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flashback
flashback -2-
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「ルカー、週末のサークルの後、合コン行こうぜー」
バイトの隙間を縫うようにサークル活動をしていて、練習の中で坂本が言って来た。
早朝シフトがある日も、夕方の基本シフトまでの間がぽっかり空くことがあり、そんな時は家にも帰らず学校でバスケ。
だって。
帰ったら、もしかしたらゆかりがいるかもしれない。
さすがに、あれから顔を合わせるのが気まずくて、少し避けているのを否めない。
「俺、今はそんな気にはなれない」
坂本には、結果報告をしている。
あっさりとフられて、でもこうして平常心でいられるのは、あの時の坂本のセリフがあったから。
「何でだよ?」
「バイトも忙しいし」
「女子率低いバイト先でそんなに頑張っててどーすんだよ」
「ウチの店は女子率高いよ。昼間のパートさんは皆主婦だ」
「……おまえの年上好きは認める。それは認めるけどな、平均年齢四十オーバーの熟女主婦相手に恋愛できるわけじゃねーんだから、それは女子には入んねーだろ!」
「失礼なヤツだな」
「…………じゃあ何? お前はバイト先のオバサマと不倫でもするつもりなのか?」
呆れながら言った坂本にルカはちょっとキツめのパスを出す。
「不倫なんてしねーし」
言い捨てて、「ちょっと休憩してくる」とルカはタオルを取って水道まで逃げた。
頭から水を被る。
わかっているのだ。
グダグダやっていても仕方がないのは。
バイトに忙殺されている現状が、逃避しているのだということも、わかっている。
フられたんだから、さっさと切り替えろ、って言いたい坂本の気持ちはわかるけど。
「張り切ってるね」
ふいに、タオルを差し出してそう言った人物に、ルカは驚愕した。
「深月……何で?」
「ここに通ってるって、自分で言ってたじゃない」
確かに、それは言ったし。
年齢的に、構内をうろついても全然不自然ではないけれど。
ここの学生じゃないのに、ここにいる、というのがあまりにも驚きで。
深月――成瀬深月は、高校時代と変わらない笑顔で、ルカの頭ににタオルを被せた。
高校二年生の夏。
インターハイ地区予選で。ベストエイトまで勝ち進んでいた時。
学年でもかなりイケてる女子、に属していた深月が今と同じようにして声をかけてきた。
曰く、インハイ落ち着いたら付き合って欲しい、と。
高校最後の大会だから三年生がメインだけれど、ルカはその身長とシュート率でスタメンとして起用されていて、簡単に言えばその当時は人生最大のモテ期だったのである。
故に。
気持ちはゆかりにあったけれど、叶わない恋心を抱えて燻っている思春期真っ只中のルカとしては、とりあえずOKの返事なんてして。
その年のインハイは結構イイ線まで行って、地区大会ではあるが決勝戦敗退という結果だった。
それまで、ひたすら勝ち進んでいる試合には全然観に来られなかったゆかりが、よりにもよってその敗戦試合だけ応援に来ていたことを知り。
ヤケクソ、だったのは認める。
本当に、全然後悔していないと言ったらウソになるが、それでも。
深月からの誘いに乗って、一線を越えた。
勿論ルカには初めての相手であったが、深月は割と遊んでいたらしく、怒涛のように押し寄せる欲情を上手に煽ってくれて。
そんな相手だったから。
ゆかりを忘れさせてくれるかもしれない、と。少し期待して。暫くの間、彼氏彼女という状態が続いた。
けれど。
そんな相手だったから。
ダメになるのも早かった。
結局ゆかりを忘れることもできず、元々女子にモテる体質ではないルカが、イケてる女子を相手に器用に振る舞えるハズもなく。
半年程で、ルカがフられる形でその関係は終わった。
その時も、勿論胸が痛かった。
仮にも初めて体を重ねた相手である。気持ちが全くなかったわけでもなく。
初めての失恋、とでも言うべき痛みは、その時に経験している。
でも。
今抱えているこのどうしようもない痛みは、その時の比にもならない程で。
「ルカ、やっぱりまだバスケ続けてたんだね」
呆然としていたルカに、深月がそう言って。
「あ……うん。まあ、小さいサークルだけど。タクマ先輩に誘われたから」
「坂本くんも一緒に?」
「うん。ナツ先輩もいるよ」
「あの時のメインメンバーだね」
あの時。そう、高校時代、一番活躍していた時。
「まあね。だから楽しいよ」
「みたいだね」
「深月は? 何かサークルやってる? あ、てゆーか今どこ行ってるんだっけ?」
