5 / 53
once upon a time
once upon a time -5-
しおりを挟む
その日のバイトは比較的暇だった。
大学近くのコンビニ。が、ルカのバイト先である。
ここ数年で再開発され、区画整理やバイパス開通などでこの周辺には新しく開店した店舗がいろいろある。
大学も、ルカの通うキャンパスに関してはその一環で新築された為、この近辺は「学園都市」と呼ばれる綺麗な街並みの一部となっているのだ。
このコンビニもルカが大学に入学する一月前にオープンしたばかりで、若い雇われ店長と隣の町にあった老舗系列店のオーナーがルカ達大学生をメインに集めた店なので、まだまだ接客なども不慣れな点もないとは言えないのだが、新しく綺麗な店というだけあって客受けも良く、割と人気の店である。
ただ、立地場所が大学前なのもあり、平日は夕方の来客もかなりの数であるが、土日になると学生も少なくなり、結果割と暇な状況が多い。
「いらっしゃいませー」
ドアが開く度、とりあえずマニュアル通りに言ってはいるが、作業は淡々と入荷された商品の陳列を続ける。
どうせレジでは店長がタバコの陳列に当たっているし、大量の客が押し寄せない限り、ルカの作業はそのまま続けていても構わない。
新作のスナック菓子を並べながら、ぼんやりとゆかりのことを思い出す。
七海を連れて離婚したゆかりは、もう六年程女手一つで一人娘を育てているキャリアウーマンだ。
そして美紅の親友であり、恩人であると昔から言いきかされている。
中学、高校と一緒に育って来たのだが、美紅が家庭の事情で道に逸れてしまった時に、誰よりもゆかりが美紅の傍にいたらしい。その事実が美紅の今現在の幸せな日々に繋がる原点であったと、美紅からは耳タコ状態で育っているルカは、ゆかりのことは半分神格化していたりもする。
そうやって美紅に洗脳されている部分も否めないのだが、ルカにとってはそれ以上にゆかりが大切で。
何となれば。
ゆかりはルカの初恋の相手であり、更に言うなら今もまだ好きな人だったりするわけで。
高校時代にはバスケ部で割と活躍していたので、そこそこ声はかけられていた方ではあるし、この年になるまで彼女がいなかったわけではない。が、それでも心の中に常にゆかりの存在があったのは事実で。
母が自分を産んだのは十八で、現在三十六という年齢である。その同級生なのだからゆかりも当然三十六という、自分から見れば相当年上の女性なのは十分わかっている。
が、キャリアウーマンとしてバリバリに社会に出ているせいか、所帯感が全くない彼女は三十行くか行かないかくらいにしか見えず、中学に上がる頃から雨後のタケノコの如く伸び始めた身長のせいでやたらと年上にみられるルカとは、そんなに差があるようには見えない。
しかも。
彼女は離婚しているのだ。
ほんのりと恋心を抱き始めた頃は、彼女にはダンナという存在があり、“誰かのもの”であることが前提であった為、高嶺の花という位置にしかいなかった。
しかし、とある事情で彼女が七海を連れて“広田由佳里”に戻った時から。
少しずつ自分の中の彼女の存在が大きくなっているのは自覚している。
とは言え、彼女にとっての自分が“息子”であることも十分わかっている。
けれど。
彼女が離婚騒動で心を痛めていた時、当時まだ幼かった娘達には話していない深い事情も、美紅とゆかりは自分にはきちんと話してくれた。
それは、自分のことを同じ目線で見てくれたからだと思うから。
美紅もそう思って、ゆかりを助けるための協力者として自分のことを認めてくれたのだと信じているから。
その頃から、少しずつ彼女がより大切な存在になってきたのだ。
ゆかりをこれ以上傷付けない。
ゆかりのことを大切に守っていく。
それは美紅と一緒に誓っている。美紅にとってのゆかりの存在がどれだけ大事なものかわかっているから、逆に自分もこの感情をゆかりには見せない。
彼女といる時は必ず“理性”という鎧を纏う。
無邪気な彼女に、自分の立ち位置をブレさせない為に。
軽はずみな言動で彼女を傷付けない為に。
