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51 侍従長の祝福
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翌朝、ルルシェは幸福な気分で目が覚めた――が、昨晩の記憶はぼんやりとしており、どうして見知らぬ部屋で寝ているのかよく分からない。
夜にリョーシィ姫に呼び出されたことは覚えている。神水というありがたい飲み物をもらったが、それが原因で酔ってしまった事も覚えている。
(でもその後はどうだったっけ? すごくいい事があったような気もするけど……)
リョーシィに事の顛末を訊こうかとも思ったが、まだ早朝だ。こんな時間に訪ねるわけにもいかず、ルルシェはとりあえず自室へ戻って男物の服に着がえた。イグニスの鍛錬に付き合うためである。
着がえているとき、体中に赤い跡が散っているのに気づき血の気が引くほど驚いた。昨晩、一体なにがあったのだろう。
跡を残したのはイグニスだろうか――彼じゃなかったらどうしよう? 乳房だの脚の付け根だの、かなり際どいところまで跡があるのに。
しかし懐かしい人と一緒だったという覚えはあるのだから、やはりイグニスで間違いないだろう。そう考えておかないと精神がもたない。
昨晩なにかがあって、リョーシィはイグニスを呼び、ルルシェは彼と二人きりになった。二人になったあと、酔った勢いでイグニスに絡んでしまった……とか? それでもう一度、恋人ごっこをする事になったとか。
(とりあえず、謝ったほうがいいよね。酔っぱらっちゃったのは私だし……)
着がえたルルシェは急いで訓練場を目指した。イグニスはすでに来ており、重たい木剣を軽々と振っている。彼の後ろでは二人の侍従と、久しぶりに会う人がルルシェに気づいてほほ笑んだ。侍従長だ。
「あっ侍従長、お久しぶりです! あの……九年もお世話になったのに、騙していて本当に申し訳ありませんでした」
「いいのですよ。お元気そうでなによりです。ところでルルシェ嬢、昨夜のことをお聞きしたいのですが」
ルルシェは「えっ」と小さく叫んで身を強張らせた。
(どうして昨夜のことを侍従長が気にするの? 私、よっぽど不味いことしちゃったの?)
侍従長もイグニスも、二人の侍従までルルシェを食い入るように見ている。尋問を受けている気分になり、変な汗が出てきた。
「あの……実はあまり覚えていなくて。陛下に失礼なことをしていたのなら、お詫びします」
「いいえ、失礼なことなど無かったようですから大丈夫です。大体でいいのですが、どんな気持ちだったか……悲しかったのか、嬉しかったのか、何か覚えていませんか?」
侍従長の顔は真剣そのものだ。イグニスも、後ろの二人も。嘘をつけるような雰囲気ではなく、ルルシェはごくりとのどを鳴らして口を開いた。
「えぇと……。昨夜は、とても幸せな気持ちだった……と思います。今朝の寝覚めも良かったし。私は多分、酔っていたと思うのですが」
いちど言葉を切り、四人の様子を伺う。彼らは黙したまま、ルルシェの言葉の続きを待つだけだ。正直に言うしかない。
「ずっと欲しかったものが、手に入ったような……おまえにあげるよと言ってもらえたような、すごく嬉しくて幸せな気持ちでした」
言い終えた途端、イグニスが拳を天に向かって突き上げたので、ルルシェはびくりと体を揺らした。
(何なの、その反応は。怒ってるの?)
そして周囲に響き渡るパチパチという音。侍従長と二人の侍従が、なぜか拍手をしているのだ。しかし拍手の意味が分からない。
結局その日の朝は鍛錬をせずにイグニスと別れた。彼らは一様に上機嫌で、ルルシェはひとり取り残された気分であった。
夜にリョーシィ姫に呼び出されたことは覚えている。神水というありがたい飲み物をもらったが、それが原因で酔ってしまった事も覚えている。
(でもその後はどうだったっけ? すごくいい事があったような気もするけど……)
リョーシィに事の顛末を訊こうかとも思ったが、まだ早朝だ。こんな時間に訪ねるわけにもいかず、ルルシェはとりあえず自室へ戻って男物の服に着がえた。イグニスの鍛錬に付き合うためである。
着がえているとき、体中に赤い跡が散っているのに気づき血の気が引くほど驚いた。昨晩、一体なにがあったのだろう。
跡を残したのはイグニスだろうか――彼じゃなかったらどうしよう? 乳房だの脚の付け根だの、かなり際どいところまで跡があるのに。
しかし懐かしい人と一緒だったという覚えはあるのだから、やはりイグニスで間違いないだろう。そう考えておかないと精神がもたない。
昨晩なにかがあって、リョーシィはイグニスを呼び、ルルシェは彼と二人きりになった。二人になったあと、酔った勢いでイグニスに絡んでしまった……とか? それでもう一度、恋人ごっこをする事になったとか。
(とりあえず、謝ったほうがいいよね。酔っぱらっちゃったのは私だし……)
着がえたルルシェは急いで訓練場を目指した。イグニスはすでに来ており、重たい木剣を軽々と振っている。彼の後ろでは二人の侍従と、久しぶりに会う人がルルシェに気づいてほほ笑んだ。侍従長だ。
「あっ侍従長、お久しぶりです! あの……九年もお世話になったのに、騙していて本当に申し訳ありませんでした」
「いいのですよ。お元気そうでなによりです。ところでルルシェ嬢、昨夜のことをお聞きしたいのですが」
ルルシェは「えっ」と小さく叫んで身を強張らせた。
(どうして昨夜のことを侍従長が気にするの? 私、よっぽど不味いことしちゃったの?)
侍従長もイグニスも、二人の侍従までルルシェを食い入るように見ている。尋問を受けている気分になり、変な汗が出てきた。
「あの……実はあまり覚えていなくて。陛下に失礼なことをしていたのなら、お詫びします」
「いいえ、失礼なことなど無かったようですから大丈夫です。大体でいいのですが、どんな気持ちだったか……悲しかったのか、嬉しかったのか、何か覚えていませんか?」
侍従長の顔は真剣そのものだ。イグニスも、後ろの二人も。嘘をつけるような雰囲気ではなく、ルルシェはごくりとのどを鳴らして口を開いた。
「えぇと……。昨夜は、とても幸せな気持ちだった……と思います。今朝の寝覚めも良かったし。私は多分、酔っていたと思うのですが」
いちど言葉を切り、四人の様子を伺う。彼らは黙したまま、ルルシェの言葉の続きを待つだけだ。正直に言うしかない。
「ずっと欲しかったものが、手に入ったような……おまえにあげるよと言ってもらえたような、すごく嬉しくて幸せな気持ちでした」
言い終えた途端、イグニスが拳を天に向かって突き上げたので、ルルシェはびくりと体を揺らした。
(何なの、その反応は。怒ってるの?)
そして周囲に響き渡るパチパチという音。侍従長と二人の侍従が、なぜか拍手をしているのだ。しかし拍手の意味が分からない。
結局その日の朝は鍛錬をせずにイグニスと別れた。彼らは一様に上機嫌で、ルルシェはひとり取り残された気分であった。
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