affection

月那

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消えない想い

消えない想い -2-

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 やってしまった。
 ルカは自転車を飛ばして家に帰り、リビングに「ただいま」とだけ声をかけるとすぐに自室に籠った。
 そしてそのまま、頭を抱えていたのである。
 坂本と喧嘩、なんて殆どしたことがない。
 勿論、言いたいことを言い合える仲だから、口論になることは全くないわけではない。
 けれど。
 こんな風に解決することなくお互いにそっぽを向くような喧嘩は今までにしたことがなかった。
 いつもの口論なら、最終的に相手の意見を聞いて歩み寄る方向を考える。感情をただぶつけるようなことは、まずない。
 高校時代にお互いに失恋した時も、二人で傷をなめあうかのように、グダグダと愚痴を言い合って。
 試合で意思の疎通ができなくて、連携プレイがうまく行かなかった時も、試合直後に二人でみっちり特訓した。
 最後のインハイも、確かに地区予選ベストエイト止まりではあったけれど、それでも二人で泣いて抱き合って健闘を讃え合った。
 一緒に受験勉強して、一緒に大学に進んで。
 坂本が隣にいることが、何よりも安心だった。
 なのに。
 こんなにもくだらないことで喧嘩なんて。
 というより、喧嘩なんてしたことがないから、どうしたらいいのかがわからない。
 冷静になって、今。ただ携帯を見ながらうろたえるばかりで。
 すると。
“ルカ、ごめん。今話せる?”
 ラインが入ってきた。深月だ。
“何?”
 喧嘩の遠因でもある彼女だから、あまり気乗りはしなかったけれど、とりあえず返事。
“今ね。ルカの家の前にいるの。出られる?”
 え? 今何時だ? いや、まだ十時前か。
 こんな遅くに、と思って驚いて、更にわざわざどうしたんだ、と驚き。
 慌てて外へ出た。
「ごめん、ルカ。こんな時間に迷惑なのはわかってるんだけど、居ても立っても居られなくなって」
 門扉の横にいた深月が、ルカの姿を見た瞬間泣きそうな声で言った。
「どしたの?」
「坂本くんと喧嘩したって聞いたから」
 うわ、坂本からの篠田、からの、という奴か。
 タイミング的に早かったので、その事実にも驚いた。
「あー、うん、ちょっとね」
「ごめんね。私のせいなの」
「え?」
 また、更に驚くべきことを深月が言って。
「…………あのね。ほんとは、私から言わないといけなかったの」
 深月が、目を伏せる。緊張した様子で手を握っていて。
 暫く黙っていた深月が一体何を言い出すのかわからず、ルカはゆっくりと深月の言葉を待った。
「あのね。私……ルカのこと、好きなの」
 その言葉は衝撃だった。
 ルカの中では絶対にあり得ない事実で。
 だからこそ、深月が“本気”で言っているとは思えなくて。
「いや。冗談」
「じゃないから!」
 語尾を奪い取るように深月が言って。
「違うから。本気だから。坂本くん、しいから聞いて知ってたの。私がルカのこと、好きって。だから、なんとかしてくっつけようとしてくれて」
「…………」
「ひょっとしたら、しい達みたいに、私とルカも戻れるかもしれないって思ったの。だから…………」
 何と言っていいか、わからなくて。
 真剣な目で告白してくれた深月に、ここ数時間で驚くことが多すぎたせいで、何も答えられなくて。
「私と、付き合って、欲しい」
「…………」
「坂本くんから言われて、思ったの。私がはっきり言わないから、それで坂本くんがルカに遠回しに伝えてくれて。でも、そんなのやっぱりダメだと思って。ちゃんと、言わなきゃって、思って」
 何も返せないでいるルカの代わりに、深月が言い訳のように小さく呟く。
「…………ごめん、深月。俺、好きな人がいるから、深月とは付き合えない」
 正直に言った。本当のことを。
 だって。高校の時は、それを隠したまま付き合って、結局ダメになってしまったから。
 こんな、中途半端な気持ちで深月と“彼氏彼女”なんて状態になんて、なれないから。
 まだ、ゆかりのことを忘れられないから。
「…………あの人?」
「え?」
「この間、カフェで会った、あの人のこと?」
 深月の眼力が怖かった。
 何故あの一瞬で、そんなことに気が付いたのか。
 ルカは肯定も、否定もできなかった。
 でも。
 目を逸らしてしまった。
 すると。
「……深月」
 彼女は泣いていた。
 まさか。自分が深月を泣かせることになるとは思っていなくて。
 もうルカの感情はぐちゃぐちゃになる。
 だから。
 仕方なく。
 深月の肩を抱いた。
「ごめん」
 謝ることしか、できない。
 フられた経験ならあるけれど、自分がフる立場になるなんて。
 そんなの初めてだから、本当にどうしていいのかわからない。
 黙って涙を流す深月の肩を抱いて、ゆかりが泣いていた時のように軽くトントンと叩いてやる。
 もう、単純にそれしかできない。
「ごめん、深月」
「……謝らないで、いいから」
「…………」
 謝るな、と言われたらもう、じゃあ何と声をかけていいのかなんて、わかるわけがなくて。
「ごめんね、ルカ。ありがと」
 深月は肩を抱いていたルカの腕から離れると、そのまま帰ろうとした。
「待って。こんな時間に一人で帰らせられない」
「んーん、大丈夫」
 泣き顔のまま顔を上げて、でも首を振ると「ごめん、一人にして」と小さく言って背を向けた。
 時間的にはまだ十時にもなっていないから、危険はないだろうとルカもそこは引いた。
 深月の“一人にして”には、既にルカに対する拒絶しかなくて。
 とりあえず、しばらくは見送っていたけれど、角を曲がったところで諦めた。
 まさかのことが連続したせいで、乱れた感情がまるで落ち着かない。
 坂本と喧嘩、という事実でさえ自分には狼狽えることしかできなかったのに、それどころか、あの深月――恐らく引く手あまたの美少女である――が自分を好きだなんて。
 あり得ないにも程がある。
 感情が事実にまったく追い付いていない。
 ルカはそのまま家に入ることもできなくて。
 ポケットの中に携帯と鍵だけ確認すると、そのまま自転車に乗って深月が帰った方向とは別の方へと走り出した。
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