貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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ハインツに相談する

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 三ヶ月も経つと、辞書を使えば新聞だって読めるようになってきた。カイザーとハインツさんが早口で会話していても何となく聞き取れる。私の頭がエフレイン語に馴染んできたみたいだ。やった!

 でもまだまだ流暢な会話とまでは行かないので、モナが話した文章を紙に書き取る練習をしつこくやったり、カイザーとのお喋りに時間を使ったりしていた。

「リヴィ。今日は庭を散歩してみないか?」

 国王になってしばらくは忙しそうだったカイザーも余裕が出てきたのか、たまに私を外へ連れ出すこともあった。
 前に私が脱走をたくらんだ薔薇の庭だ。
 カイザーと一緒でも、相変わらず熊みたいな騎士は後ろから付いてくる。ついでにモナも。

 薔薇の庭を奥まで進んでいくと、小さな家のようなものがあった。家と呼ぶにはスカスカだ。だって壁も窓もないし、柱に屋根がくっ付いてるだけ。何あれ。

「カイザー。あれは何?」
「ああ、あれは東屋だよ。あの中でお茶にしようか」

 カイザーは私の手を引きながら進んで行く。すっかり背が伸びた彼は、私よりも頭半分ほど大きくなっていた。長い脚を優雅に踏み出しながら歩いてるんだけど、私の歩幅に合わせてくれているようで歩きやすい。レディーファーストとやらを意識してるんだろう。
 でも今は複雑な気分だった。有難いような、余計な事しないでよ、みたいな。

 夏の終わりを迎えて薔薇の花も数が少なくなっていた。でもちらほらと咲いているものもある。多分、冬以外はずっと薔薇を楽しめるように、色んな品種を植えてあるんだろう。さすが王様の庭だ。

 東屋に着くとモナが紅茶を淹れてくれた。私はそれを飲みながら庭を眺めていた。周りは薔薇だらけで世間から切り離された別世界のようだ。

 私が会える人と言えば、モナとカイザーとハインツさん、そして熊みたいな騎士だけ。熊騎士は何も喋らないので実質いないのと同じだった。

 ああ、外の世界に出たい。世間は今どうなってるんだろう。学校のレベッカ達はがっかりしてるだろうな。卒業パーティーのダンス、カイザー抜きになっちゃったから。

 カイザーは私の髪をひとふさ手に取って口付けたりしている。王宮に来て以来、モナが丁寧に私の世話をしてくれるので髪の毛がさらさらになった。お肌もツヤツヤになった。でもあまり嬉しくない。私は豪勢な暮らしよりも自由がほしい。今の生活だとペットにでもなった気分だ。カイザー専用のペット。

 急に気持ち悪くなってきたのでカイザーから目を逸らした。そうか、今の私ってペットと同じなんだ。
 早くここから逃げなければ。この毎日に慣れてしまう前に、早く。

「今日、ハインツさんはいないの?」

「ハインツなら執務室にいるよ。どうかした?」

「別に。いつも一緒だから、どうしたのかなって思っただけ」

 この王宮から一人で逃げ出すなんて無理だ。絶対に協力者が要る。目の前の美形な王様に匹敵するような強い協力者が。
 ハインツさんならどうだろう。私を無理やり連れて来たことを後悔してるみたいだし、もしかしたら脱出を手伝ってくれるんじゃないだろうか。宰相ならそれなりに権力も持っているだろうし。

 とりあえず話をしてみよう。駄目ならまた別の方法を考えればいい。
 私はお茶を飲みながら必死に考えていた。


 数日後、私は「エフレイン語の習得に関して相談がある」という理由でハインツさんを呼び出していた。勿論モナに協力してもらって。

「ハインツさん、急に呼び出してすみません」

「いえいえ、構いませんよ。どうされましたか?」

 鼻の下のヒゲが絶妙に似合っている。ジェントルマンという言葉が相応しい人だ。紳士なら私の気持ちも分かってくれるんじゃないだろうか。

「ごめんなさい。エフレイン語の相談というのは嘘なんです。私、どうしてもここから逃げたいんです。カイザーに騙されて婚約しちゃっただけで、結婚する気なんか全然ありません」

「ああ……やっぱりそうでしたか。急に婚約が決まったので不審に思ってましたが、騙されてたんですか……」

「ハインツさんも、私みたいな他国の田舎娘が国王の妻なんておかしいと思うでしょう? 私はカイザーよりも年上だし」

「失礼ですが、リヴィ様の御年を伺っても?」

「私はもうすぐ16になります」

「16ならカイザー様と一つしか違いませんよ」

「一つ? じゃあカイザーは今15歳ですか? 最初とても小さかったので、もっと年下かと思ってました……」

「カイザー様は幼い頃から兄王子の一派に命を狙われていました。食事に毒が混ぜられる事も度々ありましたので、食べることを恐れたカイザー様の体は成長が遅れたのです。リンゼイ伯爵家では毒の心配もなく、たくさん食べたのでしょうね。大きくなられました……」

「……」

 急に不安になってきた。ハインツさんはカイザーのことをとても大事に思っているらしい。彼の幸せのためなら、私のことなんてどうでもいいと思ってるかも。
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