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自分の中で、埴生がかなりの面積を占めてきていること。
それに気付いたのは結局埴生のバイトの契約が切れ、会社を去った後だった。
中途半端な状態で顔を合わす時間がなく、結局埴生は何の挨拶もなく和泉たちの前から姿を消した。
その事実が和泉の中に大きな空洞を作り、そして気付いた。
自分が埴生の存在に支えられていたこと。
高倉との関係を解消し、一人になってただ仕事や雑事に追われる毎日を過ごし、ぼんやりとする僅かな時間に考えるのは埴生の存在。
けれど、全くその当人が接触を断ち、いつの間にか姿を消したという事実。
それは和泉にとって衝撃だった。
しかし、日々は流れる。
何事もなかったかのように、和泉を取り巻く日常はただ流れて行き、気が付くと春が巡ってこようとしていた。
「今日、新卒が挨拶に回ってくるんだって」
村田が言ったのは現場に向かう作業車両の中。
今日も今日とてひたすら現場作業に赴く工事部である。
たとえ年度替りの四月頭であろうとも、それには全くお構いなしである。
「ふーん。けど工事部には誰も来ないでしょ? どっちみち暫くは本社で研修だし」
「ん、まあね。とりあえず、挨拶だけ人事部の部長と課長が新卒みんな引き連れて周るらしいよ」
「オレんとき、そんなことしたっけ?」
ほんの五年前のことだが、和泉にはそんな記憶はない。
「してないっしょ。野村部長が人事部長になってからだから。あのじじい、各事務所の庶務のねーちゃん見たくて何かっちゃー事務所周りしってっからさ」
村田が鼻で笑いながら言った。
「ははは、言えてる言えてる。あのエロじじい、人事部の森井ちゃんがすげー嫌がってたよ」
「同期だっけ? 森井さんってあの由佳ねーさんの後輩なんだろ? 結構かわいいらしいじゃん」
「うん、おだちんもかわいーかわいーって言ってる。けどオレはあんまし好みじゃない。森井ちゃんって結構うるさいし。どっちかっつーと中村さんの方がいいなー」
「お嬢様系ね。ありゃーちょっと誰も手が出せないだろうね」
粒ぞろいの女性社員のことは男性社員殆どが熟知している。
密かにベストテンとかのランク付けまであるらしいが、系統によっていろいろあるので大体どの女の子もどこかのベストテン入りしているのだが。
「和泉の好みは色白ほっそりお嬢様ってヤツ?」
「ん、かなー。村田さんは?」
「オレは何でもアリさ!」
今年で三十になる村田は未だ独身、しかも彼女ナシ、という寂しい状況のせいか、かなり切羽詰った様子をたまに見せる。
勿論部内とか男連中の集まる中だけだが。
それがおかしくて和泉はよく村田をからかった。
「あーもう。どうせ新卒男ばっかだろうしなー。かわいいおねーちゃんが事務所に来てくれたらなー」
掛け値ナシの本音である。
村田のその呟きがかなり切実そうで、和泉は笑った。
「ムリムリ。うちの事務所、そんな余裕ねーもん」
「だよなー」
相変わらず継子状態の工事部。
もう庶務を雇うだけの余裕がないのも確かであるため、社内男連中の間では“掃き溜め”と噂される程である。
「ま、どっちにしろ、事務所にゃ今日は誰もいねーし、挨拶周りなんてオレたちには関係ないさね」
「そーっスね」
寂しい男二人、ため息を吐いてその話を切り上げた。
それに気付いたのは結局埴生のバイトの契約が切れ、会社を去った後だった。
中途半端な状態で顔を合わす時間がなく、結局埴生は何の挨拶もなく和泉たちの前から姿を消した。
その事実が和泉の中に大きな空洞を作り、そして気付いた。
自分が埴生の存在に支えられていたこと。
高倉との関係を解消し、一人になってただ仕事や雑事に追われる毎日を過ごし、ぼんやりとする僅かな時間に考えるのは埴生の存在。
けれど、全くその当人が接触を断ち、いつの間にか姿を消したという事実。
それは和泉にとって衝撃だった。
しかし、日々は流れる。
何事もなかったかのように、和泉を取り巻く日常はただ流れて行き、気が付くと春が巡ってこようとしていた。
「今日、新卒が挨拶に回ってくるんだって」
村田が言ったのは現場に向かう作業車両の中。
今日も今日とてひたすら現場作業に赴く工事部である。
たとえ年度替りの四月頭であろうとも、それには全くお構いなしである。
「ふーん。けど工事部には誰も来ないでしょ? どっちみち暫くは本社で研修だし」
「ん、まあね。とりあえず、挨拶だけ人事部の部長と課長が新卒みんな引き連れて周るらしいよ」
「オレんとき、そんなことしたっけ?」
ほんの五年前のことだが、和泉にはそんな記憶はない。
「してないっしょ。野村部長が人事部長になってからだから。あのじじい、各事務所の庶務のねーちゃん見たくて何かっちゃー事務所周りしってっからさ」
村田が鼻で笑いながら言った。
「ははは、言えてる言えてる。あのエロじじい、人事部の森井ちゃんがすげー嫌がってたよ」
「同期だっけ? 森井さんってあの由佳ねーさんの後輩なんだろ? 結構かわいいらしいじゃん」
「うん、おだちんもかわいーかわいーって言ってる。けどオレはあんまし好みじゃない。森井ちゃんって結構うるさいし。どっちかっつーと中村さんの方がいいなー」
「お嬢様系ね。ありゃーちょっと誰も手が出せないだろうね」
粒ぞろいの女性社員のことは男性社員殆どが熟知している。
密かにベストテンとかのランク付けまであるらしいが、系統によっていろいろあるので大体どの女の子もどこかのベストテン入りしているのだが。
「和泉の好みは色白ほっそりお嬢様ってヤツ?」
「ん、かなー。村田さんは?」
「オレは何でもアリさ!」
今年で三十になる村田は未だ独身、しかも彼女ナシ、という寂しい状況のせいか、かなり切羽詰った様子をたまに見せる。
勿論部内とか男連中の集まる中だけだが。
それがおかしくて和泉はよく村田をからかった。
「あーもう。どうせ新卒男ばっかだろうしなー。かわいいおねーちゃんが事務所に来てくれたらなー」
掛け値ナシの本音である。
村田のその呟きがかなり切実そうで、和泉は笑った。
「ムリムリ。うちの事務所、そんな余裕ねーもん」
「だよなー」
相変わらず継子状態の工事部。
もう庶務を雇うだけの余裕がないのも確かであるため、社内男連中の間では“掃き溜め”と噂される程である。
「ま、どっちにしろ、事務所にゃ今日は誰もいねーし、挨拶周りなんてオレたちには関係ないさね」
「そーっスね」
寂しい男二人、ため息を吐いてその話を切り上げた。
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