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ホテルで働いてます
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エフレインという国は南北に細長く伸びた形をしているらしい。私が暮らしていた王宮は中心より少し南側なので暖かかったが、北端だと春でも雪が残るぐらい寒いのだとか。
私は今、その北端の手前にあるゴダという街のホテルで働いている。寒さゆえに防寒に関する文化が発展したようで、羊の毛で作られた暖かい防寒着はゴダの特産品だ。そしてもう一つ、ゴダを国内でも有名にしたのが温泉だった。
「よし。次の部屋行こうか、ララ」
「はい」
職場の先輩であるサンディさんと一緒に客室の掃除。チェックアウトが済んだ部屋から順に回っている。
今の私は逃亡者なので、『ララ』という偽名を名乗っていた。国王相手にどこまで通用するかは分からないけれど、本名で働くよりはマシだと思う。
支配人との面接で私は裏方の仕事を希望していた。接客なんかしていたらお客さんに顔を見られる機会が増えてしまうし、もし騎士の誰かが私に気が付いたらもうお仕舞いだ。このホテルは住み込みで三食付きというおいしい条件なので、なるべく長く働きたいと思っている。
私がずっと逃げていたらさすがにカイザーも諦めるだろう。王様が婚約者に逃げられるなんて、恥ずかしくて耐えられないだろう。だからその内、新しい婚約者を選ぶに違いない!……と言うのが私の作戦だった。
リンゼイに私の味方はいない。すぐに家に戻ってもまた捕まるだけだ。
ああ、本当に、厄介な美少年を拾ってしまった……。
客室の掃除を終えた私たちは風呂場の掃除に向かった。このホテルには男女共同の温泉があり、入る前には浴衣《よくい》という服を着ることになっている。何でも東方にある国から伝わったそうで、これを着ていれば裸が見えないので便利なのだ。さすがに脱衣所は男女で別れているけれど。
私とサンディさんは女性用の脱衣所からガラス戸を開けて浴場へと入った。温泉は地下からずっと溢れ続けているので、浴槽は屋外に作られている。石造りの浴槽からは少しヌメリのあるお湯が流れ出し、辺りには特有の香りが漂っていた。硫黄の匂いなのだそうだ。
浴場を囲む塀に立てかけてあった網をもって、お湯に浮かんだ木の葉や枝をすくい上げる。あとは床を簡単に掃除すれば終わり。掛け流しだから汚れも溜まりにくいらしい。
少し休憩しようか、と言われ、サンディさんと一緒に従業員用の休憩室へ入った。休憩室は食堂にもなっていて、広い室内に長テーブルがいくつも並んでいる。お湯を沸かすのは自由だから、お茶を淹れて端の席に座った。
サンディさんと世間話をしていると、後ろから「お茶菓子どうぞー」と声を掛けられた。ケビンという名の二十歳ぐらいの男性で、ここで働き出して以来、何度か絡まれている。
ケビンさんはささっと私の隣に座った。グイグイ来る人だから苦手なんだよね。
「ララちゃんてさ、目が綺麗だよね。夕日みたいな色で」
「はぁ……どうも」
「ああ、その冷たさがいい! クセになりそう」
私って呪われてるのかな……。お祓いにでも行ったほうがいいのかも。
私は自分の男運の悪さにウンザリしていた。カイザーといい、この人といい、変な男にばかり絡まれる運命なんだろうか。
「ちょっと! 若い子に手あたり次第に声かけてんじゃないわよ」
「いいじゃんかぁ。ゴダは田舎だから、職場ぐらいしか出会いがないんだよ」
サンディさん、もっと言ってください。
それにしてもゴダって田舎だったんだ。ケビンさんがリンゼイへ来たら驚くだろうな。本物の田舎を見せてやりたい。
私は黙って茶を啜っていた。東方から伝わった黄緑色のお茶で、緑茶というものらしい。疲労回復に効果があると聞いてからこのお茶ばかり飲んでいる。はぁ、温まる。
ゴダは北にあるせいか朝晩冷え込むようになってきた。お金が貯まったら羊の毛の防寒着を買おうかな。それか毛糸を買って自分で編むのもいいかも。
「ねえララちゃん、次の休みに俺とデートしない?」
「すみません、予定があるので」
まだいたのかこの人。
私は毛糸を買いに行きたいのよ。もう男にはしばらく関わりたくないのよ!
