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近付きたい
近付きたい -4-
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「おかえりー、今日もバイト? お疲れ様」
いつものくせで帰宅後そのままリビングの扉を開けると、美紅ではなくゆかりが迎えてくれた。
玄関開けて、そのまま階段を上がってしまえば二階の自室へ行けるのだが、子供の頃から、必ずリビングに一度顔を出してから、というのがくせになっていて。
「来てたんだ? ななちゃんのお迎え? にしては結構遅い時間だけど」
基本的に残業はあまりしない方向で仕事をしているのがゆかりのポリシーで。
けれども月に数日仕事が立て込むと、ある程度残らないと立ち行かないらしく、そんな時は七海が清華と一緒に田所家に帰宅する。そしてゆかりが七海を迎えに来て、自宅へと帰って行くのだ。
「それもあるけど。ほら、今中学校期末試験だからさー」
「ゆかりに家庭教師してもらってんの。清華数学苦手だから」
言われてみればそんな時期だっけ?
「試験自体は明日と明後日だけなんだけど、今週は部活ないから帰って来るの早いし、ついでに七海がさやちゃんと試験勉強してるの」
「ルカが早く帰って来たら、教えてあげてって言うんだけど。ほら、あんたいつもバイトあるから」
「俺、教えるの苦手」
「またそーやって逃げる。しょーがないからゆかりに頼んだのよ。ついでに教えてやってって」
「あたしだって教えるの下手だよー。るーちゃんが教えてあげたらいいのに」
「いや、清華は俺が教えると逃げるから」
どうも兄に対する甘えなのか、「わかんないもん」と逃げていく。面倒くさいので清華の勉強に関しては完全無視。
「で、当人たちは?」
「今お風呂よ。さっきご飯食べて、もう帰ったら寝るだけにしとくんだって」
「また二人で入ってんの? あいつらほんと仲いいなー」
美紅の答えにルカが呆れたように言うと、
「完全に双子だよね」
ゆかりがそう、嬉しそうに笑った。
「あ、そうそう。明後日二人とも浴衣着たいって話してたけど、七海の着付けもお義母さんにお願いしていいのかな?」
と、ふと思い出したように話が変わった。
「いいよー。もう話しておいた。学校から帰ったら浴衣持ってうちにおいでって言っといたから、七海の浴衣だけ用意しといてね。ゆかり、仕事でしょ?」
「うん、多分帰るの七時くらいだから」
「試験終わりだから部活ないし、五時半くらいには二人とも帰って来るし、着替えたら早く行きたがるんじゃないかな?」
「だよねー」
「浴衣って?」
二人の会話にルカが突っ込んだ。
「ほら、明後日“あじさい祭り”があるでしょ? お友達何人かで浴衣着て遊びに行くんだって。それを励みに試験勉強頑張ってるから、二人とも」
ゆかりの答えに、言われてみればそんな季節だな、と思い出す。
近所のお寺で毎年この時期にある“あじさい祭り”は、そんなに大きな祭りではないが、地元のみんなが楽しみにしている夏の始まりを知らせるようなもので。
ルカも子供の頃はよく友達と出かけていたが、ここ数年は部活もあるし、何より彼女無しで野郎同士で行くのも気が引けて。なのでルカとしては気にも留めていなかった。
「るーちゃんは? 誰かと行くの?」
「行かないねえ」
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲みながら答えた。
「え、何で? 子供の頃行ってたよね?」
「中学まではね。高校入ってからは部活で忙しかったし、今年も特に一緒に行くような連れもいないし」
「坂本くんと行けば?」
美紅に言われて鼻で笑った。
「野郎と二人ってサムいじゃん」
「そーゆーもん?」
「そーゆーもんです」
女子なら群れてても可愛いけど、この年で野郎ばっかでお祭りは、ちょっとイタい。
「じゃあるーちゃん、あたしと行く?」
突然ゆかりが言い出した。
「美紅も今年は田所さんとデートするみたいだし、あたしも仕事はあるけど七時には帰ってるよ?」
「ゆかり、ルカ連れてったらこいつ、たかるよ?」
「いいよー。るーちゃんとデートできるならおごっちゃう」
またそういう、こっちの下心を擽る発言を無邪気にするし!
