31 / 53
deep end
deep end -5-
しおりを挟む
旅館はなかなか豪華だった。
海水浴場から車で十分程内陸に向かった先にあったのだが、海水浴客狙いの旅館のようで、ロビー横の売店には浮輪や水着なども売られている。
「部屋は、ツインが男部屋で和室が私達女の子部屋だから」
「女の子ってあんた」
「オンナノコ部屋だから!」
揚げ足取りに突っ込んだルカを一睨みした美紅が語気を強めて言い直して。
「お風呂入ってー、七時に夕食ね。二階の“雲海”ってお部屋だって。るーちゃんと田所さんも七時に“雲海”に来てね」
もう、何もかも美紅とゆかり仕切りで総て決まっているようで。
「遅刻したら夕飯ないから」
「はいはい。あ、温泉だっけ?」
「うん。源泉かけ流しってゆってたよ。二十四時間いつでも入れるらしいから、ご飯の後も入りに行っていいし」
「ゆかり、ご飯の後はラウンジで一緒に飲もうよー」
「いいねー」
朝まで飲む気だな、と親父と目を合わせて。
とりあえず、海上りの体を洗い流したいのもあり、それぞれの部屋に入ってから温泉へと向かった。
「さて、と。風呂はどこだっけ?」
和室のあるフロアとルカ達のツインルームのあるフロアが別だったので、父と二人で部屋に荷物だけ投げて大浴場を目指す。
「一階まで下りて、別館にあるらしいよ」
「温泉なんて久しぶりだな」
「小学校の頃はよく行ってたよね」
「おまえ、小さい頃からサウナ好きだったもんな」
「そうそう。でも場所によっては小学生はダメとか言われてへこんでた」
あまり、父親とゆっくり話すことなんてないから。珍しくそんな昔話なんてしながら。
大浴場は、まだそんなに人はいなくて。
日本庭園的な露天風呂で、ぼーっと二人で温まる。
「……さやとか、七海ちゃんには、もうカレシとかがいるのかな?」
ぼそ、と親父の呟きが聞こえて驚く。
「え、まだ中学生だろ?」
「だよなー。まだ、いないよなー」
「と思うけど」
「いや、可愛いだろ、あの二人」
「……ですかね?」
「可愛いんだよ。だからほんと、変なムシが付かないか、心配で」
「今はやたらと部活やってるし、そんなのはないと思うけど」
「部活はでも、男の子もいるだろ?」
「そりゃ、いるだろうけど。そんなに心配しなくてもよくね?」
「心配するんだよ。おまえ、心配じゃないの? 清華に彼氏とか、そんなの想像するだけで頭に来るけど」
「親バカだね」
「親バカになるよ。当たり前だろ」
「俺は?」
「おまえは勝手にすりゃいいじゃん」
でしょうね。
「ゆかりちゃんが好きなんだろ?」
「!」
美紅か! 美紅が言ったのか?
「見てればわかる」
……そんな、だろうか?
少し、反省。まさか親父にまで言われるとは。
「何だろうね、年上が好きってのは。まあ、ママも年上の俺と結婚してるし、そこはママに似たんだろうねえ」
「……かなあ?」
「ゆかりちゃん、可愛いからね。あの子は昔から賢い子だったし。お前の手に負える子じゃないだろうけど」
親父も、その意見ですか。
がっくり、くる。当たり前だけど。ほんとにゆかりは“高嶺の花”だから。
「ま、それでもお前が成長するには、ゆかりちゃんもいいのかもしれないけど」
「美紅にも言われた」
「うん、遊んでもらえば?」
「…………」
どういう夫婦だよ、二人揃って!
「さて、と。腹も減ったしそろそろ上がろう」
海水浴場から車で十分程内陸に向かった先にあったのだが、海水浴客狙いの旅館のようで、ロビー横の売店には浮輪や水着なども売られている。
「部屋は、ツインが男部屋で和室が私達女の子部屋だから」
「女の子ってあんた」
「オンナノコ部屋だから!」
揚げ足取りに突っ込んだルカを一睨みした美紅が語気を強めて言い直して。
「お風呂入ってー、七時に夕食ね。二階の“雲海”ってお部屋だって。るーちゃんと田所さんも七時に“雲海”に来てね」
もう、何もかも美紅とゆかり仕切りで総て決まっているようで。
「遅刻したら夕飯ないから」
「はいはい。あ、温泉だっけ?」
「うん。源泉かけ流しってゆってたよ。二十四時間いつでも入れるらしいから、ご飯の後も入りに行っていいし」
「ゆかり、ご飯の後はラウンジで一緒に飲もうよー」
「いいねー」
朝まで飲む気だな、と親父と目を合わせて。
とりあえず、海上りの体を洗い流したいのもあり、それぞれの部屋に入ってから温泉へと向かった。
「さて、と。風呂はどこだっけ?」
和室のあるフロアとルカ達のツインルームのあるフロアが別だったので、父と二人で部屋に荷物だけ投げて大浴場を目指す。
「一階まで下りて、別館にあるらしいよ」
「温泉なんて久しぶりだな」
「小学校の頃はよく行ってたよね」
「おまえ、小さい頃からサウナ好きだったもんな」
「そうそう。でも場所によっては小学生はダメとか言われてへこんでた」
あまり、父親とゆっくり話すことなんてないから。珍しくそんな昔話なんてしながら。
大浴場は、まだそんなに人はいなくて。
日本庭園的な露天風呂で、ぼーっと二人で温まる。
「……さやとか、七海ちゃんには、もうカレシとかがいるのかな?」
ぼそ、と親父の呟きが聞こえて驚く。
「え、まだ中学生だろ?」
「だよなー。まだ、いないよなー」
「と思うけど」
「いや、可愛いだろ、あの二人」
「……ですかね?」
「可愛いんだよ。だからほんと、変なムシが付かないか、心配で」
「今はやたらと部活やってるし、そんなのはないと思うけど」
「部活はでも、男の子もいるだろ?」
「そりゃ、いるだろうけど。そんなに心配しなくてもよくね?」
「心配するんだよ。おまえ、心配じゃないの? 清華に彼氏とか、そんなの想像するだけで頭に来るけど」
「親バカだね」
「親バカになるよ。当たり前だろ」
「俺は?」
「おまえは勝手にすりゃいいじゃん」
でしょうね。
「ゆかりちゃんが好きなんだろ?」
「!」
美紅か! 美紅が言ったのか?
「見てればわかる」
……そんな、だろうか?
少し、反省。まさか親父にまで言われるとは。
「何だろうね、年上が好きってのは。まあ、ママも年上の俺と結婚してるし、そこはママに似たんだろうねえ」
「……かなあ?」
「ゆかりちゃん、可愛いからね。あの子は昔から賢い子だったし。お前の手に負える子じゃないだろうけど」
親父も、その意見ですか。
がっくり、くる。当たり前だけど。ほんとにゆかりは“高嶺の花”だから。
「ま、それでもお前が成長するには、ゆかりちゃんもいいのかもしれないけど」
「美紅にも言われた」
「うん、遊んでもらえば?」
「…………」
どういう夫婦だよ、二人揃って!
「さて、と。腹も減ったしそろそろ上がろう」
0
あなたにおすすめの小説
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる