貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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王様が来た!!

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 ひと月が過ぎ、吐く息が白くなるほど寒くなってきた。

 今日は休みなのでホテル内にある自分の部屋で編み物をしている。従業員用の部屋は主棟ではなく、少し離れた北棟の中に用意されていた。ほとんどの従業員はゴダに住んでいるので、住み込みで働いているのは私を含めて三人しかいない。

 ゴダの商店街では月に一度大安売りの日があり、防寒着としてセーターを編みたいと思っていた私はその日を狙って手芸店に行ったのだった。
 目論見どおり毛糸が安くなっていて良かった。お店の人に聞いてセーターに適した毛糸と道具を買い、せっせと編んでいる。かなり太い毛糸を使ったので出来上がりも早く、あとは身ごろと袖をつなぎ合わせるだけだった。

 あと少しで終わるという時、ホテルの出入り口付近からものすごい悲鳴が聞こえてきた。悲鳴というか奇声?
 聞き覚えのある声に私は恐怖を感じていた。ああこの声、学校で聞いた女生徒の声に似てる。
 まさか、まさか……。

 恐る恐る部屋を出て、主棟にあるエントランスを遠くから覗いた。すごい人だかりで何も見えない。ただ女性の声で「滅茶苦茶イケメン!!」とか「へーかー!!」とか聞こえる。

 『へーかー』って、『陛下』?

 嫌な予感を覚えた私は二階へ上がることにした。エントランスは吹き抜けになっているので、二階からの方がよく見えるのだ。

 廊下の手すりから一階を見下ろすと、エントランスの中央で人に囲まれた四人の男性の姿が見えた。一人の青年を守るように立つ、三人のガタイのいいお兄さん達。あの服、騎士が着る服だ。守られている青年の顔はよく見えないけど髪の毛は金色。

 その時、青年が頭を動かしたので顔が見えてしまった。作り物みたいに整った顔が。

 ああ、やっぱり奴だったのか!

 カイザーがここに来た以上、見つかる訳にはいかない。私は身を低くして廊下を走りぬけ、主棟の端にある階段から一階へと降り、自室に戻った。もう今日は一歩も部屋から出ないようにしよう。

 ああでも、カイザー達って何泊するんだろう? いつまでも隠れてるわけにはいかないし。
 今日は休みだったけど仕方なく従業員用の服に着替えた。他の人に混ざった方がバレにくいだろうと思って。

 着替えた私はコソコソと動き回り、休憩室へ行ってみた。びっくりするほど人がいない。皆どこに行っちゃったの。まさかカイザーを見物しに行ったの。王様が何泊するのか聞こうと思ったのに。

 うぐぅ、と唸りながら廊下を移動していると遠くから人の塊が近づいてくる。国王様ご一行だ。私は階段に隠れてカイザー達をやり過ごした。静かになったのを確認し、エントランスにある受付に入る。宿泊名簿を見たら何泊するのか分かるはずだ。

 私は今日の日付を調べた。男性四人の宿泊はカイザーではなくルーウェンという人の名前になっている。それはそうか、貴人の名前というのは普通、秘密なのだから。私だって一応貴人ではあるんだけど……。まあそれはいいとして。

「ルーウェン様は一泊か……」

 一泊なら今日だけ隠れていれば何とかなりそう。二泊だったら逃げようかと思っていたけど。
私は一安心して部屋に戻り、自分の服に着がえ、セーターの仕上げをした。あと部屋から出るのは夕飯とお風呂の時だけだ。良かった。

 休憩室で賄いを食べているとケビンさんがやってきた。当たり前のように私の隣に座っている。何の用なんだ、またデートとか変なこと言うのかな。

「今日、国王サマ来てるみたいだよ。新聞どおりのイケメンで驚いた」

「へえ。そうなんですか」

 私は食べながらそっけなく答えた。興味があると思われたくない。奴にはもう関わりたくないのに。

「その国王サマがさ、このホテルで橙色の瞳の女性が働いてないか?って聞いてたよ。もしかして君の事じゃないの?」

 私は持っていたフォークを落としてしまった。皿に当たったフォークはガチャン!と大きな音を立てる。

「何か訳ありみたいだね。俺が何とかしてあげよっか? その代わり一日デートしてよ。どう?」

「……。それでいいです。お願いします」

 ケビンさんは「約束ね」と言って仕事に戻っていった。私は少し心配になり、部屋に戻ってまた従業員用の服に着がえ、ホテル内にあるレストランにコソコソと入る。
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