別れてから、お互いの情報は全くやり取りしていなかったので、進学先も知らない。同じクラスになったこともなかったし。
「私は県外だよ。今は夏休みだからこっち帰って来てて、高校の時の友達と遊んでるの」
「入江さん?」
「とか、篠田とか。残ってる子もいるけど、県外出ちゃってる子も夏休みでこっち帰って来てるからね」
高校生の頃、イケてるグループに属していた女子の面々だ。気後れしてしまうからあまり一緒に行動しなかったけれど、深月がよくつるんでいた女子の名前を久しぶりに耳にする。
「ルカも、良かったら一緒に遊ばないかなーと思って」
「合コン?」
「的な?」
坂本が喜びそうだな、と思ったが少し躊躇う。当時坂本も、篠田とは付き合っていたハズだ。
「俺の周りってなると、基本坂本が絡むけど」
「いんじゃない? 篠田、多分全然気にしないと思うけど」
「そーゆーもん?」
「そーゆーもんです。若気の至りじゃん」
あっけらかんとした物言いに、ルカが面食らう。
イケてる女子って、こんなもんなのかな? とルカが少し引いていると、
「ルカ! 何やってんだよ?」
坂本がやってきた。
「え? 成瀬?」
「坂本くん、久しぶり」
「え、何でいんの?」
「ルカに会いに来たから」
「はあ?」
驚いている坂本に、深月は笑っていて。
「この間、バイト先に来たんだよ。で、ここに通ってるって話したんだけど、まさか俺もここに来るとは思わなくて、びっくりしてたトコ」
軽く事情を話すと、坂本も「そうなんだ」と納得して。
「今ルカとも話してたんだけど、今度合コンしない?」
「したい!」
「坂本ー!」
お前は節操がないなあ。
「いいじゃん。合コン!」
「しいもいるけど、構わない?」
一瞬坂本が躊躇った。が。
「他にもメンバーいるなら。あと、しいちゃんが気にしないんだったら、俺はいいけど」
「そんなん、気にするわけないじゃん。女子もルカ達の知らないコ用意するからさ、そっちも私達に新鮮なメンバーを集めてね」
やっぱり、過去を引きずるのは男の方だけなのだろう。
深月の軽いセリフに、坂本と軽く目を合わせて。
当時、ルカが深月と付き合い始めた頃、その流れで坂本も篠田と付き合っていたのだ。四人で出かけることもあった。が、もっと言ってしまえば、別れも同時期だったりする。お互い若気の至りで“彼女持ち”の見栄を張りたかったというのが総ての原因なのだろう。
結局メンバー集めや予定合わせの都合もあるし、お互いに連絡先を交換して(ルカはブロック解除というか)、深月は帰って行った。
バイトの隙間を縫うようにサークル活動をしていて、練習の中で坂本が言って来た。
早朝シフトがある日も、夕方の基本シフトまでの間がぽっかり空くことがあり、そんな時は家にも帰らず学校でバスケ。
だって。
帰ったら、もしかしたらゆかりがいるかもしれない。
さすがに、あれから顔を合わせるのが気まずくて、少し避けているのを否めない。
「俺、今はそんな気にはなれない」
坂本には、結果報告をしている。
あっさりとフられて、でもこうして平常心でいられるのは、あの時の坂本のセリフがあったから。
「何でだよ?」
「バイトも忙しいし」
「女子率低いバイト先でそんなに頑張っててどーすんだよ」
「ウチの店は女子率高いよ。昼間のパートさんは皆主婦だ」
「……おまえの年上好きは認める。それは認めるけどな、平均年齢四十オーバーの熟女主婦相手に恋愛できるわけじゃねーんだから、それは女子には入んねーだろ!」
「失礼なヤツだな」
「…………じゃあ何? お前はバイト先のオバサマと不倫でもするつもりなのか?」
呆れながら言った坂本にルカはちょっとキツめのパスを出す。
「不倫なんてしねーし」
言い捨てて、「ちょっと休憩してくる」とルカはタオルを取って水道まで逃げた。
頭から水を被る。
わかっているのだ。
グダグダやっていても仕方がないのは。
バイトに忙殺されている現状が、逃避しているのだということも、わかっている。
フられたんだから、さっさと切り替えろ、って言いたい坂本の気持ちはわかるけど。
「張り切ってるね」
ふいに、タオルを差し出してそう言った人物に、ルカは驚愕した。
「深月……何で?」
「ここに通ってるって、自分で言ってたじゃない」
確かに、それは言ったし。
年齢的に、構内をうろついても全然不自然ではないけれど。
ここの学生じゃないのに、ここにいる、というのがあまりにも驚きで。
深月――成瀬深月は、高校時代と変わらない笑顔で、ルカの頭ににタオルを被せた。
高校二年生の夏。
インターハイ地区予選で。ベストエイトまで勝ち進んでいた時。
学年でもかなりイケてる女子、に属していた深月が今と同じようにして声をかけてきた。
