貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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怖いおばあさん

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 カイザーを背中に担いだまま脱衣所の扉を開け、床にそっと寝かせてあげる。室内に騎士はいないみたいだ。今のうちにさっさとズラかろう。
 寒くないようにカイザーの体に何枚も布をかけてやり、急いで女性の脱衣所で着替え、自室に戻って荷造りした。

 見つかった以上ここにはいられない。私は急に姿を消すことを詫びるために、支配人と職場の人に向けて手紙を書いた。
 編み終えたセーターはケビンさんにあげよう。デートは出来なくなっちゃったけど何とかこれで許してほしい。紺色だしちょっと大きめに編んだから、ケビンさんでも着れると思います。ごめんなさい、と。

 荷物を抱えて従業員用の出入り口からゴダの街に出る。寒い、めちゃくちゃ寒い。こないだの安売りの日にコートも買っておいて良かった。上等なものじゃないけど、ないよりはずっとマシだ。

 カイザーが浴場から戻って来なければ騎士が様子を見に行くだろう。もう今ごろ気が付いて私を追いかけようとしているかもしれない。
 私は早足でゴダの街を歩いた。途中、もっと人けのない所の方がいいかと思い、山に向かうことに。私って山から離れられない運命なのかな。

 斜面を歩いているとゴダの街が一望できる。ホテルも見えた。
 カイザー起きたかな。まさかあいつが鼻血を出すような純情青年だとは知らなかった。学校で女子に囲まれていても平然としていたのに……。意外とピュアな一面もあったのね。

「あ、教会がある」

 街の中に教会を見つけた私は、シンボルである円十字を見つめながら手を組んでお祈りした。
 救世主は円十字にはりつけにされて死んだのち、三日で生き返ったという。私もこの危機を乗り越えられますように。もう変な男に絡まれませんように。
 本気で何とかしたいので、お願いします!

 祈りを終えて山道を歩いていると、一軒の小屋が見えた。木造の小さな家みたいだ。窓には明かりが灯っている。やった、今晩はあそこに泊めてもらおう。

「今晩は、今晩は! すみません、誰かいませんか」

 ドアをどんどんと叩いていると、少しだけ開いて隙間からおばあさんの顔が見えた。ちょっと怖いな……止めといた方がよかっただろうか。でも寒いし。

「なんだい、こんな時間に」

「今夜だけ泊めてもらえませんか?」

「なんでアンタみたいな若い娘が夜更けに山にいるんだい。理由によっては泊めてもいいよ」

「……人に追われてるんです」

「ほほお! 面白そうな話だ、聞かせておくれよ!」

「は、はぁ」

 おばあさんは私を室内に招きいれた。部屋のすみで薪ストーブが燃えていて、壁や天井をぼんやりと照らしている。私は異様な雰囲気に息を飲んだ。

 壁から突き出た長い釘からぶら下がる、たくさんの干草や獣の皮。部屋の中に立ち込める妙な匂い。何なのこの不気味な家は。おばあさん何者なの。こんなとこで寝て大丈夫なんだろうか。何か変なことはされないだろうか。

 おばあさんは「こっちに来てお座り」と、私を木の椅子に座らせた。椅子、傾いてるんですけど。

「それで? どういう理由で誰に追われてるんだい?」

 目を爛々と光らせたおばあさんが私に詰め寄ってくる。怖い。

「誰にも言いませんか? あまり大声で話せるようなことじゃないんです」

「安心おしよ。こんな山ん中まで来る奴なんかいないよ」

「……まあそうですね」

 私はおばあさんに全ての事情を明かした。隣の国の山の中で美少年を拾ったこと。美少年が実はこの国の王様で、無理やり婚約させられたこと。王様から逃げていること。
 話を聞いたおばあさんは満足そうに頷いた。

「いやはや、面白い話だった! 王様から逃げてるのかい。そりゃあ大変だったね」

「ええ、ものすごく大変なんです」

「そんなアンタに、とって置きの物を見せてやろう」

「……はぁ」

 おばあさんは壁ぎわに置かれた机の方へ行き、何かを手に持って戻ってきた。装飾品だ。ネックレスかな。

「王様から逃げたいアンタにぴったりのネックレスだよ。何と、姿を変えられる魔法のネックレスだ!」

「……。本当ですか?」

「その顔、全然信じてないみたいだね。無理もない。じゃあま、とりあえず付けてみなよ」

 私はおばあさんからネックレスを受け取った。細かい文字がびっしり彫られた台座に、楕円形の白い石がはめ込まれている。ネックレスを付けるぐらいなら大丈夫だろうか。ほそい銀の鎖を首に通してみる。うわ、冷たい。
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