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夜のデート?
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私は仕事に戻り、交替の人が来るまで働いた。夕方から閉店時間まで働くとお給料がちょっと増えるから、ウェイターの人には人気の時間帯だった。でも私はあまり夜遅いと怖いので朝から夕方までにしている。いくら見た目が男でも、何かあったら対応できないから。
働きながら少し悩んでいた。本当はカイザーの申し出は断った方が良かったのかもしれない。でもあんなに弱りきったカイザーに冷たい事は言えなかった。
元気になるまでは様子を見た方がいいかな。カイザーが元気になったらお別れしよう。
アニカさんはカイザーのテーブルにしつこく水を入れに行ってたので、とうとう「もう水はいい」と断られていた。
「お待たせしました。仕事、終わりました」
「そうか……。じゃあ店を出よう」
カイザーは財布を持ってきていたようで会計をしている。お金を払っている王様の姿は何だか面白く、私は密かに笑ってしまった。ああしていると普通の美青年みたいだ。でも美青年って時点で、普通じゃないか。
レストランを出て二人で並んで歩いていると、何人もの女性がこちらを見ている。振り返って見ている人までいる。カイザーか、この男のせいで目立っているのか。カイザーが普通の人のように暮らすのは無理だろうな。やっぱり王宮で王様をしてる方がいいと思う。
「人の目を気にせずに君と話したいんだ。どこかいい場所はないかな……」
「あ、じゃあ。屋台でなにか買って、公園で食べます?」
私はカイザーを屋台まで案内した。旅人の多い街だからいろんな屋台があるのだ。串にさしたトリ肉を焼いたものや、麺料理、小麦粉をねった生地に味のついたアンを入れて蒸したパン。私はこの蒸しパンが好きだった。歩きながら食べられるから帰り道に買うことも多い。
私たちは何種類か食べ物を買い、人の少なくなった公園へ入った。普段は親子づれで賑わう公園も、日が沈んだ今はほとんど人がいない。遠くのベンチに誰かが座っているだけだ。
「このへんに座りましょう。寒くないですか?」
「大丈夫だ。君こそ寒いだろう」
適当なベンチに座ると、カイザーは私の肩に上着を掛けた。
私いま、男なんですけど……。この人には私が女に見えているんだろうか。それとも“リヴィ”に似ていたら誰でもいいのか。よく分からない。
お腹が空いていたのでとりあえず食べる事にした。蒸しパンを食べながら串焼きもかじる。生まれた時から肉に飢えていたせいか私は今でも肉が好きだった。カイザーも隣で食べているが、子供の頃のような勢いはない。口に合わないのかな。それとも食欲がないのか。
「僕には婚約者がいてね……」
食べながらカイザーが話し始めた。私は黙って耳を傾ける。
「子供のころに知り合った人なんだけど、ひと目みてこの人だ、と思ったんだ。一緒に過ごすうちに、お互いに好きになれると思ってた」
「……」
そんな風に思ってたんだ。じゃあ婚約した時も、私がカイザーを好きだと勘違いしてたんだろうか。別に嫌いじゃなかったけど、婚約はさすがにキツかったなぁ。
「でも好きになったのは僕だけだった。彼女は……リヴィというんだが、リヴィは僕のことを何とも思ってなかったみたいで」
何とも思ってない……いや、弟のように思ってたけど。
「僕はわけあって別の国で彼女と暮らしてたけど、エフレインに来るときに無理やりリヴィをつれて来て、しかも婚約者にしてしまったのは大失敗だった。リヴィは僕から逃げ出して、いまだにどこにいるのか分からないんだ」
一応、大失敗だという認識はあるのね。
何で逃げたんだ、って逆ギレしてたらどうしようかと思ってた。ちょっとホッ。
「もしも……もしもリヴィが死んでいたらどうしよう? 彼女のいない世界なんて耐えられない。そんなことになったら、僕は……」
カイザーが泣いている。
学校でモテまくって、女生徒にそっけなくしていたカイザーが。
王宮で優雅に振る舞っていた、あのカイザーが……!
この人でも泣くことってあるんだ。
私は妙に新鮮な気持ちで彼の背中をよしよしと撫で、ハンカチで涙を拭いてあげた。カイザーを拾って以来、こんな風にお姉ちゃんらしく面倒を見たのは初めてかもしれない。彼はいつも私よりしっかりしてたから。
元気出してよ。いつものあなたに戻ってよ……。私は死んだりしてないから。
「……似てるな……」
涙でぬれた水色の瞳がじっと私を見ている。何もかも見透かされてるみたいで落ち着かない。
私は目を逸らしたくなる衝動と必死に戦っていた。ここで負けたら何もかも終わってしまうような気がして。
今の私は男だ。どこから見ても男なはずだ……!
