貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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脱出成功

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 私だってカイザーの事情は気の毒だと思っている。
 でもだからって、私が犠牲になるのはおかしい。納得できない!

「で、でも、エフレインにだって貴族の娘さん達は大勢いらっしゃるでしょう。私よりも王妃にふさわしい人がいるんじゃないですか?」

「まあ、そうですね。妃教育を受けて来た人はいますよ。ただカイザー様はそういう女性が大嫌いで、私としても困ってるんですよね……」

「困ってるんですか」

「ええ。全然お見合いをしてくれないので困ってるんです」

「……じゃあ、こういうのはどうですか。ハインツさんが私をどこかに逃がしたって事にして、お見合いしてくれたら私の居場所を教えてあげるよ、とカイザーに持ちかけるとか」

「……本気で逃げたいのですね」

「はい!」

 ハインツさんは長い溜め息をついている。長すぎて、見てる方が心配になるような溜め息を。

「はーーーーーーー……。分かりました。一度だけ手伝いましょう」

「やった! ありがとうございます!!」

 私は深々とお辞儀をした。嬉しくて顔がニヤけてくるけど、カイザーにばれないようにしないと。

 それから私とハインツさんは念入りに打ち合わせをした。カイザーが不在の日を狙って王宮を出ることになったが、見張りの騎士をなんとかしないといけない。

「脱出する日だけ、私の息が掛かった騎士に交代させましょう」

 何だか悪い支配者のようなことを言うハインツさん。意外と腹黒い人だったのかと不安になった。まあ、あのカイザーの側近なんだからこれぐらいで普通なのかもしれない。


 王宮から逃げる日がやって来た。
 カイザーが馬車で門から出たと同時に、動きやすい服に着替える。ズボンにシャツに細身のジャケット。髪の毛はまとめて帽子の中に入れたので少年のようにも見える。

 ハインツさんは私に少しの路銀と地図を渡してくれた。

「ずっと北にある、ゴダという街でしばらく働くといいですよ。住み込みで働ける場所が多いですから」

「ありがとうございます。お世話になりました。モナもありがとう、元気でね」

 ハインツさんにお礼を言ったあと、モナと握手を交わした。王宮に来た初日からモナにはとてもお世話になった。語学の勉強にも付き合ってくれたし、感謝の言葉もない。モナは目を潤ませながら私に手を振っていた。

 使用人が使う裏門をくぐって王都の街に出た瞬間、解放感でいっぱいになった。
 やったー!
 私は自由だぞー!!
 ……と叫びたい気持ちになったけど我慢。むしろここからが大変なんだ。何しろ王様から逃げる訳だから。

 大変だぞ、と自分に言い聞かせながらも私はウキウキしていた。体まで軽くなったみたいで、たくさんの人で賑わう長い街道を歩いていても、少しも疲れなかった。


◇◇◇


「どういう事だ。なぜ勝手にリヴィを逃がした?」

 日が暮れた頃、陛下は私をリヴィ様の部屋に呼び出した。主を失った部屋は薄暗く、物寂しい気配に満ちている。私はただ黙って頭を下げ続けた。

「何とか言え、ハインツ!」

 私はゆっくりと顔を上げ、カイザー様を見た。彼は怒りのためか顔を赤くしている。カイザー様がこのように怒るのは珍しい。幼い頃から前王に放置され、兄に憎まれてきたせいか、彼はあまり感情を出さない人だった。
 そんなにリヴィ様を気に入っておられるのか。本気で怒るほどに。

「……カイザー様。そろそろリヴィ様を解放しましょう。あなたも王となられたのですから、一人の人間の一生を狂わせるような事をなさっては駄目です」

 私とカイザー様は親子ほども年が離れているが、彼こそ次代の王に相応しいとずっと信じていた。カイザー様は幼い頃から聡明だった。

 実際に王となった彼の慧眼は素晴らしいものがあったが、やはりまだ15歳。為政者として優れていても女性への態度はマズすぎた。ずっと王宮育ちで周りに女の子がいなかったせいかも知れない。

「……なぜ今さらそんな事を言う? リンゼイを出るときには何も言わなかったじゃないか。何か企んでいるんだろう」

 ええ、そうですね。企んでいます。
 さてどうやって話を切り出そうか。もう正直にリヴィ様の気持ちも伝えた方がいいだろうか。

「リヴィ様は、自分よりも王妃に相応しい令嬢がエフレインにもいるでしょう、と申されました。私も同じ意見です。他の女性にもお会いになってください。陛下がお見合いをしてくださったら、リヴィ様の居場所をお伝えしますよ」

 我ながら卑怯なことを言っていると思う。しかし公爵家を始めとして、数多くの貴族たちから何度も見合いの打診をされている。そろそろ返事をしなければ彼等の不満は爆発してしまうだろう。誰にも会わずにリヴィ様だけを選んだ事が失敗なのだ。
 会うだけ会って断られたら先方も諦めるだろうし、とにかく一度お見合いをしてもらわなければ。

「ふぅん。リヴィはそんな事を言っていたのか……。まぁ、いいか。お見合いしてみよう」

「おお! していただけますか!」

「だけどエフレインにリヴィ以上の女性がいるのかな……。僕はリヴィに出会った春の日を鮮明に覚えているんだ」

「はぁ」

「陽光に照らされた彼女の髪は赤く輝き、瞳は暖炉の炎のように柔らかな光を放っていた。リヴィは優しく僕を抱き上げ、水を飲ませ、重かっただろうに山からふもとまで僕をおぶってくれたんだ。恐らく距離にして2kmはあっただろう」

「2km……ですか……」

 なんと言う健脚。私は脳裏にリヴィ様の姿を思い浮かべていた。確かに身が引き締まっている令嬢だとは思ったが、そこまで体力のある方だったとは。

「行き倒れた僕をおぶって2kmも歩いてくれる令嬢なんているのかな。しかも三年前の僕は、王様でも王子でもなかったのに。そんな優しくてたくましい令嬢がこの国にいるだろうか」

「……」

 私はうつむいて床を見つめていた。令嬢たちは皆、従者に「お前が運びなさい」とでも言いそうだし、行き倒れの少年を自分の家ではなく病院にでも突っこみそうだ。

 あの娘たちは“国王”と見合いがしたいだけなのだ。山に倒れているただ見た目のいい少年など見向きもしないだろう。

「まあいいよ。見合いの日取りはお前が決めてくれ」

 カイザー様は部屋から出て行った。
 一人取り残された私は、「この見合いはきっと失敗するだろう」とぼんやり考えていた。
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