affection

月那

文字の大きさ
49 / 53
ever after

ever after -1-

しおりを挟む
 九月も終わる頃、ルカたちの新学期が始まった。
 前期とは時間割も変わり、それに伴ってバイトのシフトも多少の変更はあったものの、それでも前期と変わらない多忙な生活に、体も慣れてきた頃だった。
「おかえり、るーちゃん」
 バイト終わりに自宅玄関を開けた瞬間、待ち構えていたのは七海だった。
「ただいま。どしたの、ななちゃん?」
 ルカを仁王立ちで出迎えている七海の様子は、どこからどう見ても「怒ってます!」という表情で。
 美紅は怖い。清華も、時々怒らせてしまうとそれはそれでかなり怖い。
 だが、基本的にゆかりは怒らないし、七海は彼女と接する人間全てに「天然」と言われるような子である。なので、ルカを睨んで怒っている表情なのではあるが、ぷーっと口を膨らませてはいるものの、その様子は可愛い、としか言いようがなく。
「こんな時間まで起きて待ってたわけ?」
「うん。今日はさやとパジャマパーティだから夜更かしはいいの」
 なるほど、明日は日曜日だしな。
 とりあえずリビングに行こうか、と七海を連れて廊下を進む。
「おかえり」
 リビングには、七海と同じ黄色いふわふわもこもこのパジャマを着た清華が、これまた七海の真似をしてぷーっと膨れっ面でルカを迎えており。
 いや、うん。その表情だと清華も怖くはない。大体目が笑っている。
「えっと。俺何かななちゃん怒らせるようなこと、したかな?」
 七海の膨れっ面の理由は、清華も、何なら美紅もわかっているようで。
 キッチンカウンターでビールを飲みながら美紅が苦笑していた。
「るーちゃん! ななはるーちゃんのこと、見損なったよ!」
「?」
「るーちゃん、女の子の趣味、最低なんだから!」
 七海のセリフに首を傾げた。
 俺の周囲にいる女の子、とはキミたち二人しかいないんだが。
「一昨日の夜、ななが部活から帰ってくるのとママが帰ってくるのって、同じくらいの時間だったのね。そしたら、駐車場で車から降りてきたママに、待ち伏せしてた女の子がいたの」
 どうやらその時、女の子がゆかりに対して何やらキツめのことを言っていたようで。
「大人なんだから、ルカに対してはっりして、みたいなこと、ゆってた。なんか、おばさんの癖にるーちゃんに色目使わないで、みたいな感じで」
「えっと……え? 俺?」
「ルカって聞こえたもん。だから、きっとあれはるーちゃんの彼女なんだーって思ったのよ」
「いやいや、俺彼女なんていないし」
「でも、なんかー、るーちゃんには自分のが似合ってる、とかゆってたよ?」
「まあ、ルカの傍にあんな綺麗なオバサンがいたら目障りだよねー」
「ママはオバサンじゃないもん!」
 美紅のおかしなフォローに、七海が更に膨れる。
「ゆかりちゃん、何かゆってた?」
 なんとなく、相手が誰なのか想像が付いた。
 が、それよりゆかりの反応の方が気になる。
「ママは大人だもん、そりゃー笑ってたよ。笑いながら何か返してたみたいだけど、でも。絶対傷付いてる」
 怒っていた七海の表情が、今度は少し曇った。
「大人だけど、でも若い女の子に酷いこと言われたらやっぱり傷付いちゃうよ。だから、最近ちょっと変だもん」
 さっきまでは笑って茶化していた美紅も、七海の顔が暗くなった途端、笑いが消えた。
「変って?」
 美紅が促すと、
「ほら、いつもはななのこと迎えに来たら、ここで美紅ちゃんとお茶してから帰るでしょ? でも最近、なんか美紅ちゃんちにあんまり上がってかないの」
 その返答に、美紅本人も少し心当たりがあったようで、眉を寄せて少し考え込んだ。
「ちょっと、いつもより元気ないみたいだし」
 半分泣きそうな七海の頭を撫でながら、ルカは
「ごめんね、ななちゃん」
とりあえず、謝る。
「えっと、その人は俺の彼女じゃないんだけど、でも一応心当たりあるからそっちはなんとかしておくよ」
 多分、深月だろうな、とは思う。まさかゆかりに直接会いに行くとは思ってもいなかったので、その行動力にかなり驚いてはいるのだが。
 どうしたらいいかはわからないが、そんなことよりも、そのせいで何か傷付いているゆかりの方がルカには気になって。
「でさ、俺ゆかりちゃんのことフォローしてもいいかな?」
「していいかな、じゃなくてしなきゃダメでしょ!」七海が珍しく声を荒らげた。
「まあ、いつもより元気ないのがルカのせいなら、そりゃーあんたがゆかりをフォローすべきだとは、私も思うよ」
 ゆかりを傷付ける存在が赦せないのは美紅も同じなので。
「ただ。今はもう十一時だからね。時間考えてラインか電話くらいにしときなさいよ」
「わかった。ゆかりちゃんにはちゃんと謝っとくよ」
「じゃあ七海、あんたはもう寝なさい。明日も部活はあるんでしょ? お部屋で遊んでもいいけど、日付が変わる前には寝ること」
 美紅に言われると、行こう、と清華が七海を連れてリビングから出ていった。
「さて。ゆかりに対して偉そうな態度取ってる女の子ってのは、ほんとにあんたの彼女じゃあないんだね?」
 七海たちがいなくなり、いざルカに向かって睨み付けるように言う美紅は、完全に怒っていて。
「ないです。誓って」
 怒る気持ちはわかるけど、はっきり言ってその目は怖い。
「とにかくそんなコは、私は絶対に認めないからね」
「ダイジョウブです、絶対、ないです」
「わかった。じゃあそれは信じるから、とりあえずゆかりのフォローはしておいてよ」
 言われて頷くと、やっと美紅から解放されたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

堅物御曹司は真面目女子に秘密の恋をしている

花野未季
恋愛
真面目女子が、やはり真面目で堅物な御曹司と知り合う純愛もの。 サラッと読める短編です♪

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

奏でる甘い日々に溺れてほしい

恋文春奈
恋愛
私は真夜中にお屋敷を抜け出した 奏音と執事の律に溺愛される日々 抜け出さなかったら出会えなかった運命の人に… あなたと秘密で真夜中に出会えた関係から始まる…! 「俺は有咲の王子様」 「有咲、大好きだよ…結婚を前提に俺と付き合ってください」 二階堂奏音 イケメン隠れピアニスト×藤原有咲 素直な美人お嬢様

《完結》錬金術師の一番弟子は国から追われる

小豆缶
恋愛
国一の錬金術師アリエルは、私の師匠であり親代わり。 そんな師匠が、突然国の金を横領して総司令官と駆け落ちした――そんな噂に巻き込まれた一番弟子のミレイユ。 絶対に信じられない。師匠に駆け落ちをする理由がない 理不尽な取り調べに耐え、全てを奪われた彼女は、師匠が残した隠れ家へ逃げ込む。 電気も水道もない自然の中、錬金術の知識だけを頼りに生活を始めるミレイユ。 師匠の教えを胸に、どんな困難も乗り越えてみせる。 錬金術で切り開く未来と、師匠を信じる心。 それが、私の全て――。 真実が隠された陰謀の中で、師匠を巡る愛憎と、少女を支えるレオンハルトと歩む、希望と成長の物語。

処理中です...