22 / 53
手、繋ごう
手、繋ごう -2-
しおりを挟む
「ルカ!」
と、二人で歩いている真正面から名前を呼ばれて、愕然とする。
にやり、と笑っているのは坂本だ。
「彼女?」
「…………」
「はーい、るーちゃんの彼女でーす」
どう答えていいかわからず黙っていたルカの横で、ゆかりがあっけらかんと答えた。
「ちょ、ちょっとゆかりちゃん!」
「あ、ダメだった?」
「いや、ダメじゃないけど」
むしろ嬉しいけど。
「何でおまえがここにいるんだよ?」
照れ隠しに少しとムっとしながら坂本に問う。
ご町内の小さなお祭り、である。
高校は同じだけれど、全くご近所ではない坂本がなぜこんなところにいるのか、がルカには納得できず。
「ああ、佐竹が教えてくれたんだよ」
「佐竹?」
「なんか、友達と一緒にタウン誌でこの祭りの情報知ったらしくて。サークル終わってから一緒に来たんだよ」
「佐竹と二人で?」
「いや、佐竹の友達何人かと。向こうのイートスペースで今メシ食ってる」
どうもー、とゆかりに笑いかけて、ルカの腕を引き、コッソリと「例の彼女?」と耳打ちされた。
小さく頷くと。
「今度詳しく聞かせろよ」
と背中を叩かれる。
「じゃあな、ルカ。すみませーん、お邪魔しましたー」
坂本が言い捨てて逃げるように去って行った。
「あー、彼女になったら、マズかったかな?」
その背に笑顔で手を振っていたゆかりが、ちょっと困ったように問いかけて来た。
「いや、別に大丈夫だけど」
「ごめんね」
「いやいや、全然謝ることないよ。あいつ、高校の時からの連れだし、何も気にすることないから」
「バスケ部? るーちゃんと一緒に試合出てた?」
「うん、三年の時はずっと。そう言えば観に来てくれてたから、覚えてるかな? ほら、副キャプだったから五番付けてた奴」
「あー……何となく?」
ちょっと苦笑い。
「そんなに何度も観に行けてないし、るーちゃんしか見てなかったもん」
「結構ガンガン突っ込んで行くタイプだから、目立ってたハズなんだけど」
「るーちゃんのがかっこ良かったもん」
……またそういう。
わかってんのかな、この人、自分が何を言ってるのか。
ゆかりの言葉を流すように鼻で笑って、アリガトウゴザイマス、と答えた。
「大学も、バスケやってるんでしょ? 試合とかないの?」
「あまりゴリゴリにやるサークルじゃないからね。大会とかは出ないけど、ヨソの大学のサークルと交流試合とかはしてるよ」
「あたしが応援に行けるような雰囲気じゃないのかな?」
「え、観たい?」
「観たいよー。中学も、高校も、あたしできるだけ応援行ってたじゃん」
「でも負けてる試合ばっかだったよね」
「そうなのよー。あたしが行くと負けちゃう。美紅が行ってる時はいっぱい勝ってるのに。ちょっとヘコんじゃったよ」
口をとがらせて。そんな表情も可愛くて。
「美紅は来てるとすぐわかったよ。あいつちょーうるせーし。でもゆかりちゃん、コッソリ来てコッソリ帰っちゃうから、後からライン見てびっくりしてた」
「そりゃー、あんまり堂々とは行きづらいよ。関係者じゃないし」
「いや、関係者でしょ。半分保護者みたいなもんだし」
自分で言ってて自分で少しへこむ。という。
「いいの。コッソリ陰から応援するのがまた醍醐味だからね」
「何それ?」
「ふふふふふ、あたしの知らないるーちゃんをコッソリ探っちゃえるからね」
「怖いんですけど」
そんなくだらない話でさえ、まるで本当に「彼女」のように話してくれるゆかりが嬉しくて。
結局、その日は近くの居酒屋に寄ってから帰宅となり(勿論ゆかりはビールで)、ルカがゆかりを車ごと送り届けたのだった。
