニックのように、おにぎりとお弁当的な昼ご飯が用意され、庭に突き出たテラスに座ってみんなで食べ始めた。
 双子用に作られているおにぎりは小さくて、翔には一口サイズだけど実にカラフル。
それにうずら卵やウインナには顔が付いているし、どれもこれも母達が“可愛い”を全面にあしらっているから、双子が興味を示して一つずつ手にとっては翔に見せてくるし。
 それを口に入れられたり、逆に小さな口に放り込んだり。
 まさに、癒しの空間といった雰囲気に翔も浸る。

「なるもひどかったー。意味もわかんないくせに、くそがーとかゆーのよー。も、ほんと可愛いったら」
「男の子ってみんなそおなのかな?」
「そんなもん、そんなもん。それ乗り越えたら、いつの間にか普通の日本語喋ってんだもん。小憎らしいこともゆってくるしね」
「翔も、人の顔見たら“腹減った”だもんねー」
「わかる。男子中高生なんて、食欲でできてるもん」
 二人で盛り上がっているので、翔は苦笑した。

 ごめん、美香ちゃん。俺は性欲でできてるみたいだけど。
 なんて心の中で突っ込んでおいた。

「んじゃ、ごちそーさま。さすがにこれ以上遊んでるわけいかねーから、俺、戻るよ」
「えー。にいに、もうおしまい?」
「お勉強すんだら、また遊んでやるから。うーたんとイイコして遊んでな」
 陸の頬についていたご飯粒を摘まんで食べると、双子の頭をぐりぐりと撫でて自室へと戻った。
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