50 / 53
ever after
ever after -2-
しおりを挟む
とりあえず。
“ゆかりちゃん、今、話せる?”
部屋でそれだけのメッセージを入れた。
メッセージのやりとりではなく、直接話をしたかったから。
七海が泊まっているということは残業も考えられたが、さすがにこの時間なら帰宅しているだろうと思われ。
しかし既読にならないままのそのメッセージに、ルカは不安を感じないではいられなかった。
仕事で見られていないのか、それとも……無視。
その可能性も否定できないだけに、携帯の画面を起動させて待つことさえ怖くて。
ルカはスリープさせたままの携帯を祈るように見つめた。
“あ、ごめんー。お風呂入ってたー”
十分程して、そんなあっけらかんとしたメッセージが入り、肩の力が抜ける。
“どしたー? なな、さやちゃんトコお泊まりでしょ? 何かあった?”
そっか。
ゆかりの総てである、七海がウチにいるから。
彼女は田所家からのメッセージを無視なんてできないのだ。
ルカは軽く苦笑した。
“ななちゃんはイイコしてます。それとは別件で、ゆかりちゃん、今話せる? 電話していいかな?”
さて。
その文章を送ってから少し後悔する。
七海に絡まない話なら、ゆかりがルカと話す必要はないのだから。
彼女が断る、あるいは無視することは、あり得るわけで。
“いいけど、ちょっと待ってー。急ぎじゃないなら、髪乾かしてからでもいいかな?”
ところがルカの心配をよそに、ゆかりからはあっさりとそんな返事が来た。
ほっとして、「OK」のスタンプだけ送って、ルカは気持ちを落ち着かせた。
深月のしたことに対してのお詫び。
それと。
……ほんとは、逢いたい。
考えてから、首を振った。それは、言ってはいけない。
いつか。
そう、いつかこの気持ちがゆかりのそれと同じカテゴリに整理されるまでは、きっと逢ってはいけないのだから。
今はとにかくゆかりに謝りたかった。
深月が何を言ったのかはわからないが、自分がフられてからも我が家に普通に出入りしていたゆかりが、ここ数日美紅さえもが訝しむくらいの様子を見せていることが気になる。
あの一瞬で自分のゆかりへの気持ちを見抜いた深月にはかなり驚いたが、それだけではなく更にゆかりの家まで探し当ててわざわざ会いに行く、なんて。
想像もしていなかっただけに、そのフォローもどうしていいのかわからないでいるのだが。
でも、そんなことより。
そう、深月には悪いが、彼女よりもやっぱり自分にはゆかりが最優先なのだ。
ゆかりが深月の存在をどう感じたのか、どう受け止めているのか。その方が心配で。
“お待たせー”
悩んでいると、ゆかりからのメッセージが届いた。
ので、電話、する。
「ごめん、ゆかりちゃん」
開口一番そう言い放つと、ルカは誰も見ていないけれども頭を下げた。
「え。何のこと?」
「深月が……えっと、あの時の女の子が、ゆかりちゃんにひどいこと言ったって聞いて」
本当に、何も気にしていないようなゆかりに、しかしルカはひたすら謝るしかない。
「ほんと、ごめん!」
「やーだ、七海から聞いたの? あんなのるーちゃんが謝ることじゃないよー」
ゆかりは、まるで気にも留めていない様子で明るく答えた。
「健気じゃない。七海が何言ったか知らないけど、あんなの、彼女だったら当然それくらい言いたくなっちゃうものよ」
いつものように優しい笑い声。クスクスと、本当に何にも気になんてしていない様子。
それは、まるでルカなんて眼中にないと言っているようで。
だから、少し寂しくなる。
「あたしのことなんて何も気にしなくていいのに。でも、彼女だったら気になっちゃうんだよね。それくらいるーちゃんのこと……」
ゆかりが言い澱む。
「ゆかりちゃん?」
やっぱり。深月がゆかりにかなりキツめなことを言ったのか、とルカは少し眉をひそめた。
「ごめん、俺、あいつと付き合ってないから」
「やだ、るーちゃん。そんなの」
「いや、ほんとの話、彼女なんかじゃないから」
言い訳がましいけれど、ゆかりには関係ないかもしれないけれど。でも、これだけは伝えたくて。
「あのあとあいつから付き合ってって言われたんだけど、俺断ったんだ。だってまだ……」
今度はルカが言い澱んだ。
“ゆかりちゃん、今、話せる?”