「……抱きしめてもいいだろうか?」
「……。僕、男なんですけど」
「それは分かっている。分かっているが……駄目か」
「まぁいいですよ。硬い体ですけど、どうぞ」
カイザーよりは硬くないけど、抱きしめてみれば男だと分かるだろう。満足するまで触ってみればいい。
私はカイザーに身を任せた。夜の公園で男が抱き合ってるのってどうなんだろ。人がいなくて良かった……。
働きながら少し悩んでいた。本当はカイザーの申し出は断った方が良かったのかもしれない。でもあんなに弱りきったカイザーに冷たい事は言えなかった。
元気になるまでは様子を見た方がいいかな。カイザーが元気になったらお別れしよう。
アニカさんはカイザーのテーブルにしつこく水を入れに行ってたので、とうとう「もう水はいい」と断られていた。
「お待たせしました。仕事、終わりました」
「そうか……。じゃあ店を出よう」
カイザーは財布を持ってきていたようで会計をしている。お金を払っている王様の姿は何だか面白く、私は密かに笑ってしまった。ああしていると普通の美青年みたいだ。でも美青年って時点で、普通じゃないか。
レストランを出て二人で並んで歩いていると、何人もの女性がこちらを見ている。振り返って見ている人までいる。カイザーか、この男のせいで目立っているのか。カイザーが普通の人のように暮らすのは無理だろうな。やっぱり王宮で王様をしてる方がいいと思う。
「人の目を気にせずに君と話したいんだ。どこかいい場所はないかな……」
「あ、じゃあ。屋台でなにか買って、公園で食べます?」
私はカイザーを屋台まで案内した。旅人の多い街だからいろんな屋台があるのだ。串にさしたトリ肉を焼いたものや、麺料理、小麦粉をねった生地に味のついたアンを入れて蒸したパン。私はこの蒸しパンが好きだった。歩きながら食べられるから帰り道に買うことも多い。
私たちは何種類か食べ物を買い、人の少なくなった公園へ入った。普段は親子づれで賑わう公園も、日が沈んだ今はほとんど人がいない。遠くのベンチに誰かが座っているだけだ。
「このへんに座りましょう。寒くないですか?」
「大丈夫だ。君こそ寒いだろう」
適当なベンチに座ると、カイザーは私の肩に上着を掛けた。
私いま、男なんですけど……。この人には私が女に見えているんだろうか。それとも“リヴィ”に似ていたら誰でもいいのか。よく分からない。
お腹が空いていたのでとりあえず食べる事にした。蒸しパンを食べながら串焼きもかじる。生まれた時から肉に飢えていたせいか私は今でも肉が好きだった。カイザーも隣で食べているが、子供の頃のような勢いはない。口に合わないのかな。それとも食欲がないのか。
「僕には婚約者がいてね……」
食べながらカイザーが話し始めた。私は黙って耳を傾ける。
「子供のころに知り合った人なんだけど、ひと目みてこの人だ、と思ったんだ。一緒に過ごすうちに、お互いに好きになれると思ってた」
「……」
そんな風に思ってたんだ。じゃあ婚約した時も、私がカイザーを好きだと勘違いしてたんだろうか。別に嫌いじゃなかったけど、婚約はさすがにキツかったなぁ。
「でも好きになったのは僕だけだった。彼女は……リヴィというんだが、リヴィは僕のことを何とも思ってなかったみたいで」
何とも思ってない……いや、弟のように思ってたけど。
「僕はわけあって別の国で彼女と暮らしてたけど、エフレインに来るときに無理やりリヴィをつれて来て、しかも婚約者にしてしまったのは大失敗だった。リヴィは僕から逃げ出して、いまだにどこにいるのか分からないんだ」
一応、大失敗だという認識はあるのね。
何で逃げたんだ、って逆ギレしてたらどうしようかと思ってた。ちょっとホッ。
「もしも……もしもリヴィが死んでいたらどうしよう? 彼女のいない世界なんて耐えられない。そんなことになったら、僕は……」
カイザーが泣いている。
学校でモテまくって、女生徒にそっけなくしていたカイザーが。
王宮で優雅に振る舞っていた、あのカイザーが……!
この人でも泣くことってあるんだ。
私は妙に新鮮な気持ちで彼の背中をよしよしと撫で、ハンカチで涙を拭いてあげた。カイザーを拾って以来、こんな風にお姉ちゃんらしく面倒を見たのは初めてかもしれない。彼はいつも私よりしっかりしてたから。
元気出してよ。いつものあなたに戻ってよ……。私は死んだりしてないから。
「……似てるな……」
涙でぬれた水色の瞳がじっと私を見ている。何もかも見透かされてるみたいで落ち着かない。
私は目を逸らしたくなる衝動と必死に戦っていた。ここで負けたら何もかも終わってしまうような気がして。
今の私は男だ。どこから見ても男なはずだ……!
「……抱きしめてもいいだろうか?」
「……。僕、男なんですけど」
「それは分かっている。分かっているが……駄目か」
「まぁいいですよ。硬い体ですけど、どうぞ」
カイザーよりは硬くないけど、抱きしめてみれば男だと分かるだろう。満足するまで触ってみればいい。
私はカイザーに身を任せた。夜の公園で男が抱き合ってるのってどうなんだろ。人がいなくて良かった……。
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