affection

月那

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手、繋ごう

手、繋ごう -1-

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 白地に淡い紫色の花柄。
 そんな大人らしいシックな浴衣なのに、赤い帯のせいかゆかりはかなり華やいで見えて。
 お祭りデート。なんてシチュエーションに完全に舞い上がってしまったルカは、散々悩んだ挙句、いつもと変わりないスポーツブランドのタンクトップに半そでシャツを羽織って下はラフな七分丈パンツという、子供っぽい恰好になってしまっていた。
「お待たせー」
 駐車場に車を停めて、降りてきたゆかりに見惚れてしまっていたルカに、ゆかりはいつもと変わらず無邪気にハグ。
 ただ。
 たった今、シャワーを浴びて浴衣に着替えました、という爽やかな石鹸の香りを感じた瞬間、理性が飛んでしまいそうになり、慌ててゆかりを引き剥がした。
「? どしたの?」
 少し赤くなってしまっている自分を、なんとか鎮めて。
「なんでもない、デス。あ、下駄、痛くない?」
「大丈夫よー。もう何年も履いてるから、慣れてるしね。それよか、るーちゃんは浴衣、着ないの?」
 慣れている、とは言っているが、そうは言ってもいつもの速度で歩かせるわけにはいかないので、いつも以上にゆっくりと隣を歩く。
 お祭りのメイン会場はルカの自宅から歩いて十分程の場所にある。
「持ってないし、着れないし」
 そう、冷静に考えて浴衣なんて持っていませんでした。
「そっかー。ちっちゃい時は着てたのにね」
「そんな昔の記憶はさすがにないよ」
 ルカの答えにゆかりがいつものようにクスクス笑って。
「この道、歩くの久しぶりだなー」
「俺も。小学校時代は通学路だったけど」
「中学はみんな大通りから行く方が早いもんねえ」
「高校は逆方向だし」
「いつも、お祭りの時しか通らない気がする」
「ゆかりちゃん、毎年行ってる?」
「ほぼ毎年。七海が行きたがるし。まあ小学校も高学年になってからはお友達と行くし、あたしは美紅と行ってるんだけどね」
 会場が近づくと、出店も増えてきて。それに伴って、通行客も増えてきたので、ゆかりがルカのシャツの裾を掴んだ。
「手、繋ぐ?」
 思わず、口から出た言葉に、自分でも驚いた。
「ありがと」
 おまけに、そんな自分より、何の躊躇もなくさらりと言って手を繋いでくれたゆかりのせいで、更に鼓動がスピードアップする。
 感情が、理性を追い越そうとする。
 けれど、ゆかりの何気ない笑顔に、自分の立ち位置を思い知る。
 きっと、三歳児のルカと、変わりないのだろう。と。
 内心頭を振って理性を呼び戻した。
「俺、もう何年も来てないけど、昔と変わらない感じ?」
 何とか、さりげない会話で冷静さを取り戻す。
「ううん、変わってるよー。最近はね、あじさいがライトアップされてるんだよ。ほら、前は暗くなっちゃうと誰もあじさい見てくれなかったでしょ? それじゃあお花がかわいそうじゃない。だから、協賛してるお店でライトアップするようにしたんだって」
 境内を人込みに流されるように進んで行くと、既に薄暗くなっている中、色とりどりのあじさいがライトアップされていた。
 まだ暗闇というほどではないので、中には携帯やカメラで写真を撮っている人も沢山いて、人波はゆっくりと進む。
 時々、ゆかりが「あの色、好き」なんて言って立ち止まるので、ルカも一緒に携帯で撮ってみたり。
 調子に乗ってツーショットを撮っても、ゆかりはにこにこと笑ってくれた。
「るーちゃん、あじさい見終わったらどっかにご飯食べに行く? ななは今日はお泊りってゆってたし、急いで帰らなくても大丈夫だよ」
「え、出店で何か買って食べない? 俺、ちゃんと出すし」
「ははは、そんなの気にしなくていいけど。お腹一杯にはなんないでしょ?」
「焼きそばとか、たこ焼きとか」
「うん、そーゆーのも、食べよう。何なら金魚すくいとかもやっちゃう?」
「生き物は美紅に怒られそうだからなー」
「じゃあ、射的で何か取ってよ」
 ゆかりのリクエストに応えて、射的を二人で。
 財布を出して二人分払おうとしたら、ゆかりはそこは引いてくれた。男のプライドって奴をわかっているみたいで、やっぱりオトナだなーと感心して。
 ルカは全弾当てることができなかったけれど、ゆかりは小さな人形にヒット。
「おお! 当たったねー。彼女さん、グッジョブ!」
「わーい。るーちゃん、ね、凄い?」
「凄い、凄い。やったじゃん」
 思った以上にはしゃいでいるゆかりが可愛くて、もうそれが当たり前のように、手を繋いだまま祭りを楽しんでいた。
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