大学近くのコンビニ。が、ルカのバイト先である。
ここ数年で再開発され、区画整理やバイパス開通などでこの周辺には新しく開店した店舗がいろいろある。
大学も、ルカの通うキャンパスに関してはその一環で新築された為、この近辺は「学園都市」と呼ばれる綺麗な街並みの一部となっているのだ。
このコンビニもルカが大学に入学する一月前にオープンしたばかりで、若い雇われ店長と隣の町にあった老舗系列店のオーナーがルカ達大学生をメインに集めた店なので、まだまだ接客なども不慣れな点もないとは言えないのだが、新しく綺麗な店というだけあって客受けも良く、割と人気の店である。
ただ、立地場所が大学前なのもあり、平日は夕方の来客もかなりの数であるが、土日になると学生も少なくなり、結果割と暇な状況が多い。
「いらっしゃいませー」
ドアが開く度、とりあえずマニュアル通りに言ってはいるが、作業は淡々と入荷された商品の陳列を続ける。
どうせレジでは店長がタバコの陳列に当たっているし、大量の客が押し寄せない限り、ルカの作業はそのまま続けていても構わない。
新作のスナック菓子を並べながら、ぼんやりとゆかりのことを思い出す。
七海を連れて離婚したゆかりは、もう六年程女手一つで一人娘を育てているキャリアウーマンだ。
そして美紅の親友であり、恩人であると昔から言いきかされている。
中学、高校と一緒に育って来たのだが、美紅が家庭の事情で道に逸れてしまった時に、誰よりもゆかりが美紅の傍にいたらしい。その事実が美紅の今現在の幸せな日々に繋がる原点であったと、美紅からは耳タコ状態で育っているルカは、ゆかりのことは半分神格化していたりもする。
そうやって美紅に洗脳されている部分も否めないのだが、ルカにとってはそれ以上にゆかりが大切で。
何となれば。
ゆかりはルカの初恋の相手であり、更に言うなら今もまだ好きな人だったりするわけで。
高校時代にはバスケ部で割と活躍していたので、そこそこ声はかけられていた方ではあるし、この年になるまで彼女がいなかったわけではない。が、それでも心の中に常にゆかりの存在があったのは事実で。
母が自分を産んだのは十八で、現在三十六という年齢である。その同級生なのだからゆかりも当然三十六という、自分から見れば相当年上の女性なのは十分わかっている。
が、キャリアウーマンとしてバリバリに社会に出ているせいか、所帯感が全くない彼女は三十行くか行かないかくらいにしか見えず、中学に上がる頃から雨後のタケノコの如く伸び始めた身長のせいでやたらと年上にみられるルカとは、そんなに差があるようには見えない。
しかも。
彼女は離婚しているのだ。
ほんのりと恋心を抱き始めた頃は、彼女にはダンナという存在があり、“誰かのもの”であることが前提であった為、高嶺の花という位置にしかいなかった。
しかし、とある事情で彼女が七海を連れて“広田由佳里”に戻った時から。
少しずつ自分の中の彼女の存在が大きくなっているのは自覚している。
とは言え、彼女にとっての自分が“息子”であることも十分わかっている。
けれど。
彼女が離婚騒動で心を痛めていた時、当時まだ幼かった娘達には話していない深い事情も、美紅とゆかりは自分にはきちんと話してくれた。
それは、自分のことを同じ目線で見てくれたからだと思うから。
美紅もそう思って、ゆかりを助けるための協力者として自分のことを認めてくれたのだと信じているから。
その頃から、少しずつ彼女がより大切な存在になってきたのだ。
ゆかりをこれ以上傷付けない。
ゆかりのことを大切に守っていく。
それは美紅と一緒に誓っている。美紅にとってのゆかりの存在がどれだけ大事なものかわかっているから、逆に自分もこの感情をゆかりには見せない。
彼女といる時は必ず“理性”という鎧を纏う。
無邪気な彼女に、自分の立ち位置をブレさせない為に。
軽はずみな言動で彼女を傷付けない為に。
0
あなたにおすすめの小説
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる