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アーサー学校へ行く
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湯浴みをすませて寝る前、並べられたベッドを見たアーサーは複雑そうな顔をした。もしかして一緒に寝るのが嫌だったのかな。
「ごめんね、アーサー。ベッドが足りないの」
「い、いや……僕のせいなんだから気にしないでくれ。ロイクが真ん中になって寝よう。その方がいい」
アーサーは早口でボソボソ言ったあと、壁を向いて寝てしまった。彼の耳は少し赤かった。アーサーは元々ひとりで寝ていたのかも知れない。だから子供みたいに並んで寝るのが恥ずかしいのかもしれない。
私もベッドに横になった。並べただけで真ん中は隙間があいてるから、ベッドと垂直になるように寝ている。これだとベッドの隙間が腰の下になるからまだマシだ。
私は夕食のときの父の言葉を思い出していた。アーサーが同学年という事実にも驚いたけど、彼が学校へ来たときの生徒たちの反応の方が怖い。特に女子生徒たちは大騒ぎするだろう。出来ることなら他人の振りをしたいけど、そんなことを言ったらアーサーは怒るかな……。
私は不安を抱えながら目を瞑った。だけどやっぱりよく眠れなかった。
アーサーの初登校日がやってきた。
私たちは仲良く三人で家を出て道を歩いている。いつもと違うのはアーサーがいることと、私が帽子を深く被っていることだった。
アーサーを突き放すことも出来ず、かと言って目立つのも嫌な私は、通学中に帽子で顔を隠すことにしたのだ。これで遠くからは、私の顔が見えないはずだから。
「おはよー」
「おはよう」
いつも道で会う同級生は、一度挨拶したのに振り返ってこちらを見ている。こちら、と言うかアーサーを見ているんだろう。同級生は男子なのに、彼から見てもやっぱりアーサーは二度見するレベルなのか。これは学校に着いたら大変なことになるかもしれない。
学校に着くどころか、門をくぐる前からアーサーは学生たちの視線を奪いっぱなしだった。教室に入ってからも当然ながら彼は注目を浴び、目立ちたくない私まで好奇の目を向けられた。
おまけに何の拷問なのか、アーサーの席は私の隣であった。気を利かせた先生が手配したのだろうけど余計なことをするなと言いたくなる。
「僕の席はリヴィの隣だね」
アーサーが隣の席で嬉しそうに微笑んでいる。私もぎこちない笑みを返した。彼が笑うたびに女子生徒がウットリするので、教室内は異様な空気に包まれている。
「おはよー。ねえ、名前を聞いてもいいかしら? 私はサマンサよ、よろしく!」
早速来たのか。さすがだわ、サマンサ。彼女の積極性は時々うらやましい。
「僕はアーサー。よろしく」
サマンサを皮切りに、アーサーの机の周りは女子生徒で埋め尽くされた。誰もが自分の名前を叫んでいるのだけれど、お互いに打ち消しあってほとんど聞き取れない。
遠巻きに見ている男子たちが迷惑そうな顔をしている。ああ、誰か何とかして……。
「リヴィ、助けてくれ」
アーサーが悲痛な声を出した途端、きゃあきゃあという黄色い声がぴたりと止んだ。彼は逃げるように女子の隙間から這い出て私の背中に隠れている。周囲の女子よりも小さい彼の姿は、女の子の母性を刺激するみたいだ。
「かっ、かわいいわぁっ……!」
「ずるいわよ、リヴィ! アーサー君を独り占めしないでよ」
「独り占めしてるわけじゃ……」
「おーい、授業始めるぞー。席に着けー」
ちょうど先生が教室に入ってきたのでホッとした。でもこれからのことを考えると気が重い。目立ちたくないと思って過ごして来たのに、このままでは学校中の女子生徒を敵に回してしまいそうだ。何とかしなければ……。
休み時間、またもやアーサーは女子に囲まれていた。「私と一緒に学校を回りましょう!」とか「私が先に言ったのよ!」とか言う声が聞こえる。アーサーはまた私の背後に回ったので、ここぞとばかりに声を上げた。
「アーサーは私の家の子だから、姉として私が面倒を見るわ。私、姉だから!」
姉と言う単語を二回も使ってやった。何だかすっきりした。周囲の子も、「まあお姉さんに懐いてるなら、仕方ないか」なんて言い出したので、私はアーサーの手を引いて廊下に連れ出す。
「少し学校の中を歩いてみましょう。アーサーは静かな方が好き?」
「うん。あまりうるさい場所には慣れてないんだ……」
アーサーは育ちが良さそうだから、学校には通わずに家庭教師でも付いていたのかもしれない。私はアーサーを連れて階段を上がった。私たちのクラスは二階で、この上には図書室や音楽室があるだけだ。だから三階へ来るとあっという間に静かになる。
「静かでしょ」
「うん……とても落ち着く……」
アーサーは三階が気に入った様子で、休憩のたびに私は手を引かれて彼と一緒に階段をのぼった。端から見ればお姉ちゃんと弟が校内を散歩しているように見えただろう。
だけどそれこそ私の作戦どおりで、この日からアーサーの面倒を見ていても「リヴィはお姉さんだから」という理由で女子たちにうるさく言われる事はなくなった。お姉さんだから、の意味は、だから恋愛対象ではない、という意味なのだ。
「ごめんね、アーサー。ベッドが足りないの」
「い、いや……僕のせいなんだから気にしないでくれ。ロイクが真ん中になって寝よう。その方がいい」
アーサーは早口でボソボソ言ったあと、壁を向いて寝てしまった。彼の耳は少し赤かった。アーサーは元々ひとりで寝ていたのかも知れない。だから子供みたいに並んで寝るのが恥ずかしいのかもしれない。
私もベッドに横になった。並べただけで真ん中は隙間があいてるから、ベッドと垂直になるように寝ている。これだとベッドの隙間が腰の下になるからまだマシだ。
私は夕食のときの父の言葉を思い出していた。アーサーが同学年という事実にも驚いたけど、彼が学校へ来たときの生徒たちの反応の方が怖い。特に女子生徒たちは大騒ぎするだろう。出来ることなら他人の振りをしたいけど、そんなことを言ったらアーサーは怒るかな……。
私は不安を抱えながら目を瞑った。だけどやっぱりよく眠れなかった。
アーサーの初登校日がやってきた。
私たちは仲良く三人で家を出て道を歩いている。いつもと違うのはアーサーがいることと、私が帽子を深く被っていることだった。
アーサーを突き放すことも出来ず、かと言って目立つのも嫌な私は、通学中に帽子で顔を隠すことにしたのだ。これで遠くからは、私の顔が見えないはずだから。
「おはよー」
「おはよう」
いつも道で会う同級生は、一度挨拶したのに振り返ってこちらを見ている。こちら、と言うかアーサーを見ているんだろう。同級生は男子なのに、彼から見てもやっぱりアーサーは二度見するレベルなのか。これは学校に着いたら大変なことになるかもしれない。
学校に着くどころか、門をくぐる前からアーサーは学生たちの視線を奪いっぱなしだった。教室に入ってからも当然ながら彼は注目を浴び、目立ちたくない私まで好奇の目を向けられた。
おまけに何の拷問なのか、アーサーの席は私の隣であった。気を利かせた先生が手配したのだろうけど余計なことをするなと言いたくなる。
「僕の席はリヴィの隣だね」
アーサーが隣の席で嬉しそうに微笑んでいる。私もぎこちない笑みを返した。彼が笑うたびに女子生徒がウットリするので、教室内は異様な空気に包まれている。
「おはよー。ねえ、名前を聞いてもいいかしら? 私はサマンサよ、よろしく!」
早速来たのか。さすがだわ、サマンサ。彼女の積極性は時々うらやましい。
「僕はアーサー。よろしく」
サマンサを皮切りに、アーサーの机の周りは女子生徒で埋め尽くされた。誰もが自分の名前を叫んでいるのだけれど、お互いに打ち消しあってほとんど聞き取れない。
遠巻きに見ている男子たちが迷惑そうな顔をしている。ああ、誰か何とかして……。
「リヴィ、助けてくれ」
アーサーが悲痛な声を出した途端、きゃあきゃあという黄色い声がぴたりと止んだ。彼は逃げるように女子の隙間から這い出て私の背中に隠れている。周囲の女子よりも小さい彼の姿は、女の子の母性を刺激するみたいだ。
「かっ、かわいいわぁっ……!」
「ずるいわよ、リヴィ! アーサー君を独り占めしないでよ」
「独り占めしてるわけじゃ……」
「おーい、授業始めるぞー。席に着けー」
ちょうど先生が教室に入ってきたのでホッとした。でもこれからのことを考えると気が重い。目立ちたくないと思って過ごして来たのに、このままでは学校中の女子生徒を敵に回してしまいそうだ。何とかしなければ……。
休み時間、またもやアーサーは女子に囲まれていた。「私と一緒に学校を回りましょう!」とか「私が先に言ったのよ!」とか言う声が聞こえる。アーサーはまた私の背後に回ったので、ここぞとばかりに声を上げた。
「アーサーは私の家の子だから、姉として私が面倒を見るわ。私、姉だから!」
姉と言う単語を二回も使ってやった。何だかすっきりした。周囲の子も、「まあお姉さんに懐いてるなら、仕方ないか」なんて言い出したので、私はアーサーの手を引いて廊下に連れ出す。
「少し学校の中を歩いてみましょう。アーサーは静かな方が好き?」
「うん。あまりうるさい場所には慣れてないんだ……」
アーサーは育ちが良さそうだから、学校には通わずに家庭教師でも付いていたのかもしれない。私はアーサーを連れて階段を上がった。私たちのクラスは二階で、この上には図書室や音楽室があるだけだ。だから三階へ来るとあっという間に静かになる。
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