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やっぱり来たか
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春のある日、私は店長に頼まれて花の手入れをしていた。店の周囲には小さな花壇があり、咲き終わった花がらを摘むと新しい花が次々と咲くのだ。それでなるべく小まめに花がらを取ることにしている。
摘み取った花を花壇の端に埋めてから店に戻った。昼下がりはお客さんも少ないので静かだ。休憩室でお茶を飲んでいるとアニカという同僚がバタバタと入ってきた。
「ねぇ、ちょっと、すごいわよ!!」
すごいって何がだろう。ちょっと静かにしてほしい。
アニカさんはあまり落ち着きのない人で、お客さんに対して色目を使ったりするからたまに店長に怒られている。イケメンが好きらしいのだけど、私は彼女の好みから外れているのか告白されたりはしていない。よかった。
休憩室のすみでウェイトレスの集団が盛り上がっている。聞きたくないけど、声が大きいから嫌でも聞こえてしまう。
「すっごい美形のお客さんが来てるわ! 見た!?」
「見た見た! 身なりが良かったわよね。美形で金持ちなんて最高!」
「私が注文を聞きに行くから!」
「あっずるい! 私だって行きたいのにっ」
身なりのいい美形か……。もう嫌な予感しかない。
アニカさんが休憩室から出た直後に、飲んでいたお茶を片付けた。もうのんびり休憩する余裕は無くなりそうな気がして。
「ユリアン君、お客さんがあなたを呼んでるわ」
戻って来たアニカさんは、予想通り私のもとへ来て言った。
「……どんなお客さんでした?」
「さらさらの金髪の、ものすごく顔が整った男の子よ。どっかで見た顔なんだけど……」
あーもう、やっぱりカイザーか。とうとう来たのか。
「夕日みたいな色の目をした男の子がここで働いているだろう、会わせてくれ、ですって。せっかく美形なのにもったいない……そっちの趣味の人だったなんて……」
そっちの趣味って何。そっちとかこっちとか、方向があるんですか。
私は「分かりました」と返事をして立ち上がった。男性になっても私の身長はあまり変化がなく、アニカさんと同じぐらいだ。だから彼女の好みから外れているのかもしれない。
壁にかけられた鏡で最終チェック。偽者の男性だからなのか、私にはヒゲが生えなかった。今だけはヒゲを生やしたかったのに。でもどこから見ても男だ。この体で過ごして四ヶ月、誰からも「女みたい」なんて言われた事はない。
大丈夫、イケるイケる。
ホールに出ると、窓ぎわの席にカイザーが座っているのが見えた。王様なのにたった一人で来たようだ。
ちゃんと財布、持ってきてるかな。
「お客様。僕をお呼びでしょうか」
「……」
カイザーは青白い顔で私を見あげた。頬はこけているし、目の下にはクマがこびり付いている。
どうしたの王様。何かの病気なの。
……もしかして、私がいなくなったから、心配したせいで痩せちゃったの?
私は少しばかり申し訳ない気持ちになり、黙ってカイザーを見つめた。彼も私を食い入るように見ている。
「本当に、男なのか……」
カイザーが独りごとのようにぼそりと言い、立ち上がった。うわ、また背が伸びている。私とはもう頭一つ分も離れてしまった。最初はあんなに小さかったのに。
目の前に立ったカイザーは、私の体をつま先から頭まで舐めるように観察している。私は生きた心地がしなかった。バレませんように、バレませんように……!
「ちょっちょっと、お客さん!?」
カイザーは突然、私の胸のあたりを両手でぐっと押した。何を考えてんだこの人。本当に男か確かめたかったんだろうけど、他の人にそんな事をしたら大問題になるところだ。
「す、すまない。君があまりにも、僕の大切な女性に似ていたので……」
小さく呟いたカイザーはストンと椅子に座った。椅子に落ちるみたいだった。そんなにガッカリしたのか。体から力が抜ける程に。
猫背で椅子に座る彼を王様だと思う人はいないだろう。王宮にいた頃のカイザーとは全然ちがう。いつもすらりとした体を上品な服で包んで堂々としていたのに……まぁいま着てる服も上質そうだけど。
今日のカイザーは白いシャツと黒の上下にしたらしく、普段の格好からすると質素だけどよく似合っていた。なに着ても似合うとか……。でも今の私だってイケメンだし。カイザー程じゃないけどモテてるし。
「君は何時に仕事が終わるんだ?」
「え? ええと……今日は夕方でおしまいです」
「そうか。もし良ければ、僕に君の時間をくれないだろうか」
「え」
「君ともっと話したい」
「……いいですけど」
時間をくれとか、言い方がキザすぎる。学生の頃のカイザーはもっと子供っぽかったのに、いつの間にそんな言い方をするようになったんだろう。王様になったから?
お見合いでもそんな風に言ったんだろうか……。ああ、お見合いがどうなったか聞いてみたい。聞けるわけがないけど。
摘み取った花を花壇の端に埋めてから店に戻った。昼下がりはお客さんも少ないので静かだ。休憩室でお茶を飲んでいるとアニカという同僚がバタバタと入ってきた。
「ねぇ、ちょっと、すごいわよ!!」
すごいって何がだろう。ちょっと静かにしてほしい。
アニカさんはあまり落ち着きのない人で、お客さんに対して色目を使ったりするからたまに店長に怒られている。イケメンが好きらしいのだけど、私は彼女の好みから外れているのか告白されたりはしていない。よかった。
休憩室のすみでウェイトレスの集団が盛り上がっている。聞きたくないけど、声が大きいから嫌でも聞こえてしまう。
「すっごい美形のお客さんが来てるわ! 見た!?」
「見た見た! 身なりが良かったわよね。美形で金持ちなんて最高!」
「私が注文を聞きに行くから!」
「あっずるい! 私だって行きたいのにっ」
身なりのいい美形か……。もう嫌な予感しかない。
アニカさんが休憩室から出た直後に、飲んでいたお茶を片付けた。もうのんびり休憩する余裕は無くなりそうな気がして。
「ユリアン君、お客さんがあなたを呼んでるわ」
戻って来たアニカさんは、予想通り私のもとへ来て言った。
「……どんなお客さんでした?」
「さらさらの金髪の、ものすごく顔が整った男の子よ。どっかで見た顔なんだけど……」
あーもう、やっぱりカイザーか。とうとう来たのか。
「夕日みたいな色の目をした男の子がここで働いているだろう、会わせてくれ、ですって。せっかく美形なのにもったいない……そっちの趣味の人だったなんて……」
そっちの趣味って何。そっちとかこっちとか、方向があるんですか。
私は「分かりました」と返事をして立ち上がった。男性になっても私の身長はあまり変化がなく、アニカさんと同じぐらいだ。だから彼女の好みから外れているのかもしれない。
壁にかけられた鏡で最終チェック。偽者の男性だからなのか、私にはヒゲが生えなかった。今だけはヒゲを生やしたかったのに。でもどこから見ても男だ。この体で過ごして四ヶ月、誰からも「女みたい」なんて言われた事はない。
大丈夫、イケるイケる。
ホールに出ると、窓ぎわの席にカイザーが座っているのが見えた。王様なのにたった一人で来たようだ。
ちゃんと財布、持ってきてるかな。
「お客様。僕をお呼びでしょうか」
「……」
カイザーは青白い顔で私を見あげた。頬はこけているし、目の下にはクマがこびり付いている。
どうしたの王様。何かの病気なの。
……もしかして、私がいなくなったから、心配したせいで痩せちゃったの?
私は少しばかり申し訳ない気持ちになり、黙ってカイザーを見つめた。彼も私を食い入るように見ている。
「本当に、男なのか……」
カイザーが独りごとのようにぼそりと言い、立ち上がった。うわ、また背が伸びている。私とはもう頭一つ分も離れてしまった。最初はあんなに小さかったのに。
目の前に立ったカイザーは、私の体をつま先から頭まで舐めるように観察している。私は生きた心地がしなかった。バレませんように、バレませんように……!
「ちょっちょっと、お客さん!?」
カイザーは突然、私の胸のあたりを両手でぐっと押した。何を考えてんだこの人。本当に男か確かめたかったんだろうけど、他の人にそんな事をしたら大問題になるところだ。
「す、すまない。君があまりにも、僕の大切な女性に似ていたので……」
小さく呟いたカイザーはストンと椅子に座った。椅子に落ちるみたいだった。そんなにガッカリしたのか。体から力が抜ける程に。
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「……いいですけど」
時間をくれとか、言い方がキザすぎる。学生の頃のカイザーはもっと子供っぽかったのに、いつの間にそんな言い方をするようになったんだろう。王様になったから?
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