affection

月那

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ever after

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 九月も終わる頃、ルカたちの新学期が始まった。
 前期とは時間割も変わり、それに伴ってバイトのシフトも多少の変更はあったものの、それでも前期と変わらない多忙な生活に、体も慣れてきた頃だった。
「おかえり、るーちゃん」
 バイト終わりに自宅玄関を開けた瞬間、待ち構えていたのは七海だった。
「ただいま。どしたの、ななちゃん?」
 ルカを仁王立ちで出迎えている七海の様子は、どこからどう見ても「怒ってます!」という表情で。
 美紅は怖い。清華も、時々怒らせてしまうとそれはそれでかなり怖い。
 だが、基本的にゆかりは怒らないし、七海は彼女と接する人間全てに「天然」と言われるような子である。なので、ルカを睨んで怒っている表情なのではあるが、ぷーっと口を膨らませてはいるものの、その様子は可愛い、としか言いようがなく。
「こんな時間まで起きて待ってたわけ?」
「うん。今日はさやとパジャマパーティだから夜更かしはいいの」
 なるほど、明日は日曜日だしな。
 とりあえずリビングに行こうか、と七海を連れて廊下を進む。
「おかえり」
 リビングには、七海と同じ黄色いふわふわもこもこのパジャマを着た清華が、これまた七海の真似をしてぷーっと膨れっ面でルカを迎えており。
 いや、うん。その表情だと清華も怖くはない。大体目が笑っている。
「えっと。俺何かななちゃん怒らせるようなこと、したかな?」
 七海の膨れっ面の理由は、清華も、何なら美紅もわかっているようで。
 キッチンカウンターでビールを飲みながら美紅が苦笑していた。
「るーちゃん! ななはるーちゃんのこと、見損なったよ!」
「?」
「るーちゃん、女の子の趣味、最低なんだから!」
 七海のセリフに首を傾げた。
 俺の周囲にいる女の子、とはキミたち二人しかいないんだが。
「一昨日の夜、ななが部活から帰ってくるのとママが帰ってくるのって、同じくらいの時間だったのね。そしたら、駐車場で車から降りてきたママに、待ち伏せしてた女の子がいたの」
 どうやらその時、女の子がゆかりに対して何やらキツめのことを言っていたようで。
「大人なんだから、ルカに対してはっりして、みたいなこと、ゆってた。なんか、おばさんの癖にるーちゃんに色目使わないで、みたいな感じで」
「えっと……え? 俺?」
「ルカって聞こえたもん。だから、きっとあれはるーちゃんの彼女なんだーって思ったのよ」
「いやいや、俺彼女なんていないし」
「でも、なんかー、るーちゃんには自分のが似合ってる、とかゆってたよ?」
「まあ、ルカの傍にあんな綺麗なオバサンがいたら目障りだよねー」
「ママはオバサンじゃないもん!」
 美紅のおかしなフォローに、七海が更に膨れる。
「ゆかりちゃん、何かゆってた?」
 なんとなく、相手が誰なのか想像が付いた。
 が、それよりゆかりの反応の方が気になる。
「ママは大人だもん、そりゃー笑ってたよ。笑いながら何か返してたみたいだけど、でも。絶対傷付いてる」
 怒っていた七海の表情が、今度は少し曇った。
「大人だけど、でも若い女の子に酷いこと言われたらやっぱり傷付いちゃうよ。だから、最近ちょっと変だもん」
 さっきまでは笑って茶化していた美紅も、七海の顔が暗くなった途端、笑いが消えた。
「変って?」
 美紅が促すと、
「ほら、いつもはななのこと迎えに来たら、ここで美紅ちゃんとお茶してから帰るでしょ? でも最近、なんか美紅ちゃんちにあんまり上がってかないの」
 その返答に、美紅本人も少し心当たりがあったようで、眉を寄せて少し考え込んだ。
「ちょっと、いつもより元気ないみたいだし」
 半分泣きそうな七海の頭を撫でながら、ルカは
「ごめんね、ななちゃん」
とりあえず、謝る。
「えっと、その人は俺の彼女じゃないんだけど、でも一応心当たりあるからそっちはなんとかしておくよ」
 多分、深月だろうな、とは思う。まさかゆかりに直接会いに行くとは思ってもいなかったので、その行動力にかなり驚いてはいるのだが。
 どうしたらいいかはわからないが、そんなことよりも、そのせいで何か傷付いているゆかりの方がルカには気になって。
「でさ、俺ゆかりちゃんのことフォローしてもいいかな?」
「していいかな、じゃなくてしなきゃダメでしょ!」七海が珍しく声を荒らげた。
「まあ、いつもより元気ないのがルカのせいなら、そりゃーあんたがゆかりをフォローすべきだとは、私も思うよ」
 ゆかりを傷付ける存在が赦せないのは美紅も同じなので。
「ただ。今はもう十一時だからね。時間考えてラインか電話くらいにしときなさいよ」
「わかった。ゆかりちゃんにはちゃんと謝っとくよ」
「じゃあ七海、あんたはもう寝なさい。明日も部活はあるんでしょ? お部屋で遊んでもいいけど、日付が変わる前には寝ること」
 美紅に言われると、行こう、と清華が七海を連れてリビングから出ていった。
「さて。ゆかりに対して偉そうな態度取ってる女の子ってのは、ほんとにあんたの彼女じゃあないんだね?」
 七海たちがいなくなり、いざルカに向かって睨み付けるように言う美紅は、完全に怒っていて。
「ないです。誓って」
 怒る気持ちはわかるけど、はっきり言ってその目は怖い。
「とにかくそんなコは、私は絶対に認めないからね」
「ダイジョウブです、絶対、ないです」
「わかった。じゃあそれは信じるから、とりあえずゆかりのフォローはしておいてよ」
 言われて頷くと、やっと美紅から解放されたのだった。
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