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私ってモテる
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四ヶ月経った。
私は今もフラトーのレストランで、顔を隠すこともなく堂々と働いている。
出勤したらまずは店の周りの掃除。落ち葉などのゴミを箒で集め、ついでに道行く人に「おはようございます」と挨拶も欠かさない。
君はせっかくイケメンなんだから笑顔を忘れずに、と店長に言われているのだ。この顔に集客性があるかどうかは分からないけど、少しでも店の売り上げに繋がればいいなと思う。
掃除が終わったら店の裏口から入ってホールを回る。朝は仕事前に食事を取る人で店が混むのだ。特に独身の男性客が多くて食事の量も多いので忙しい。このレストランではスープのお代わりは無料なので、しょっちゅう呼びつけられてしまう。水のお代わりも頼まれるのでなかなか大変だった。
朝と昼の忙しい時間帯がすぎて休憩室で賄いを食べていると、同僚に声を掛けられた。
「ユリアン君。裏口でお客さんが呼んでるよ」
私は今、ユリアンという偽名を名乗っている。
「……男の人ですか?」
「いや、女の人。また告白されるんじゃない? 頑張ってね」
「はぁ」
男になった私は意外とモテる。このレストランで働き始めて以来、すでに三回も告白されているのだ。
結構すごくない? 私ってこんなにモテるんだ……と自分でも驚きを隠せない。まぁカイザーには敵わないけど。
裏口でお客さんが呼んでいると言われる度にドキドキする。カイザーだったらどうしようと思う気持ちと、告白だったら嫌だなあと思う気持ちで。
私は急いで食事をすませて裏口に出た。狭い路地裏に一人の女性が立っている。先ほどまでレストランの中にいた人だった。
「あの……ユリアン君って、お付き合いしてる人いるの?」
「はい。僕には婚約者がいるんです」
「そ、そっか……。呼んじゃってごめんなさい」
女性は肩を落として表通りの方へ歩いていった。ごめんなさい。女性とはお付き合いできないんです。だからといって男性ともお付き合いする気はないですけど。
カイザーとの婚約は正直うっとうしいけど、こうして断る理由に使えるのは便利だった。王様のせいで逃げる羽目になったのだし、利用するぐらいはしてもいいよね。
私は店内に戻り、水の入ったピッチャーを持ってホールを回った。もうすぐ混む時間帯になる。食事の済んだテーブルは片付けておかないと、新しいお客さんを呼べない。
仕事を終えて着替えたら、店で取っている新聞を読んでから帰ることにしている。カイザーが新しい婚約者を発表するんじゃないかと思って。だけどいつ見てもそんな記事は載っていない。
がっかりです。何してるんですか王様。私が王宮から逃げてからもう半年も経っているのに。
ハインツさんはカイザーにお見合いさせたんだろうか。一体どうなってるんだろう。
◇◇◇
カイザー様は仕事中もクッションを手放さなくなってしまった。あのクッションはリヴィ様が寝ている時に使っていたもので、カイザー様いわく「まだリヴィの香りがする」との事だった。
正直クッションを持ち歩く国王は外聞も悪いので何とかしたいと思っている。だが取り上げると泣きそうになるので何も出来ないのだ。
ただでさえ痩せこけて顔色の悪いカイザー様が苦しむのを私は見たくない。目の下のクマも何とかしてやりたい。
リヴィ様にはゴダで会えたそうだが、やはりと言うかなんと言うか……また逃げられたらしい。
二度も逃げられたショックと会えない期間が長引いているせいで、カイザー様は寝込む寸前だ。
何とかしなければ……。
国王の執務室にコンコンとノックの音が響き、私はドアを開けた。
「ルーウェンか。どうした?」
「宰相閣下、急ぎ報告したい事がございます」
私は騎士団長ルーウェンを部屋に入れた。カイザー様は青白い顔で椅子に座っている。
「実は婚約者さまのことで報告が……」
「リヴィが見つかったのか!?」
飛び上がるように椅子から立つカイザー様。やはりリヴィ様のこととなると元気が出るようだ。
「それで、彼女は今どこに?」
「陛下、正確にはリヴィ様ではありません。非常に似てはいるのですが……」
「なんだ、ハッキリと言え!」
「少年なのです」
「……は? お、男という事か? ならばリヴィではないじゃないか」
「いえ、それが……とにかく一度ご覧になってください。少年はあまりにもリヴィ様に酷似していて、無関係とは思えないのです。もしかしたらリヴィ様に関して何か知っているかもしれません」
「カイザー様。行ってみましょう。ここの所ずっと王宮に籠もりきりですし、たまには気晴らししましょう」
私が言うと、カイザー様は考えこむ様子を見せた。ここ数ヶ月覇気のない顔をしていた彼とは別人のようだ。瞳には光が戻り、ようやく元のカイザー様に戻りかけている。
「……分かった。いちど行ってみよう。場所はどこだ?」
「フラトーです。少年はレストランで働いているようです」
「ハインツ、日程を確認してくれ。僕がフラトーに行ける日はありそうか?」
「ええ。陛下が不在のときは私が何とかしましょう」
カイザー様は嬉しそうに笑った。
良かった……私はホッとしながら、密かにリヴィ様に感心していた。
私が宰相として彼女に手助けしたのは王宮から逃げた日だけだった。あの日からすでに半年。よくもここまで一国の主から逃げおおせたものだ。