「ね、美紅、るーちゃん借りてもいい?」
「こんなんで良ければどーぞ、どーぞー」
「いや、俺の意思は?」
「えー嫌なのー?」
わざとらしく悲しそうな表情なんてしてくるし。
「……行かせてイタダキマス」
「わーい、るーちゃんとデートだー。じゃああたしも浴衣着ちゃおっかなー」
「あれ? ゆかり着れたっけ?」
「着れるよ! 大人だもん」
「お義母さんに頼まなくていい?」
「えー、美紅は着ないの?」
「私はいいよ、めんどくさいし」
「何でよー? 田所さんとデートでしょ?」
「デートって。久々に二人で行こうって話してるだけよ」
「デートじゃん! 着ちゃいなよー」
二人でやいのやいのはしゃいでいるが。ルカは内心動揺していた。
いや、渡りに船、というか棚から牡丹餅、というか。
こんなオイシイ話があっていいのか?
だって。浴衣のゆかりとお祭りデート、なんて! 想像もしていなかったシチュエーションで。
と。冷静になって金曜日のシフトを思い出す。
うん、たしか大丈夫だ。空いていたから坂本とサークルに顔出そうって話をしていた気がする。
いや、たとえシフトが入っていたとしても、絶対に何とかするけど!
え、何着て行こう? 浴衣? いやそれじゃあ気合入り過ぎだろ。いつも通りで。
っていつも通りってどんな?
「じゃあるーちゃん、明後日会社終わったらライン入れるね。そこから帰って、着替えたらここに来るから、車置かせて貰うね、美紅」
一人、頭の中でぐるぐると考えている間に、ゆかりがさらりと笑って、お風呂から出てきた七海を連れて帰っていった。
いつものくせで帰宅後そのままリビングの扉を開けると、美紅ではなくゆかりが迎えてくれた。
玄関開けて、そのまま階段を上がってしまえば二階の自室へ行けるのだが、子供の頃から、必ずリビングに一度顔を出してから、というのがくせになっていて。
「来てたんだ? ななちゃんのお迎え? にしては結構遅い時間だけど」
基本的に残業はあまりしない方向で仕事をしているのがゆかりのポリシーで。
けれども月に数日仕事が立て込むと、ある程度残らないと立ち行かないらしく、そんな時は七海が清華と一緒に田所家に帰宅する。そしてゆかりが七海を迎えに来て、自宅へと帰って行くのだ。
「それもあるけど。ほら、今中学校期末試験だからさー」
「ゆかりに家庭教師してもらってんの。清華数学苦手だから」
言われてみればそんな時期だっけ?
「試験自体は明日と明後日だけなんだけど、今週は部活ないから帰って来るの早いし、ついでに七海がさやちゃんと試験勉強してるの」
「ルカが早く帰って来たら、教えてあげてって言うんだけど。ほら、あんたいつもバイトあるから」
「俺、教えるの苦手」
「またそーやって逃げる。しょーがないからゆかりに頼んだのよ。ついでに教えてやってって」
「あたしだって教えるの下手だよー。るーちゃんが教えてあげたらいいのに」
「いや、清華は俺が教えると逃げるから」
どうも兄に対する甘えなのか、「わかんないもん」と逃げていく。面倒くさいので清華の勉強に関しては完全無視。
「で、当人たちは?」
「今お風呂よ。さっきご飯食べて、もう帰ったら寝るだけにしとくんだって」
「また二人で入ってんの? あいつらほんと仲いいなー」
美紅の答えにルカが呆れたように言うと、
「完全に双子だよね」
ゆかりがそう、嬉しそうに笑った。
「あ、そうそう。明後日二人とも浴衣着たいって話してたけど、七海の着付けもお義母さんにお願いしていいのかな?」
と、ふと思い出したように話が変わった。
「いいよー。もう話しておいた。学校から帰ったら浴衣持ってうちにおいでって言っといたから、七海の浴衣だけ用意しといてね。ゆかり、仕事でしょ?」
「うん、多分帰るの七時くらいだから」
「試験終わりだから部活ないし、五時半くらいには二人とも帰って来るし、着替えたら早く行きたがるんじゃないかな?」
「だよねー」
「浴衣って?」
二人の会話にルカが突っ込んだ。
「ほら、明後日“あじさい祭り”があるでしょ? お友達何人かで浴衣着て遊びに行くんだって。それを励みに試験勉強頑張ってるから、二人とも」
ゆかりの答えに、言われてみればそんな季節だな、と思い出す。
近所のお寺で毎年この時期にある“あじさい祭り”は、そんなに大きな祭りではないが、地元のみんなが楽しみにしている夏の始まりを知らせるようなもので。
ルカも子供の頃はよく友達と出かけていたが、ここ数年は部活もあるし、何より彼女無しで野郎同士で行くのも気が引けて。なのでルカとしては気にも留めていなかった。
「るーちゃんは? 誰かと行くの?」
「行かないねえ」
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲みながら答えた。
「え、何で? 子供の頃行ってたよね?」
「中学まではね。高校入ってからは部活で忙しかったし、今年も特に一緒に行くような連れもいないし」
「坂本くんと行けば?」
美紅に言われて鼻で笑った。
「野郎と二人ってサムいじゃん」
「そーゆーもん?」
「そーゆーもんです」
女子なら群れてても可愛いけど、この年で野郎ばっかでお祭りは、ちょっとイタい。
「じゃあるーちゃん、あたしと行く?」
突然ゆかりが言い出した。
「美紅も今年は田所さんとデートするみたいだし、あたしも仕事はあるけど七時には帰ってるよ?」
「ゆかり、ルカ連れてったらこいつ、たかるよ?」
「いいよー。るーちゃんとデートできるならおごっちゃう」
またそういう、こっちの下心を擽る発言を無邪気にするし!
「ね、美紅、るーちゃん借りてもいい?」
「こんなんで良ければどーぞ、どーぞー」
「いや、俺の意思は?」
「えー嫌なのー?」
わざとらしく悲しそうな表情なんてしてくるし。
「……行かせてイタダキマス」
「わーい、るーちゃんとデートだー。じゃああたしも浴衣着ちゃおっかなー」
「あれ? ゆかり着れたっけ?」
「着れるよ! 大人だもん」
「お義母さんに頼まなくていい?」
「えー、美紅は着ないの?」
「私はいいよ、めんどくさいし」
「何でよー? 田所さんとデートでしょ?」
「デートって。久々に二人で行こうって話してるだけよ」
「デートじゃん! 着ちゃいなよー」
二人でやいのやいのはしゃいでいるが。ルカは内心動揺していた。
いや、渡りに船、というか棚から牡丹餅、というか。
こんなオイシイ話があっていいのか?
だって。浴衣のゆかりとお祭りデート、なんて! 想像もしていなかったシチュエーションで。
と。冷静になって金曜日のシフトを思い出す。
うん、たしか大丈夫だ。空いていたから坂本とサークルに顔出そうって話をしていた気がする。
いや、たとえシフトが入っていたとしても、絶対に何とかするけど!
え、何着て行こう? 浴衣? いやそれじゃあ気合入り過ぎだろ。いつも通りで。
っていつも通りってどんな?
「じゃあるーちゃん、明後日会社終わったらライン入れるね。そこから帰って、着替えたらここに来るから、車置かせて貰うね、美紅」
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