「じゃあ予定が無い日を教えて?」
「……ケビンさん。今まで黙ってましたけど、私には婚約者がいるんです。だからお付き合いは出来ません」
「婚約者いたんだ!? どんな人?」
サンディさんが食い付いてくる。他人の恋話って面白いんだろうな。私には地獄としか思えないんだけど。
「えーと。顔はいいんですけど、とにかく甘えん坊な人で」
奴を甘えん坊と評価していいのかどうか分からないけれど、まさか婚約者を軟禁するような人ですとも言えないし。
「へえ、イケメンで甘えん坊なんて最高じゃない!」
エフレインでは顔のいい男性を“イケメン”と呼ぶらしい。最初は何の麺料理かと思っていたけど、今はだいぶ聞き慣れてきた。
私は今、その北端の手前にあるゴダという街のホテルで働いている。寒さゆえに防寒に関する文化が発展したようで、羊の毛で作られた暖かい防寒着はゴダの特産品だ。そしてもう一つ、ゴダを国内でも有名にしたのが温泉だった。
「よし。次の部屋行こうか、ララ」
「はい」
職場の先輩であるサンディさんと一緒に客室の掃除。チェックアウトが済んだ部屋から順に回っている。
今の私は逃亡者なので、『ララ』という偽名を名乗っていた。国王相手にどこまで通用するかは分からないけれど、本名で働くよりはマシだと思う。
支配人との面接で私は裏方の仕事を希望していた。接客なんかしていたらお客さんに顔を見られる機会が増えてしまうし、もし騎士の誰かが私に気が付いたらもうお仕舞いだ。このホテルは住み込みで三食付きというおいしい条件なので、なるべく長く働きたいと思っている。
私がずっと逃げていたらさすがにカイザーも諦めるだろう。王様が婚約者に逃げられるなんて、恥ずかしくて耐えられないだろう。だからその内、新しい婚約者を選ぶに違いない!……と言うのが私の作戦だった。
リンゼイに私の味方はいない。すぐに家に戻ってもまた捕まるだけだ。
ああ、本当に、厄介な美少年を拾ってしまった……。
客室の掃除を終えた私たちは風呂場の掃除に向かった。このホテルには男女共同の温泉があり、入る前には浴衣《よくい》という服を着ることになっている。何でも東方にある国から伝わったそうで、これを着ていれば裸が見えないので便利なのだ。さすがに脱衣所は男女で別れているけれど。
私とサンディさんは女性用の脱衣所からガラス戸を開けて浴場へと入った。温泉は地下からずっと溢れ続けているので、浴槽は屋外に作られている。石造りの浴槽からは少しヌメリのあるお湯が流れ出し、辺りには特有の香りが漂っていた。硫黄の匂いなのだそうだ。
浴場を囲む塀に立てかけてあった網をもって、お湯に浮かんだ木の葉や枝をすくい上げる。あとは床を簡単に掃除すれば終わり。掛け流しだから汚れも溜まりにくいらしい。
少し休憩しようか、と言われ、サンディさんと一緒に従業員用の休憩室へ入った。休憩室は食堂にもなっていて、広い室内に長テーブルがいくつも並んでいる。お湯を沸かすのは自由だから、お茶を淹れて端の席に座った。
サンディさんと世間話をしていると、後ろから「お茶菓子どうぞー」と声を掛けられた。ケビンという名の二十歳ぐらいの男性で、ここで働き出して以来、何度か絡まれている。
ケビンさんはささっと私の隣に座った。グイグイ来る人だから苦手なんだよね。
「ララちゃんてさ、目が綺麗だよね。夕日みたいな色で」
「はぁ……どうも」
「ああ、その冷たさがいい! クセになりそう」
私って呪われてるのかな……。お祓いにでも行ったほうがいいのかも。
私は自分の男運の悪さにウンザリしていた。カイザーといい、この人といい、変な男にばかり絡まれる運命なんだろうか。
「ちょっと! 若い子に手あたり次第に声かけてんじゃないわよ」
「いいじゃんかぁ。ゴダは田舎だから、職場ぐらいしか出会いがないんだよ」
サンディさん、もっと言ってください。
それにしてもゴダって田舎だったんだ。ケビンさんがリンゼイへ来たら驚くだろうな。本物の田舎を見せてやりたい。
私は黙って茶を啜っていた。東方から伝わった黄緑色のお茶で、緑茶というものらしい。疲労回復に効果があると聞いてからこのお茶ばかり飲んでいる。はぁ、温まる。
ゴダは北にあるせいか朝晩冷え込むようになってきた。お金が貯まったら羊の毛の防寒着を買おうかな。それか毛糸を買って自分で編むのもいいかも。
「ねえララちゃん、次の休みに俺とデートしない?」
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私は毛糸を買いに行きたいのよ。もう男にはしばらく関わりたくないのよ!
「じゃあ予定が無い日を教えて?」
「……ケビンさん。今まで黙ってましたけど、私には婚約者がいるんです。だからお付き合いは出来ません」
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「えーと。顔はいいんですけど、とにかく甘えん坊な人で」
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