この追いかけっこがいつまで続くのかは分からないが、最後まで見届けようと思っている。
私は今もフラトーのレストランで、顔を隠すこともなく堂々と働いている。
出勤したらまずは店の周りの掃除。落ち葉などのゴミを箒で集め、ついでに道行く人に「おはようございます」と挨拶も欠かさない。
君はせっかくイケメンなんだから笑顔を忘れずに、と店長に言われているのだ。この顔に集客性があるかどうかは分からないけど、少しでも店の売り上げに繋がればいいなと思う。
掃除が終わったら店の裏口から入ってホールを回る。朝は仕事前に食事を取る人で店が混むのだ。特に独身の男性客が多くて食事の量も多いので忙しい。このレストランではスープのお代わりは無料なので、しょっちゅう呼びつけられてしまう。水のお代わりも頼まれるのでなかなか大変だった。
朝と昼の忙しい時間帯がすぎて休憩室で賄いを食べていると、同僚に声を掛けられた。
「ユリアン君。裏口でお客さんが呼んでるよ」
私は今、ユリアンという偽名を名乗っている。
「……男の人ですか?」
「いや、女の人。また告白されるんじゃない? 頑張ってね」
「はぁ」
男になった私は意外とモテる。このレストランで働き始めて以来、すでに三回も告白されているのだ。
結構すごくない? 私ってこんなにモテるんだ……と自分でも驚きを隠せない。まぁカイザーには敵わないけど。
裏口でお客さんが呼んでいると言われる度にドキドキする。カイザーだったらどうしようと思う気持ちと、告白だったら嫌だなあと思う気持ちで。
私は急いで食事をすませて裏口に出た。狭い路地裏に一人の女性が立っている。先ほどまでレストランの中にいた人だった。
「あの……ユリアン君って、お付き合いしてる人いるの?」
「はい。僕には婚約者がいるんです」
「そ、そっか……。呼んじゃってごめんなさい」
女性は肩を落として表通りの方へ歩いていった。ごめんなさい。女性とはお付き合いできないんです。だからといって男性ともお付き合いする気はないですけど。
カイザーとの婚約は正直うっとうしいけど、こうして断る理由に使えるのは便利だった。王様のせいで逃げる羽目になったのだし、利用するぐらいはしてもいいよね。
私は店内に戻り、水の入ったピッチャーを持ってホールを回った。もうすぐ混む時間帯になる。食事の済んだテーブルは片付けておかないと、新しいお客さんを呼べない。
仕事を終えて着替えたら、店で取っている新聞を読んでから帰ることにしている。カイザーが新しい婚約者を発表するんじゃないかと思って。だけどいつ見てもそんな記事は載っていない。
がっかりです。何してるんですか王様。私が王宮から逃げてからもう半年も経っているのに。
ハインツさんはカイザーにお見合いさせたんだろうか。一体どうなってるんだろう。
◇◇◇
カイザー様は仕事中もクッションを手放さなくなってしまった。あのクッションはリヴィ様が寝ている時に使っていたもので、カイザー様いわく「まだリヴィの香りがする」との事だった。
正直クッションを持ち歩く国王は外聞も悪いので何とかしたいと思っている。だが取り上げると泣きそうになるので何も出来ないのだ。
ただでさえ痩せこけて顔色の悪いカイザー様が苦しむのを私は見たくない。目の下のクマも何とかしてやりたい。
リヴィ様にはゴダで会えたそうだが、やはりと言うかなんと言うか……また逃げられたらしい。
二度も逃げられたショックと会えない期間が長引いているせいで、カイザー様は寝込む寸前だ。
何とかしなければ……。
国王の執務室にコンコンとノックの音が響き、私はドアを開けた。
「ルーウェンか。どうした?」
「宰相閣下、急ぎ報告したい事がございます」
私は騎士団長ルーウェンを部屋に入れた。カイザー様は青白い顔で椅子に座っている。
「実は婚約者さまのことで報告が……」
「リヴィが見つかったのか!?」
飛び上がるように椅子から立つカイザー様。やはりリヴィ様のこととなると元気が出るようだ。
「それで、彼女は今どこに?」
「陛下、正確にはリヴィ様ではありません。非常に似てはいるのですが……」
「なんだ、ハッキリと言え!」
「少年なのです」
「……は? お、男という事か? ならばリヴィではないじゃないか」
「いえ、それが……とにかく一度ご覧になってください。少年はあまりにもリヴィ様に酷似していて、無関係とは思えないのです。もしかしたらリヴィ様に関して何か知っているかもしれません」
「カイザー様。行ってみましょう。ここの所ずっと王宮に籠もりきりですし、たまには気晴らししましょう」
私が言うと、カイザー様は考えこむ様子を見せた。ここ数ヶ月覇気のない顔をしていた彼とは別人のようだ。瞳には光が戻り、ようやく元のカイザー様に戻りかけている。
「……分かった。いちど行ってみよう。場所はどこだ?」
「フラトーです。少年はレストランで働いているようです」
「ハインツ、日程を確認してくれ。僕がフラトーに行ける日はありそうか?」
「ええ。陛下が不在のときは私が何とかしましょう」
カイザー様は嬉しそうに笑った。
良かった……私はホッとしながら、密かにリヴィ様に感心していた。
私が宰相として彼女に手助けしたのは王宮から逃げた日だけだった。あの日からすでに半年。よくもここまで一国の主から逃げおおせたものだ。
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