貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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また会うことに

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 シャツ越しに感じるカイザーの腕や胸は本当に硬かった。それに肩幅だって私よりも広かった。やっぱり私の体は偽物なんだな。鍛えたらカイザーみたいに筋肉が付くんだろうか。

 王様はなかなか私の体を放してくれない。そろそろどうでしょうか。もうよろしいでしょうか。耳元に息が掛かってるのが気になる。息というか、なんか……。

「……匂いをかぐの、やめてもらえませんか?」

「駄目か?」

「駄目でしょう」

 変態でしょう。
 王様が……と言うか見目麗しい人がやっていいことじゃないよ。女性にガッカリされます。まさかお見合いでも他の女性の匂いかいだりしてないよね?

 ようやく私の体を放したカイザーは何故か満足そうだった。うん、これこれ、みたいな顔をしている。何なのこの顔。意味が分からない。

「君の名前を聞いてもいいだろうか? 僕はカイザーだ」

「ユリアンです」

「ユリアン……。もう一度君に会いに来てもいいか?」

「いいですけど」

「いつなら都合がいい?」

「えーと……。三日後の午前中なら」

 本当は丸一日休みだけど、一日中カイザーと一緒に過ごすのは嫌だった。この男は顔が良すぎて目立つから、人の視線が気になるんだよね。

 私とカイザーはこの公園で待ち合わせをすることにした。三日後の朝9時、いま座っているベンチ前に集合。

「もう遅いから送って行こう」

「いや、いいです。男だから危なくなんてないです。じゃあさよなら」

 まだ夕食の時間帯なのに、男相手に「家に送ろう」とか……。
 私はカイザーを振り切って道を走り出した。家まで来られるなんて絶対に嫌だ。また引っ越さなきゃならなくなる。

 やや古いマンションの階段を上がり、部屋に入ったらすぐにカギをかけ、窓のカーテンも全部閉めた。カーテンの隙間から外を見てもカイザーの姿はなさそうだ。よかった、尾行されたらどうしようかと思った。

 明かりを灯し、ネックレスを外して窓辺に置く。一連の動作はすっかりクセになって今では当たり前になった。本来の女性の体に戻るとなんだか気が抜けてきて、私はそのまま寝てしまった。



 三日後、早めに起きた私はお金がどれだけ貯まったか確認していた。カイザーが新しい婚約者を発表するまでは安心して故郷へ帰れないし、だいたい今の私は男だ。この姿でリンゼイの家に帰れる訳がない。

 ずっと賃貸暮らしするぐらいならどこかに家でも買おうかなと思ってるんだけど、お金は全然足りそうになかった。世の中そんなに甘くない。どこかに割りのいい仕事でもないかな。また住み込みの仕事したいなぁ。

 そろそろ出ないとカイザーとの待ち合わせに遅刻するので、戸締りをして部屋を出た。今日は朝からカーテンを閉め切っておいたけど心配しすぎだろうか。王様相手だから気を抜けないんだよね。
 ここから公園までは歩いて20分ぐらいだし、急がなくても充分間に合うだろう。

 公園の前の道を歩いていた私は異変……というか女性の人だかりを発見した。女の人が道に固まって何かをじっと見ている。野鳥の観察でもしてるのかな。そんな珍しい鳥いたっけ?

 不審に思いながら公園に入ると一つのベンチだけやけに人が多い。若い女性だらけ。あっ、あのベンチ、カイザーと待ち合わせしたベンチだ。
 私は走り出した。そうか、道に集まってた女性もカイザーを見てたんだ。もっと早く来れば良かった。

 ベンチの周りは女性の壁ができていてカイザーの姿は見えなかった。男になっても身長が変わらない私にはどうしようもない。

 仕方なく後ろの方でぴょんぴょん飛び跳ねると、ようやくカイザーの姿がチラッと見えた。両脇に座った女の人たちに何か話しかけられているけど、彼は相変わらず無表情だった。学校でのカイザーと全く同じ状態だ。無愛想でもモテるってすごいな。

「ユリアン!」

 飛び跳ねている内にカイザーと目が合った。私に気付いた彼は女性たちを押しのけるようにしてこちらに来る。目の前まで来た途端、私にぎゅっと抱きついたので周囲からきゃああ!という黄色い悲鳴が上がった。
 そして皆、さーっといなくなってしまった……。

 やっぱり男同士で抱き合うのはちょっとね。カイザーの抱きつき方、友達って感じでもないし誤解されると思う。

「……匂いをかぐの、やめてください」

 本当に何なんだこの人。こないだから会うたび匂いをかぐなんて失礼すぎる。私ちゃんと毎日体を洗ってるのに。
 カイザーは「すまない」と言って体を離した。三日ぶりに会う彼は少し顔色が良くなったようだ。よかった、あとはしっかり食べていれば元気になるだろう。
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