曰く、インハイ落ち着いたら付き合って欲しい、と。
高校最後の大会だから三年生がメインだけれど、ルカはその身長とシュート率でスタメンとして起用されていて、簡単に言えばその当時は人生最大のモテ期だったのである。
故に。
気持ちはゆかりにあったけれど、叶わない恋心を抱えて燻っている思春期真っ只中のルカとしては、とりあえずOKの返事なんてして。
その年のインハイは結構イイ線まで行って、地区大会ではあるが決勝戦敗退という結果だった。
それまで、ひたすら勝ち進んでいる試合には全然観に来られなかったゆかりが、よりにもよってその敗戦試合だけ応援に来ていたことを知り。
ヤケクソ、だったのは認める。
本当に、全然後悔していないと言ったらウソになるが、それでも。
深月からの誘いに乗って、一線を越えた。
勿論ルカには初めての相手であったが、深月は割と遊んでいたらしく、怒涛のように押し寄せる欲情を上手に煽ってくれて。
そんな相手だったから。
ゆかりを忘れさせてくれるかもしれない、と。少し期待して。暫くの間、彼氏彼女という状態が続いた。
けれど。
そんな相手だったから。
ダメになるのも早かった。
結局ゆかりを忘れることもできず、元々女子にモテる体質ではないルカが、イケてる女子を相手に器用に振る舞えるハズもなく。
半年程で、ルカがフられる形でその関係は終わった。
その時も、勿論胸が痛かった。
仮にも初めて体を重ねた相手である。気持ちが全くなかったわけでもなく。
初めての失恋、とでも言うべき痛みは、その時に経験している。
でも。
今抱えているこのどうしようもない痛みは、その時の比にもならない程で。
「ルカ、やっぱりまだバスケ続けてたんだね」
呆然としていたルカに、深月がそう言って。
「あ……うん。まあ、小さいサークルだけど。タクマ先輩に誘われたから」
「坂本くんも一緒に?」
「うん。ナツ先輩もいるよ」
「あの時のメインメンバーだね」
あの時。そう、高校時代、一番活躍していた時。
「まあね。だから楽しいよ」
「みたいだね」
「深月は? 何かサークルやってる? あ、てゆーか今どこ行ってるんだっけ?」
別れてから、お互いの情報は全くやり取りしていなかったので、進学先も知らない。同じクラスになったこともなかったし。
「私は県外だよ。今は夏休みだからこっち帰って来てて、高校の時の友達と遊んでるの」
「入江さん?」
「とか、篠田とか。残ってる子もいるけど、県外出ちゃってる子も夏休みでこっち帰って来てるからね」
高校生の頃、イケてるグループに属していた女子の面々だ。気後れしてしまうからあまり一緒に行動しなかったけれど、深月がよくつるんでいた女子の名前を久しぶりに耳にする。
「ルカも、良かったら一緒に遊ばないかなーと思って」
「合コン?」
「的な?」
坂本が喜びそうだな、と思ったが少し躊躇う。当時坂本も、篠田とは付き合っていたハズだ。
「俺の周りってなると、基本坂本が絡むけど」
「いんじゃない? 篠田、多分全然気にしないと思うけど」
「そーゆーもん?」
「そーゆーもんです。若気の至りじゃん」
あっけらかんとした物言いに、ルカが面食らう。
イケてる女子って、こんなもんなのかな? とルカが少し引いていると、
「ルカ! 何やってんだよ?」
坂本がやってきた。
「え? 成瀬?」
「坂本くん、久しぶり」
「え、何でいんの?」
「ルカに会いに来たから」
「はあ?」
驚いている坂本に、深月は笑っていて。
「この間、バイト先に来たんだよ。で、ここに通ってるって話したんだけど、まさか俺もここに来るとは思わなくて、びっくりしてたトコ」
軽く事情を話すと、坂本も「そうなんだ」と納得して。
「今ルカとも話してたんだけど、今度合コンしない?」
「したい!」
「坂本ー!」
お前は節操がないなあ。
「いいじゃん。合コン!」
「しいもいるけど、構わない?」
一瞬坂本が躊躇った。が。
「他にもメンバーいるなら。あと、しいちゃんが気にしないんだったら、俺はいいけど」
「そんなん、気にするわけないじゃん。女子もルカ達の知らないコ用意するからさ、そっちも私達に新鮮なメンバーを集めてね」
やっぱり、過去を引きずるのは男の方だけなのだろう。
深月の軽いセリフに、坂本と軽く目を合わせて。
当時、ルカが深月と付き合い始めた頃、その流れで坂本も篠田と付き合っていたのだ。四人で出かけることもあった。が、もっと言ってしまえば、別れも同時期だったりする。お互い若気の至りで“彼女持ち”の見栄を張りたかったというのが総ての原因なのだろう。
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