貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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その頃、王様は

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 サンディさんはカイザーをいい方に評価したようだ。真実を知ったらきっと驚くだろう。この国の王様が少女を拉致して軟禁した挙句、騙して婚約させていたなんて……。改めて文字にするとすごい事されてるな、私。怒っても許されると思う。

 イケメンという単語が気になったのか、遠くのテーブルからイェンナという名前の先輩までやってきた。なぜか手に新聞を持っている。

「イケメンって言えばこの人でしょー! 私のいち押し、国王陛下よ!」

 私は持っていたカップを落としそうになった。イェンナさんが持っている新聞はカイザーが即位した日のものらしく、式典の様子が載っている。誰が描いたのか、カイザーの肖像画は本人かと思うほどよく似ていた。ここにカイザーが来たら「国王陛下だ!」とすぐにバレそうな程だ。

 と言うか、五ヶ月も前の新聞をよく取ってたなあ。イェンナさんそんなにカイザーの顔が気に入ってるんだ。

「ふん。こんな作り物みたいに綺麗な顔の男がいるわけないだろ。肖像画なんていくらでも誤魔化せるし」

 ケビンさんはすねている。気の毒ですが、実際にこの顔です。私の故郷でも大騒ぎになりました。
 先輩たちがイケメンで盛り上がる中、私はうつむいてお茶を飲んでいた。なんでここまで来てあいつの顔を見なきゃいけないんだ。もうあんな奴、忘れてしまいたいのに。

「ララちゃんの婚約者だって、国王ほどイケメンじゃないだろ。落ち込むことないって!」

 何か勘違いをしたケビンさんに慰められている。違うんです。そうじゃなくて、見たくないものを見たせいで気分が悪くなっただけです。

 もうそろそろ調理補助の仕事をしなくちゃならない。私は立ち上がって後片付けを始めた。

 厨房へ入り、山のように積まれたジャガイモの水洗いをする。掃除だけを仕事にする人もいれば、私のように多くの仕事を受け持つ人もいるのだ。私はなるべく短期間でお金を稼ぎたかったので、可能な限り仕事を詰め込んでいた。

 だっていつカイザーに居場所がバレるか分からない。ハインツさんが粘ってくれるのを期待したいところだけど、あまり当てにしすぎても危険だと思っている。王宮を出てから一ヶ月たった今、今日来るか明日来るかと私は毎日怯えていた。


◇◇◇

 ああ、退屈だ。

 僕は秋の薔薇を眺めながら紅茶を飲んでいた。向かい側では髪に香油をたっぷり付けた女が笑っている。あまり見たくないので視線を向けないようにしていた。

 お見合い相手の持ち時間は一人一時間。一緒にお茶を飲み、くだらないお喋りをし、適当に庭を散歩すれば終わりだ。僕も暇ではないので、一日に二人までしか受け付けていない。そもそも刺繍だの絵画だの興味のない話に付き合うこと事態、ムダだと思う。ムダだと思うからこそ一日二人が限界だった。

「……もう気が済んだだろう。僕は君を選ばない。家に帰るといい」

「なっ、なによっ! 父に言われたから来ただけです! わたくしにだって心に決めた方がいるんですからね」

 じゃあ最初から来るなよと言いたい。お互いに時間が勿体ないじゃないか。
 香油だらけの女が帰ったあと、ハインツに聞いてみた。

「アレはどこの令嬢だ?」

「コシュニー伯爵令嬢です」

 ああ、あいつか。あのみっともなく太った伯爵の娘だったのか。コシュニー伯爵には高い地位は与えなくてもいいだろう。見合いをしていると娘を通して父親の人格まで透けて見えるから面白い。そういう意味では見合いをしてよかったと思う。精神的な疲労はすさまじいが。

「ハインツ……あと何人だ? 僕は疲れてきた」

「私も疲れました。ええと、あと21人です」

「そいつ等が終わったらすぐにリヴィを探しに行く。不在の間は任せたぞ」

「……はい」

 婚約を断られた事で文句を言いに来る貴族もいるかもしれないが、そんなどうしようも無い者たちの相手をわざわざ国王がする必要はないだろう。この見合いを企んだのはハインツなのだから、彼には最後まで責任を全うしてもらいたい。

 今頃リヴィは何をしているだろう。どこかで困ったりしていないだろうか。王宮で暮らしてさえいれば苦労などせずに済むのに、どうして出て行ったんだ。そんなに僕との婚約が嫌だったのか。僕はこんなにリヴィのことが好きなのに。

 僕には本当の家族は一人もいない。血の繋がった人は全て死んでしまった。だからリンゼイ伯爵家のような仮の家族ではなく、本当の、本物の家族を大好きな人と作りたいだけなんだ。

 どうすればリヴィに振り向いてもらえるのだろう。好きになってもらうにはどうしたら良かったのだろう。
 リヴィに会いたい。声が聞きたい……。
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