と、二人で歩いている真正面から名前を呼ばれて、愕然とする。
にやり、と笑っているのは坂本だ。
「彼女?」
「…………」
「はーい、るーちゃんの彼女でーす」
どう答えていいかわからず黙っていたルカの横で、ゆかりがあっけらかんと答えた。
「ちょ、ちょっとゆかりちゃん!」
「あ、ダメだった?」
「いや、ダメじゃないけど」
むしろ嬉しいけど。
「何でおまえがここにいるんだよ?」
照れ隠しに少しとムっとしながら坂本に問う。
ご町内の小さなお祭り、である。
高校は同じだけれど、全くご近所ではない坂本がなぜこんなところにいるのか、がルカには納得できず。
「ああ、佐竹が教えてくれたんだよ」
「佐竹?」
「なんか、友達と一緒にタウン誌でこの祭りの情報知ったらしくて。サークル終わってから一緒に来たんだよ」
「佐竹と二人で?」
「いや、佐竹の友達何人かと。向こうのイートスペースで今メシ食ってる」
どうもー、とゆかりに笑いかけて、ルカの腕を引き、コッソリと「例の彼女?」と耳打ちされた。
小さく頷くと。
「今度詳しく聞かせろよ」
と背中を叩かれる。
「じゃあな、ルカ。すみませーん、お邪魔しましたー」
坂本が言い捨てて逃げるように去って行った。
「あー、彼女になったら、マズかったかな?」
その背に笑顔で手を振っていたゆかりが、ちょっと困ったように問いかけて来た。
「いや、別に大丈夫だけど」
「ごめんね」
「いやいや、全然謝ることないよ。あいつ、高校の時からの連れだし、何も気にすることないから」
「バスケ部? るーちゃんと一緒に試合出てた?」
「うん、三年の時はずっと。そう言えば観に来てくれてたから、覚えてるかな? ほら、副キャプだったから五番付けてた奴」
「あー……何となく?」
ちょっと苦笑い。
「そんなに何度も観に行けてないし、るーちゃんしか見てなかったもん」
「結構ガンガン突っ込んで行くタイプだから、目立ってたハズなんだけど」
「るーちゃんのがかっこ良かったもん」
……またそういう。
わかってんのかな、この人、自分が何を言ってるのか。
ゆかりの言葉を流すように鼻で笑って、アリガトウゴザイマス、と答えた。
「大学も、バスケやってるんでしょ? 試合とかないの?」
「あまりゴリゴリにやるサークルじゃないからね。大会とかは出ないけど、ヨソの大学のサークルと交流試合とかはしてるよ」
「あたしが応援に行けるような雰囲気じゃないのかな?」
「え、観たい?」
「観たいよー。中学も、高校も、あたしできるだけ応援行ってたじゃん」
「でも負けてる試合ばっかだったよね」
「そうなのよー。あたしが行くと負けちゃう。美紅が行ってる時はいっぱい勝ってるのに。ちょっとヘコんじゃったよ」
口をとがらせて。そんな表情も可愛くて。
「美紅は来てるとすぐわかったよ。あいつちょーうるせーし。でもゆかりちゃん、コッソリ来てコッソリ帰っちゃうから、後からライン見てびっくりしてた」
「そりゃー、あんまり堂々とは行きづらいよ。関係者じゃないし」
「いや、関係者でしょ。半分保護者みたいなもんだし」
自分で言ってて自分で少しへこむ。という。
「いいの。コッソリ陰から応援するのがまた醍醐味だからね」
「何それ?」
「ふふふふふ、あたしの知らないるーちゃんをコッソリ探っちゃえるからね」
「怖いんですけど」
そんなくだらない話でさえ、まるで本当に「彼女」のように話してくれるゆかりが嬉しくて。
結局、その日は近くの居酒屋に寄ってから帰宅となり(勿論ゆかりはビールで)、ルカがゆかりを車ごと送り届けたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる