affection

月那

文字の大きさ
47 / 53
消えない想い

消えない想い -3-

しおりを挟む
「さーかーもーとー!」
「うるさい、黙れ!」
 道中“今から行く”とだけラインを入れておいたら、自宅の前で坂本が待ち構えていた。ので、叫ぶと、すぐさま突っ込まれる。
「おま、何時だと思ってんだよ! 俺が母ちゃんにどやされるだろ」
 言われて、素直にごめんと謝る。
 確かに、既に夜十時を回っているこの時間、住宅地で大声を出すのはさすがに憚られるだろう。
「このままそこのマック行こうぜ」
「俺、財布ない」
「…………わかった。おごってやる」
 しぶしぶではあるが、ちょっとだけ負い目のある坂本がそう言ってくれたので、素直に甘えることにした。
 坂本の家から五分程歩いて大通りへ出ると、この時間でもまだまだ交通量の多い場所であるため、人通りもなくはない。
 とは言え、二十四時間営業の店内は閑散としていて、二人はコーラとポテトだけ注文すると二階の隅のボックス席に陣取った。
「知ってたのか」
「…………ごめん。俺、遠回しとか下手だからさ、うまいこと伝えらんなくて。お前のこと怒らせちまったし、俺もなんか、頭に血が上っちゃって」
 うん、確かに結構がっつり“好きかもしれない”なんて言ってた気がする。
 いやでも、それはあの時点では絶対に信じられなかったし。
 今だって……好きだと言われた今でさえ、半分信じられないでいるのに。
「しいちゃんがさ。田所にそれとなくナルのことオススメしてくれないかな、って」
「篠田のモノマネ? キモイんですけど」
「えー、キモくねーし」
「低い声でその口調はキモイって」
「結構似てると思うんだけどなあ」
「そんなん知らねーよ。篠田の声なんか気にしたことねーし」
「こう、ちょっと大人っぽい感じでー」
「そんな説明されても困るし。だいたいお前が篠田とどんだけ会ってるのかも知らねーし」
「そりゃ、あれから毎日会ってるからねー」
「おーお、そりゃお幸せなことで」
「勿論幸せですよー……って、話が進まん!」
 お互いに目を見合わせて笑って、コーラを飲んだ。
 なんだ、仲直りできてるじゃん。
「だからさ。今度、美術館で二人がいい感じになるように、ちょっとだけお前に成瀬のこと意識させたかったんだ」
「意識、かー。あ、ちょっと待って。したら四人になるってのも」
「そう、仕組んだ。佐竹たちのことは最初から誘ってない」
 ……俺、かなり鈍いのかも。
 何の疑いもなく坂本たちと四人になるということを受け入れていた自分に蹴りを入れたくなった。
「何で断ったんだよ。成瀬とお前、美男美女ですげー似合ってるじゃん」
「美女と野獣だよ。いや、そういう問題じゃない」
「お前はもっと自信持て」
「持てません。モテませんから」
「うまいこと言ってんじゃねーよ」
「だって実際モテないからね。俺好きな人にフられたばっかだぜ? どーやったら自信持てるんだよ」
 もうずっと昔から、当たり前のように好きだった、この人のことだけは絶対になくしたくないとずっと思っていた人に、フられた。
 そんな、気持ちの整理なんてまだまだ全然ついていない状況で、自分に“自信”なんて一ミリも感じられないくらいの状況で。
 まさかの告白を受けるなんて、想像もできるわけがない。
「成瀬、泣いてた?」
「うん、泣いてた。昔はさ、俺の方がフられたんだけどなー」
「そん時お前、泣いた?」
「いや、泣いてない」
「だろうね」
 そう。
 当時はフられて当然だとちゃんと自覚していたから。
 ゆかりとのことがうまく行かなくて、ただ勢いだけでヤってしまったから。
 そのまま責任を取るようにして付き合っていただけだったから。
 そんないい加減な気持ちで接している自分に、彼女の方が嫌気をさしてしまったのは当然のことで。
「これもさ、最近しいちゃんから聞いたんだけど。あの頃もほんとは、成瀬がルカにすごい惚れてたんだよ。でも、お前が自分のことを見てくれていないことが辛かったから、自分から別れようって言ったんだって」
「…………」
「成瀬さ。あんな感じじゃん? まあ、しいちゃんもだけど。入江ちゃんと三人、結構派手目な雰囲気のグループだから周りからはかなり遊んでるように思われてるらしくて。いや、実際俺もあの頃は遊ばれてるんだろうなって思ってたんだけどさ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...