affection

月那

文字の大きさ
38 / 53
flashback

flashback -2-

しおりを挟む
「ルカー、週末のサークルの後、合コン行こうぜー」
 バイトの隙間を縫うようにサークル活動をしていて、練習の中で坂本が言って来た。
 早朝シフトがある日も、夕方の基本シフトまでの間がぽっかり空くことがあり、そんな時は家にも帰らず学校でバスケ。
 だって。
 帰ったら、もしかしたらゆかりがいるかもしれない。
 さすがに、あれから顔を合わせるのが気まずくて、少し避けているのを否めない。
「俺、今はそんな気にはなれない」
 坂本には、結果報告をしている。
 あっさりとフられて、でもこうして平常心でいられるのは、あの時の坂本のセリフがあったから。
「何でだよ?」
「バイトも忙しいし」
「女子率低いバイト先でそんなに頑張っててどーすんだよ」
「ウチの店は女子率高いよ。昼間のパートさんは皆主婦だ」
「……おまえの年上好きは認める。それは認めるけどな、平均年齢四十オーバーの熟女主婦相手に恋愛できるわけじゃねーんだから、それは女子には入んねーだろ!」
「失礼なヤツだな」
「…………じゃあ何? お前はバイト先のオバサマと不倫でもするつもりなのか?」
 呆れながら言った坂本にルカはちょっとキツめのパスを出す。
「不倫なんてしねーし」
 言い捨てて、「ちょっと休憩してくる」とルカはタオルを取って水道まで逃げた。
 頭から水を被る。
 わかっているのだ。
 グダグダやっていても仕方がないのは。
 バイトに忙殺されている現状が、逃避しているのだということも、わかっている。
 フられたんだから、さっさと切り替えろ、って言いたい坂本の気持ちはわかるけど。
「張り切ってるね」
 ふいに、タオルを差し出してそう言った人物に、ルカは驚愕した。
「深月……何で?」
「ここに通ってるって、自分で言ってたじゃない」
 確かに、それは言ったし。
 年齢的に、構内をうろついても全然不自然ではないけれど。
 ここの学生じゃないのに、ここにいる、というのがあまりにも驚きで。
 深月――成瀬深月なるせみづきは、高校時代と変わらない笑顔で、ルカの頭ににタオルを被せた。
 高校二年生の夏。
 インターハイ地区予選で。ベストエイトまで勝ち進んでいた時。
 学年でもかなりイケてる女子、に属していた深月が今と同じようにして声をかけてきた。
 曰く、インハイ落ち着いたら付き合って欲しい、と。
 高校最後の大会だから三年生がメインだけれど、ルカはその身長とシュート率でスタメンとして起用されていて、簡単に言えばその当時は人生最大のモテ期だったのである。
 故に。
 気持ちはゆかりにあったけれど、叶わない恋心を抱えて燻っている思春期真っ只中のルカとしては、とりあえずOKの返事なんてして。
 その年のインハイは結構イイ線まで行って、地区大会ではあるが決勝戦敗退という結果だった。
 それまで、ひたすら勝ち進んでいる試合には全然観に来られなかったゆかりが、よりにもよってその敗戦試合だけ応援に来ていたことを知り。
 ヤケクソ、だったのは認める。
 本当に、全然後悔していないと言ったらウソになるが、それでも。
 深月からの誘いに乗って、一線を越えた。
 勿論ルカには初めての相手であったが、深月は割と遊んでいたらしく、怒涛のように押し寄せる欲情を上手に煽ってくれて。
 そんな相手だったから。
 ゆかりを忘れさせてくれるかもしれない、と。少し期待して。暫くの間、彼氏彼女という状態が続いた。
 けれど。
 そんな相手だったから。
 ダメになるのも早かった。
 結局ゆかりを忘れることもできず、元々女子にモテる体質ではないルカが、イケてる女子を相手に器用に振る舞えるハズもなく。
 半年程で、ルカがフられる形でその関係は終わった。
 その時も、勿論胸が痛かった。
 仮にも初めて体を重ねた相手である。気持ちが全くなかったわけでもなく。
 初めての失恋、とでも言うべき痛みは、その時に経験している。
 でも。
 今抱えているこのどうしようもない痛みは、その時の比にもならない程で。
「ルカ、やっぱりまだバスケ続けてたんだね」
 呆然としていたルカに、深月がそう言って。
「あ……うん。まあ、小さいサークルだけど。タクマ先輩に誘われたから」
「坂本くんも一緒に?」
「うん。ナツ先輩もいるよ」
「あの時のメインメンバーだね」
 あの時。そう、高校時代、一番活躍していた時。
「まあね。だから楽しいよ」
「みたいだね」
「深月は? 何かサークルやってる? あ、てゆーか今どこ行ってるんだっけ?」
 別れてから、お互いの情報は全くやり取りしていなかったので、進学先も知らない。同じクラスになったこともなかったし。
「私は県外だよ。今は夏休みだからこっち帰って来てて、高校の時の友達と遊んでるの」
「入江さん?」
「とか、篠田しのだとか。残ってる子もいるけど、県外出ちゃってる子も夏休みでこっち帰って来てるからね」
 高校生の頃、イケてるグループに属していた女子の面々だ。気後れしてしまうからあまり一緒に行動しなかったけれど、深月がよくつるんでいた女子の名前を久しぶりに耳にする。
「ルカも、良かったら一緒に遊ばないかなーと思って」
「合コン?」
「的な?」
 坂本が喜びそうだな、と思ったが少し躊躇う。当時坂本も、篠田とは付き合っていたハズだ。
「俺の周りってなると、基本坂本が絡むけど」
「いんじゃない? 篠田しい、多分全然気にしないと思うけど」
「そーゆーもん?」
「そーゆーもんです。若気の至りじゃん」
 あっけらかんとした物言いに、ルカが面食らう。
 イケてる女子って、こんなもんなのかな? とルカが少し引いていると、
「ルカ! 何やってんだよ?」
 坂本がやってきた。
「え? 成瀬?」
「坂本くん、久しぶり」
「え、何でいんの?」
「ルカに会いに来たから」
「はあ?」
 驚いている坂本に、深月は笑っていて。
「この間、バイト先に来たんだよ。で、ここに通ってるって話したんだけど、まさか俺もここに来るとは思わなくて、びっくりしてたトコ」
 軽く事情を話すと、坂本も「そうなんだ」と納得して。
「今ルカとも話してたんだけど、今度合コンしない?」
「したい!」
「坂本ー!」
 お前は節操がないなあ。
「いいじゃん。合コン!」
「しいもいるけど、構わない?」
 一瞬坂本が躊躇った。が。
「他にもメンバーいるなら。あと、しいちゃんが気にしないんだったら、俺はいいけど」
「そんなん、気にするわけないじゃん。女子もルカ達の知らないコ用意するからさ、そっちも私達に新鮮なメンバーを集めてね」
 やっぱり、過去を引きずるのは男の方だけなのだろう。
 深月の軽いセリフに、坂本と軽く目を合わせて。
 当時、ルカが深月と付き合い始めた頃、その流れで坂本も篠田と付き合っていたのだ。四人で出かけることもあった。が、もっと言ってしまえば、別れも同時期だったりする。お互い若気の至りで“彼女持ち”の見栄を張りたかったというのが総ての原因なのだろう。
 結局メンバー集めや予定合わせの都合もあるし、お互いに連絡先を交換して(ルカはブロック解除というか)、深月は帰って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...