affection

月那

文字の大きさ
6 / 53
my girl

my girl -1-

しおりを挟む
 ゴールデンウイークも空け、いよいよ本格的に授業が始まると、予想以上に多忙な毎日が続くことになった。
 先輩からのアドバイスで、一年生の間に取れる単位はしっかり取っておこうと坂本とがっつり時間割を組んだのだが、一コマ目から四コマ目までほぼ毎日ぎっちり組んでしまった為、朝九時から午後四時四十五分まで学校にいることになり。しかも、バイトのシフトが入っている日は五時からバイト。バイトがなくてもサークルは活動しているから、その場合はそこからバスケ。
 こんな毎日を繰り返すことになり、高校中退で大学生に偏見を持っている美紅が、入学前には「大学生なんてヒマなんでしょ?」なんて鼻で笑っていたのだが、もはや「大学生って毎日忙しいのねー」と感心し始めて。
 自宅から通学しているので、朝八時過ぎには家を出る。自転車で三十分程の距離にある大学は、高校とは逆方向ではあるが、距離的には殆ど変わりなく、朝練なんてやっていた頃に較べればかなりのんびり登校できるのだが、とにかく夜は帰宅時間が完全不定期で。
 結果、朝食こそ美紅が用意してくれるが、夕食に関しては「いるかいらないのかわかんないもの用意する身になってよ! もうルカの分は作らないから勝手にしなさい」と言われ。
 高校を卒業したらそのまま就職する道もあった。
 中学卒業後の進学先に工業高校を選んだ時点でそのつもりでいたのだが、建築に関しての興味が、もう少し専門的なことを学びたいという気持ちになり。
 自宅通学と奨学金で学費を賄うという条件で大学進学を許された立場である。
 さすがに“小遣い”こそ貰わないけれど、家に入金できる状況でもないので、美紅の用意してくれる朝食だけでもありがたいと思わなければいけない。
 基本的に真面目人間であるルカとしては、毎日きっちりとすべきことが決まっていて、それを淡々とこなしていく日々は、それほど苦ではないのだが。
「俺、大学入ったらもうちょっと遊べると思ってた」
 バイト先こそ違うが、ほぼ毎日同じスケジュールで動いている坂本が、学食で日替わり定食を食べながら大きくため息をついた。
「絶対サークルは誤算だったよなー」
 先輩にラチられて、強引に入部させられたとは言え、元々バスケが好きだったルカとしては、それはそれとして楽しんでいるのだが。
「バスケは嫌いじゃないけどさー、うちって女子部員いなくね?」
「そりゃ、しょーがないじゃん。女子は別で女子バスケ部があるんだから」
 そう、坂本的にはこれが辛いらしい。
 男子バスケ部は本格的なバスケ部と、うちのお気楽サークルと二つあるのだが、女子バスケ部は本格的なバスケ部のみで。その本家バスケ部が、男子部と違ってガチ系じゃない分、部員の幅が広いのだ。故にお気楽サークルとしては「女子歓迎」なんて言っても女子は殆ど見向きもしてくれない。
 ただでさえ女子率は低い学校である。
 せめてサークルでの出会いなんてものを期待したいという坂本の気持ちもわからなくはないが。
「女子いないと出会いないじゃん!」
「こないだS大のコと合コンしたじゃん」
「誰からも連絡来ない」
「そりゃ……」
「みんなとライン交換したのに!」
 さすがー。マメだねえ。
 社交性抜群の坂本らしい発言に、ルカは苦笑した。
「でもさ、坂本。おまえ昔から好きな人いるってゆってるじゃん? その人とはどうなんだよ?」
「どーもこーもないよ」
「なんで? コクったりとかは?」
「無理。だって彼女結婚してるし」
「え?」
「あれ? 話したことないっけ?」
「ないない」
 坂本とは高校のバスケ部で出会った。
 ルカの方が背は高いが、中学時代からルカと同じくフォワードとしてプレイしていたという坂本とは話が合ってすぐに打ち解けた。
 元々人懐っこい性格の坂本がルカに声をかけてきたのが始まりだが、何しろ当時の話題はバスケか勉強のことばかりで。
「好きな人がいるってのは聞いてたよ。でも彼女もいたよな?」
 ルカが高校時代に一度彼女を作った時、その子の友人を紹介してお互いにカップル同士で出かけたこともあった。
「うん。けど昔から好きな人ってのはいるんだよ。でもこないだその人、結婚したし」
「結婚、かー。そりゃどうもしようがないね」
「だろー? わかってんだよ、それは。昔から。でも、何となく忘れられないっつーか」
 その気持ちはわかる。
「夢だよね、それは。だからさ、現実的に彼女が欲しいわけさ」
 いや、そこはわからん。
「え? だって、永久片想いだよ? だったら現実的には別に彼女作らないとってならない?」
「かなあ? でも俺、それやって失敗したけど」
 高校時代。ゆかりのことを好きな気持ちを抱えたまま、どうにもならないからとりあえずの彼女を作って。
 でも、ダメだった。
 気持ちが入っていない状態で付き合った彼女は、すぐにルカの真意に気付き、離れて行った。
「うん、まあそうなんだけど。でも、付き合ってるうちに忘れられるかなって思うし」
「そんなに都合良くはいかない、と思う」
 ルカの言葉に、坂本も口籠る。
 わかってはいるんだよね。それは。忘れないと次に進めないし、忘れる為に誰かを利用してもうまく行かないことは。
 だから、坂本は「モテたい」に逃げるし、自分はただひたすらに片想いを続けるわけで。
「ま、きっといつか出会えるんじゃないのかな?」
 ルカが希望を込めて言うと、
「いつかっていつだよ?」
 坂本に突っ込まれた。
「そんなの知らねーよ」
「今会いたいんだけどなー」
「じゃあまた合コン行けば?」
「だから時間がないんだっつの」
 正に堂々巡りである。
「でも次の合コンにはルカも来いよな」
「何で?」
「一緒にセイシュンしよーぜー」
「サムいこと言ってんじゃないよ。ほら、メシ食ったら次はF棟だ。ここから結構遠いんだから、行こうぜ」
「ルカが冷たいー」
「冷たくないー」
 まだ合コン、合コンとぼやいている坂本の腕を引き、学食を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...