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おばあさんは救世主?
しおりを挟む「……何か変わりました? あ、声がちょっと低くなったかも」
「体を触ってみなよ」
「え? 胸が、胸がなくなってる! どうなってんのこれ!?」
「いちばん変わったのはここだよ」
「ちょっどこ触って……。ええ!?」
「驚いたかい? このネックレスはね、性転換を可能にする魔法の道具なのさ」
おばあさんの長い説明が始まった。いわく、おばあさんは魔石という不思議な石を研究しているらしい。魔石は普通の石と見分けがつきにくい上に、魔方陣と呼ばれる文字を刻んだ図とセットじゃないと効果が出ないのだとか。
「ネックレスにするとね、魔石が心臓に近い位置になるだろ。だから血と一緒に魔法の力が全身に行き渡るのさ。性転換のような魔法にはぴったりだろう」
詳しい説明をされても半分ぐらいしか理解できない。カイザーがここにいたら、喜んで質問とかしてそうだな。弟子入りしたいとか言い出すかも。
「すごい道具ですね。おばあさん天才です」
褒めてあげるとおばあさんはニッコリと笑い、私の前に手を差し出した。
「その手は何ですか?」
「お代。ネックレスが欲しいのなら、これぐらいは出してもらわないと」
指をピンと立てて金額を示すおばあさん。
「高っ。私の給料の一ヶ月分とか……」
「要らないのならいいよ。他の人に売るまでさ」
「……」
買えなくはない。今までしっかりと貯金してきたし。でもこれからも逃亡生活は続くのに、持ち金の半分を使ってしまっても大丈夫なのかな。
いや、その前に、見つかったらお金を持ってても意味がないじゃないか。カイザーは騎士を使って私をずっと探し回るかもしれない。見つかるまで、国じゅうを。
「か、買います」
「そうそう、自分の心には正直になった方がいい。アンタはいい買い物をしたよ」
自分の心に正直な奴のせいで、今ひどい目に会ってるんですけど。
おばあさんにお金を払ったあと、小屋のすみに置かれた水がめに自分の姿を映してみた。顔立ちは女性っぽいけどどこから見ても男だ。これなら他人の空似でごまかせそう。確かにいい買い物をしたかもしれない。
おばあさんはネックレスの取り扱いについて説明をしてくれた。魔石は月の光から魔力を取り込むので、月が出ている夜には魔石に月光を当てておくこと。ずっとしまっておくとただの石に戻ってしまうので注意すること。
今夜は月が出ているので、ネックレスを窓辺に置いてから寝ることにした。部屋のすみに置かれたワラをかき集め、その上に寝転ぶ。硬くて寝にくいけど極寒の外で寝るよりずっとマシだ。
歩き疲れていた私はぐっすりと眠った。おばあさんは朝方まで何か研究をしていたらしく、日が昇っても机に突っ伏して起きてくれなかった。仕方なくお世話になったと手紙をかき小屋を出る。朝日に照らされた山道は眩しく、私の心を表しているようだった。
だってもうカイザーを怖がる必要はないのだ。堂々と街を歩けるのだ。
山の斜面を下りているとまた教会が見えたので、感謝の祈りを捧げた。昨晩祈ったから、このネックレスと出会えたのかもしれない。ちょっと出費は痛かったけど。
ゴダの街には騎士が何人かウロウロしていたので、別の街にうつり住むことにした。昨日の今日で似たような人物が見つかったらさすがに不審がられそうだし、面倒ごとには関わりたくない。
カイザーは頭の怪我を手当てしてもらったかな。元気でね、王様。
私は荷物から地図を取り出し、どこへ向かうかを考えた。男になった途端、女性が私を見て頬を染めたり遠くから「あの子イケメン」とか言ってくるので、あまり田舎に住むのはよくないと思ったのだ。
イケメンって大変なんだな。誰かに見られてるのって結構疲れるものなんだ。少しだけカイザーの気持ちが分かったような気がした。
地図を片手に街道を歩いていく。このまま南に下ればフラトーという街があるらしい。結構大きい街のようだから人も多いだろうし、隠れ住むにはちょうどいいかも。
途中見つけた屋台で食事を済ませ、夕方になるまでずっと歩いた。日が沈みかけた頃にやっとフラトーに着き、古くて安いホテルに泊まる。今の私は男だから多少変なホテルでも構わないのだ。ああ、男って最高。
翌日は朝から仕事探しをした。フラトーは王都に近く、旅人が多く訪れる街なのでホテルや飲食店が乱立している。また住み込みで働けるホテルを探してみたけどなかなか見つからなかった。仕方なく人を募集しているレストランで面接を受け、ウェイターとして働くことに。
仕事が決まった直後に部屋探しもはじめ、無事に見つかったのでホテルはチェックアウトした。ずっとホテル暮らしするよりは、部屋を借りた方が安いから。
そういえばリンゼイにいた頃、隣のウィルド市に住むよりリンゼイの方が賃料が安いんだよってカイザーが言ってたっけ。今後は田舎に住むことも考えた方がいいのかな……でもまずはお金を稼がなきゃ。
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