13 / 53
situation
situation -2-
しおりを挟む
「佐竹……」
「っと、ごめんごめん。こんなことタイキ達に愚痴っても仕方ないんだった。はい、お茶、どーぞ」
重くなった空気を入れ替えるように、佐竹がエアコンを入れる。
「もう日中は暑いねー。クーラーなしだとサウナだね」
またいつものふわふわとした表情に戻った佐竹は、二人に冷たい麦茶を、これまた美しいガラスの湯飲みに容れて提供してくれる。
恐らく生まれついての上品な育ちが、佐竹の柔らかい雰囲気を作り上げているのだろう。
「そう言えば、二人は彼女いないの?」
雰囲気を変えようとして言った佐竹に、
「いないよー。もう何年も」と軽くルカが答えた。
「うそだー、ルカ、モテそうじゃん」
「モテませんって。何でどいつもこいつもそう言うかな? 俺全然モテないのに」
「背が高くてイケメンだもん、絶対彼女いると思ってた」
「だからイケメンじゃねーって。背が高いのは認めるけど、顔はすっげー平凡じゃん」
美紅には散々「ウドの大木」と言われ続けているし。
「ルカには昔から好きな人ってのがいるんだよな? 俺もまだ会ったことないから知らないけど、ずっとそう言ってる」
「それは坂本もじゃん」
「俺のはいいの、もうどうしようもないから。だから合コン行こうって誘ってるのに、ルカはいつも逃げるし」
「苦手なんだよ。坂本みたいに誰とでも話せるわけじゃないし」
「そう言えばルカって人見知りだよね。僕もそうだから人のこと言えないけど」
「そう。慣れないとなかなか喋れない。で、黙ってたら怖いって言われるしさ」
「大きいから?」
言って佐竹が笑った。
佐竹は百七十あるかないかくらいでそんなに大きい方ではない。
「いつからそんなに大きいの?」
「少なくとも高校で会った時は既に百八十近かったよな?」
「だっけ? 覚えてないけど、中学で七十五は超えてた。親父を越したのが高校入ってからだった気がするなー」
「お父さんが大きいんだ?」
「警察官やってるから、ガタイいいんだよ。身長も百八十越えだけど、体重も百キロ越えてる。まるで熊って感じ」
「凄い!」
そう、小さいゆかりがルカの父の横にいると完全に親子に見える。まあ、年齢も美紅たちより十歳年上だから、そう見えても不思議はないのだが。
「お母さんは?」
「美紅さんもすらっとしてるよね? ちょっとモデルっぽい雰囲気」
「そおかー? まあ、背は佐竹くらいはあるから、小さくはないけど」
「美紅さん、綺麗だしね」
「綺麗かなー? 若いとは思うけど、綺麗なんて思ったことねーし」
「綺麗じゃん。まだ三十代だし」
「若っ! なにそれ。ルカのこと十代で産んだって感じ?」
「うん、高校中退して十八で俺産んでるから、今三十六。親父は四十六だけど」
「あ、じゃあルカと並んでたら彼女に見えるんじゃない?」
佐竹が言うと、ルカがげんなりした表情を見せた。
「ないわー」
「んな嫌な顔しなくても」坂本が苦笑する。
美紅とは親子というよりは友人に近い感覚があるから、実際親子に見られないこともなくはない。が、少なくとも絶対に彼女にはしたくないタイプの女で。
「だってさー。美紅って元ヤンだぜ? 俺がヤンキー嫌いなの坂本が一番知ってるだろ」
父親譲りの真面目人間である。
勿論今現在の美紅が“ヤンキー”感を消しているのはわかっているが、それでも過去の話を知っている以上、一番関わりたくないタイプの人間なのだ。
母だけど。
「え? 待って。お父さん警察官でしょ? 何で元ヤンと警察官が結婚してんの? あり得なくない?」
「あり得なくないんだよ。だって、美紅を親父が補導したのが出逢いなんだから」
「うわ、そりゃ凄い出逢いだね」
「ま、あの人たちにはあの人たちなりにドラマがあるらしいからね」
言ってお茶を飲み干した。
そう、本当にドラマがあったのだ。そのドラマにはゆかりも重要人物として関わっていて、だからこそ美紅にとってのゆかりが“大恩人”なのだから。
「……ルカって面白いねえ」
佐竹が感心したように言うと、坂本が「だろ、だろ」と共感を示した。
「何が面白いんだか。俺は到って真面目な人間ですよ。なーんのドラマもない凡人です」
「そうかなあ。ルカにもドラマありそうだけど」
「そのうち何かやらかしてくれるんじゃないか?」
「何かって何? そんなことより試合観ようぜー」
そう言って、本題の試合観戦となり、学校を出る頃に注文していたピザも届き、結局午後の授業が始まるギリギリまで佐竹の家でのんびり過ごした。