部屋でそれだけのメッセージを入れた。
メッセージのやりとりではなく、直接話をしたかったから。
七海が泊まっているということは残業も考えられたが、さすがにこの時間なら帰宅しているだろうと思われ。
しかし既読にならないままのそのメッセージに、ルカは不安を感じないではいられなかった。
仕事で見られていないのか、それとも……無視。
その可能性も否定できないだけに、携帯の画面を起動させて待つことさえ怖くて。
ルカはスリープさせたままの携帯を祈るように見つめた。
“あ、ごめんー。お風呂入ってたー”
十分程して、そんなあっけらかんとしたメッセージが入り、肩の力が抜ける。
“どしたー? なな、さやちゃんトコお泊まりでしょ? 何かあった?”
そっか。
ゆかりの総てである、七海がウチにいるから。
彼女は田所家からのメッセージを無視なんてできないのだ。
ルカは軽く苦笑した。
“ななちゃんはイイコしてます。それとは別件で、ゆかりちゃん、今話せる? 電話していいかな?”
さて。
その文章を送ってから少し後悔する。
七海に絡まない話なら、ゆかりがルカと話す必要はないのだから。
彼女が断る、あるいは無視することは、あり得るわけで。
“いいけど、ちょっと待ってー。急ぎじゃないなら、髪乾かしてからでもいいかな?”
ところがルカの心配をよそに、ゆかりからはあっさりとそんな返事が来た。
ほっとして、「OK」のスタンプだけ送って、ルカは気持ちを落ち着かせた。
深月のしたことに対してのお詫び。
それと。
……ほんとは、逢いたい。
考えてから、首を振った。それは、言ってはいけない。
いつか。
そう、いつかこの気持ちがゆかりのそれと同じカテゴリに整理されるまでは、きっと逢ってはいけないのだから。
今はとにかくゆかりに謝りたかった。
深月が何を言ったのかはわからないが、自分がフられてからも我が家に普通に出入りしていたゆかりが、ここ数日美紅さえもが訝しむくらいの様子を見せていることが気になる。
あの一瞬で自分のゆかりへの気持ちを見抜いた深月にはかなり驚いたが、それだけではなく更にゆかりの家まで探し当ててわざわざ会いに行く、なんて。
想像もしていなかっただけに、そのフォローもどうしていいのかわからないでいるのだが。
でも、そんなことより。
そう、深月には悪いが、彼女よりもやっぱり自分にはゆかりが最優先なのだ。
ゆかりが深月の存在をどう感じたのか、どう受け止めているのか。その方が心配で。
“お待たせー”
悩んでいると、ゆかりからのメッセージが届いた。
ので、電話、する。
「ごめん、ゆかりちゃん」
開口一番そう言い放つと、ルカは誰も見ていないけれども頭を下げた。
「え。何のこと?」
「深月が……えっと、あの時の女の子が、ゆかりちゃんにひどいこと言ったって聞いて」
本当に、何も気にしていないようなゆかりに、しかしルカはひたすら謝るしかない。
「ほんと、ごめん!」
「やーだ、七海から聞いたの? あんなのるーちゃんが謝ることじゃないよー」
ゆかりは、まるで気にも留めていない様子で明るく答えた。
「健気じゃない。七海が何言ったか知らないけど、あんなの、彼女だったら当然それくらい言いたくなっちゃうものよ」
いつものように優しい笑い声。クスクスと、本当に何にも気になんてしていない様子。
それは、まるでルカなんて眼中にないと言っているようで。
だから、少し寂しくなる。
「あたしのことなんて何も気にしなくていいのに。でも、彼女だったら気になっちゃうんだよね。それくらいるーちゃんのこと……」
ゆかりが言い澱む。
「ゆかりちゃん?」
やっぱり。深月がゆかりにかなりキツめなことを言ったのか、とルカは少し眉をひそめた。
「ごめん、俺、あいつと付き合ってないから」
「やだ、るーちゃん。そんなの」
「いや、ほんとの話、彼女なんかじゃないから」
言い訳がましいけれど、ゆかりには関係ないかもしれないけれど。でも、これだけは伝えたくて。
「あのあとあいつから付き合ってって言われたんだけど、俺断ったんだ。だってまだ……」
今度はルカが言い澱んだ。
0
あなたにおすすめの小説
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる