貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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アーサー、モテる

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 上手くいった……!

 私は食堂で昼ごはんを食べながら、テーブルの下でそっと拳を握っていた。食堂のメニューは基本的に三種類しかない。肉か魚か麺料理か、である。私はいつものように肉料理を食べていた。伯爵家では食べられない肉が、学食では無料で食べられるというのもなんだか皮肉だな……何回、肉って言っただろ。

「リヴィ、僕の料理と少し交換しないか?」

 隣に座ったアーサーがにこやかに皿を差し出している。私は「いいよ」と答えて、彼が食べている魚のフライとローストビーフを一つずつ交換した。魚もなかなかおいしい。さばくのが嫌いな母はあまり魚料理を作ってくれないのだ。

「美味しいね」

「うん」

 笑うアーサーは確かに可愛い。庇護欲をかき立てられるような魅力があると思う。それだけに不思議だ、彼はどうして山の中になんて倒れていたんだろう。

 私たちが座る席の周囲は女子で埋め尽くされ、誰もがアーサーの一挙一動を見守っている。今や彼は学校のアイドルのようなものだった。誰のものでもない、公認のアイドル。

 遠くからロイクが手を振っているのが見えたので、私も手を伸ばして振り返した。こういう“家族です”アピールも重要だと思っている。

 食べ終わった私たちは、食器を載せたトレーを持って返却コーナーへ行き、一緒に教室へ向かって歩き出した。羨ましそうな視線が背中にちくちくと刺さるのを感じる。

 アーサーは何回か女子生徒に呼び出されているし、告白でもされているんだろうけど、誰ともお付き合いはしていないらしい。断られた子は当然、私のことを恨んでいるだろうなと思う。それは分かっている。

 分かってるけど。
 でもまさか八つ当たりされるなんて。

「リヴィ。いい加減にアーサー君を解放しなさいよ」

 15分の休憩時間に私は三人の同級生に呼び出されていた。校舎のいちばん端にある階段はほとんど使う人がいないので、踊り場は誰かを呼び出すのに都合がいいのだ。だからって呼び出されたいとは全然思ってない。

「か、解放? 私はアーサーを束縛した覚えはないけど」

「じゃあなんで彼は告白される度に、僕が好きなのはリヴィだから、とか言ってんのよ。あなたがそう答えるように家で誘導してるんじゃないの?」

「してない、してない!」

 何なのそれは。初耳なんですけど。
 一体どうしてそんな事になってるんだろ。これは一度、アーサーに話を聞かなきゃならない。

「じゃあアーサー君が誰とお付き合いしようと、あなたは邪魔しないのね?」

「うん。しません」

 きっぱりと答えたのが満足だったのか、同級生たちは教室へ戻って行った。
 ひとり踊り場に残った私は悶々と考えていた。どうしてアーサーは妙なことを言ったんだろう。せっかく姉として振る舞ってきた努力が無駄になってしまうじゃないの。アーサーと二人きりになったら話をしてみよう。



 学校からの帰り道、アーサーと二人で並んで歩きながら私はどう話を切り出そうかと悩んでいた。まずは世間話でもした方がいいだろうか。

「最近リンゼイには辻馬車が増えたよね。隣のウィルド市から来てるのかしら?」

「そうだよ。ウィルド市よりもリンゼイの方が賃料が安いからね。交通費込みでもこっちに住む方がお得なんだよ」

「そ、そうなんだ」

 アーサーってほんと何者なんだろう。子供の意見じゃないよねこれ。
 いやそれより、本題、本題。

「アーサーってさ……結構、モテるよね」

「うん、すごく困ってる」

「困ってる? 女の子にモテるのって困るの?」

「それはそうだろ。しょっちゅう周りで大騒ぎされてみなよ。煩いだけだし、全く興味ない子に好きって言われても何とも思わない」

 なかなか辛辣な意見だ。アーサーって見た目が天使みたいだからギャップを感じる。

「あの……告白された時、私を理由に使うのはやめてくれない? はっきりと誰も好きじゃないって言えばいいと思うんだけど」

「言ったよ。でもああいう人たちは自分は特別だと思い込んでて、私なら大丈夫、みたいな変な自信を持ってるんだよ……だからリヴィが好きって事にさせてもらった。そんなに迷惑だった?」

 夕日に照らされたアーサーの瞳が切なそうに細められている。何だか後ろめたい気分だ。

「ちょ、ちょっとだけ……。他にいい方法ないかな?」

「ねえリヴィ。僕たち、お付き合いしてるって事にしないか?」

「はあ?」

 私は思わず歩いていた足を止めた。何いってんのこの人。私たち一応、遠縁の親戚ってことになってるし、私はアーサーを弟だと思ってるのに。と言うか弟という事にしとかないと学校で女子を敵に回しちゃうじゃないの。
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