「っと、ごめんごめん。こんなことタイキ達に愚痴っても仕方ないんだった。はい、お茶、どーぞ」
重くなった空気を入れ替えるように、佐竹がエアコンを入れる。
「もう日中は暑いねー。クーラーなしだとサウナだね」
またいつものふわふわとした表情に戻った佐竹は、二人に冷たい麦茶を、これまた美しいガラスの湯飲みに容れて提供してくれる。
恐らく生まれついての上品な育ちが、佐竹の柔らかい雰囲気を作り上げているのだろう。
「そう言えば、二人は彼女いないの?」
雰囲気を変えようとして言った佐竹に、
「いないよー。もう何年も」と軽くルカが答えた。
「うそだー、ルカ、モテそうじゃん」
「モテませんって。何でどいつもこいつもそう言うかな? 俺全然モテないのに」
「背が高くてイケメンだもん、絶対彼女いると思ってた」
「だからイケメンじゃねーって。背が高いのは認めるけど、顔はすっげー平凡じゃん」
美紅には散々「ウドの大木」と言われ続けているし。
「ルカには昔から好きな人ってのがいるんだよな? 俺もまだ会ったことないから知らないけど、ずっとそう言ってる」
「それは坂本もじゃん」
「俺のはいいの、もうどうしようもないから。だから合コン行こうって誘ってるのに、ルカはいつも逃げるし」
「苦手なんだよ。坂本みたいに誰とでも話せるわけじゃないし」
「そう言えばルカって人見知りだよね。僕もそうだから人のこと言えないけど」
「そう。慣れないとなかなか喋れない。で、黙ってたら怖いって言われるしさ」
「大きいから?」
言って佐竹が笑った。
佐竹は百七十あるかないかくらいでそんなに大きい方ではない。
「いつからそんなに大きいの?」
「少なくとも高校で会った時は既に百八十近かったよな?」
「だっけ? 覚えてないけど、中学で七十五は超えてた。親父を越したのが高校入ってからだった気がするなー」
「お父さんが大きいんだ?」
「警察官やってるから、ガタイいいんだよ。身長も百八十越えだけど、体重も百キロ越えてる。まるで熊って感じ」
「凄い!」
そう、小さいゆかりがルカの父の横にいると完全に親子に見える。まあ、年齢も美紅たちより十歳年上だから、そう見えても不思議はないのだが。
「お母さんは?」
「美紅さんもすらっとしてるよね? ちょっとモデルっぽい雰囲気」
「そおかー? まあ、背は佐竹くらいはあるから、小さくはないけど」
「美紅さん、綺麗だしね」
「綺麗かなー? 若いとは思うけど、綺麗なんて思ったことねーし」
「綺麗じゃん。まだ三十代だし」
「若っ! なにそれ。ルカのこと十代で産んだって感じ?」
「うん、高校中退して十八で俺産んでるから、今三十六。親父は四十六だけど」
「あ、じゃあルカと並んでたら彼女に見えるんじゃない?」
佐竹が言うと、ルカがげんなりした表情を見せた。
「ないわー」
「んな嫌な顔しなくても」坂本が苦笑する。
美紅とは親子というよりは友人に近い感覚があるから、実際親子に見られないこともなくはない。が、少なくとも絶対に彼女にはしたくないタイプの女で。
「だってさー。美紅って元ヤンだぜ? 俺がヤンキー嫌いなの坂本が一番知ってるだろ」
父親譲りの真面目人間である。
勿論今現在の美紅が“ヤンキー”感を消しているのはわかっているが、それでも過去の話を知っている以上、一番関わりたくないタイプの人間なのだ。
母だけど。
「え? 待って。お父さん警察官でしょ? 何で元ヤンと警察官が結婚してんの? あり得なくない?」
「あり得なくないんだよ。だって、美紅を親父が補導したのが出逢いなんだから」
「うわ、そりゃ凄い出逢いだね」
「ま、あの人たちにはあの人たちなりにドラマがあるらしいからね」
言ってお茶を飲み干した。
そう、本当にドラマがあったのだ。そのドラマにはゆかりも重要人物として関わっていて、だからこそ美紅にとってのゆかりが“大恩人”なのだから。
「……ルカって面白いねえ」
佐竹が感心したように言うと、坂本が「だろ、だろ」と共感を示した。
「何が面白いんだか。俺は到って真面目な人間ですよ。なーんのドラマもない凡人です」
「そうかなあ。ルカにもドラマありそうだけど」
「そのうち何かやらかしてくれるんじゃないか?」
「何かって何? そんなことより試合観ようぜー」
そう言って、本題の試合観戦となり、学校を出る頃に注文していたピザも届き、結局午後の授業が始まるギリギリまで佐竹の家でのんびり過ごした。
0
あなたにおすすめの小説
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる