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甘えてるんですか
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王宮の正門から入ると、改めて建物の巨大さに驚く。私が以前暮らしていたのはほんの一部だったみたいだ。
馬車は王宮の裏の方に回り、使用人が使う出入り口付近で止まった。
ホルストさんの案内で王宮の中を進み、階段を上がって二階の突き当たりの部屋に通された。室内にはカイザーとハインツさんが立っている。ハインツさんは私の顔をみて目を丸くしていた。
「ユリアン! よく来てくれた」
「カイザー様、国王陛下だったんですね。今日からよろしくお願いします」
白々しいなあと思いながら挨拶。
カイザーは食事をしっかり取るようになったのか、だいぶ体が戻ったみたいだった。
「ユリアン。宰相のハインツだ。何か分からないことがあれば彼かホルストに聞くといい」
「ユリアンです。よろしくお願いします」
「ようこそ、ユリアン君。陛下が元気になったのもあなたのお陰です。なるべく長く働いてください」
「はぁ……」
ハインツさんと握手を交わす。この人が上司になる日が来るなんて複雑な気分だ。
カイザーが座っている大きな椅子には何故かクッションが置いてあり、何となく気になった。王宮で暮らしていた頃に使ってた物に似ている。でも似てるクッションなんていくらでもあるよね。何しろここは王宮なんだから。
私が暮らす部屋は二階の端から三番目の部屋とのことだった。
いちばん端はなんとカイザーの部屋らしく、話を聞いた直後にドアのカギを調べた。つまみを何度も動かし、カギがちゃんと動くか確認。
ドアを閉じ、カギを掛けたあと開けようと頑張ってみたけど当然ながらドアは開かなかった。これで安心して眠れそう。
部屋の中で侍従の服に着がえ、国王の執務室に入る。カイザーはちゃんと仕事をしていた。当たり前だけど。
私は国王のために書類を運んだりお茶を淹れたりしながらカイザーの様子を見ていた。
仕事をするカイザーは、風呂場で鼻血を出したり公園で泣いたりしていた人とは別人みたいだった。何だか面白い。格好つけてるカイザーは紛れもなく美青年だけど、私は変な彼のほうが好きだなあと思う。
王様は一日の仕事を終えて椅子から立ち上がり、大きく伸びをして、私に言った。
「ユリアン。着替えさせてくれ」
私はカイザーの上着を脱がせ、シャツの上にホルストさんが出してくれたカーディガンを羽織らせてやった。侍従というのは王様のお世話係だから。
「肩を揉んでほしい」
……しょうがないな。
カイザーのでかい肩に手を当てて、硬い部分をほぐすように揉んでやる。若いのに結構こってるな、この人。
肩を揉んでいるとカイザーは何故か笑っている。何がおかしいのよ。もう揉んであげないよ。
「ありがとう。一緒に晩餐室へ行こう。夕食を共にして欲しい」
「……それはちょっと困ります。今の僕は侍従ですから、陛下と同じ席で食べたりは出来ません」
「陛下が使うテーブルの横に、もう一つテーブルを出しましょう。そこで私とユリアン君が食べればいいのでは?」
ホルストさんはカイザーを甘やかしている。ハインツさんといいこの人といい、なんで王様に甘いんだろう。
上司に言われたら私も反対できないので、晩餐室で王様と一緒に晩御飯になった。基本的に王様が使う部屋というのは南向きで日当たりも風通しもいい場所ばかりだ。
朝餐と晩餐の部屋にはテラスが付いていて、出窓になった大きなガラスの扉から月がよく見えている。今夜もネックレスにしっかり月光を当てておかないとな、と思いながら食事をした。
食事を終えたカイザーはホルストさんと浴室に向かい、私は廊下で待機している。正直ほっとした。お風呂の世話までしろと言われたらどうしようかと思った。
いくら男になったとはいえ、カイザーの裸を見るのは抵抗がある。ゴダの温泉では浴衣を着ていたから何とかなっただけで。裸の男性とか無理。
浴室から出てきたカイザーはバスローブを着ていた。熱いのかちゃんと着ていないせいで、前がはだけて胸とかお腹とか見えている。私はなるべく見ないように下を向いていた。なんで私の方が恥ずかしくならなきゃいけないのよ。理不尽だ。
「ユリアン、拭いてくれ」
カイザーは自分の部屋に入ると椅子に座り、私にタオルを手渡した。ぬれた金髪をタオルでごしごし拭いていると、ホルストさんが私に櫛を差し出してくる。髪をとかしてって事ですかね。
タオルの下でクシャクシャになったカイザーの髪の毛を丁寧にとかしていく。横から見たとき、カイザーが気持ち良さそうに目を閉じているのが見えた。こんな顔もするんだ。まるでブラッシングされている猫みたいだった。
ひと通りお世話が終わったので失礼します、と部屋を出ようとすると、カイザーが寂しそうな顔をしている。
「一緒に寝たりは……出来ないよな」
「……。僕は二つ隣の部屋にいますから。おやすみなさい」
一緒に寝るとか。無理、絶対ムリ。だいたいそれ、侍従の仕事じゃないし。
はあ、とため息をついているとホルストさんが苦笑いしている。
「すみません、ユリアン君。陛下はあなたに甘えているようです」
「甘えてるんですか」
「ええ。昨日まではもっと自分でやっておられたんですけど。あなたは婚約者さまに似てるので、甘えたくなるんだと思います」
「そうですか……。明日からも頑張りますので、よろしくお願いします」
馬車は王宮の裏の方に回り、使用人が使う出入り口付近で止まった。
ホルストさんの案内で王宮の中を進み、階段を上がって二階の突き当たりの部屋に通された。室内にはカイザーとハインツさんが立っている。ハインツさんは私の顔をみて目を丸くしていた。
「ユリアン! よく来てくれた」
「カイザー様、国王陛下だったんですね。今日からよろしくお願いします」
白々しいなあと思いながら挨拶。
カイザーは食事をしっかり取るようになったのか、だいぶ体が戻ったみたいだった。
「ユリアン。宰相のハインツだ。何か分からないことがあれば彼かホルストに聞くといい」
「ユリアンです。よろしくお願いします」
「ようこそ、ユリアン君。陛下が元気になったのもあなたのお陰です。なるべく長く働いてください」
「はぁ……」
ハインツさんと握手を交わす。この人が上司になる日が来るなんて複雑な気分だ。
カイザーが座っている大きな椅子には何故かクッションが置いてあり、何となく気になった。王宮で暮らしていた頃に使ってた物に似ている。でも似てるクッションなんていくらでもあるよね。何しろここは王宮なんだから。
私が暮らす部屋は二階の端から三番目の部屋とのことだった。
いちばん端はなんとカイザーの部屋らしく、話を聞いた直後にドアのカギを調べた。つまみを何度も動かし、カギがちゃんと動くか確認。
ドアを閉じ、カギを掛けたあと開けようと頑張ってみたけど当然ながらドアは開かなかった。これで安心して眠れそう。
部屋の中で侍従の服に着がえ、国王の執務室に入る。カイザーはちゃんと仕事をしていた。当たり前だけど。
私は国王のために書類を運んだりお茶を淹れたりしながらカイザーの様子を見ていた。
仕事をするカイザーは、風呂場で鼻血を出したり公園で泣いたりしていた人とは別人みたいだった。何だか面白い。格好つけてるカイザーは紛れもなく美青年だけど、私は変な彼のほうが好きだなあと思う。
王様は一日の仕事を終えて椅子から立ち上がり、大きく伸びをして、私に言った。
「ユリアン。着替えさせてくれ」
私はカイザーの上着を脱がせ、シャツの上にホルストさんが出してくれたカーディガンを羽織らせてやった。侍従というのは王様のお世話係だから。
「肩を揉んでほしい」
……しょうがないな。
カイザーのでかい肩に手を当てて、硬い部分をほぐすように揉んでやる。若いのに結構こってるな、この人。
肩を揉んでいるとカイザーは何故か笑っている。何がおかしいのよ。もう揉んであげないよ。
「ありがとう。一緒に晩餐室へ行こう。夕食を共にして欲しい」
「……それはちょっと困ります。今の僕は侍従ですから、陛下と同じ席で食べたりは出来ません」
「陛下が使うテーブルの横に、もう一つテーブルを出しましょう。そこで私とユリアン君が食べればいいのでは?」
ホルストさんはカイザーを甘やかしている。ハインツさんといいこの人といい、なんで王様に甘いんだろう。
上司に言われたら私も反対できないので、晩餐室で王様と一緒に晩御飯になった。基本的に王様が使う部屋というのは南向きで日当たりも風通しもいい場所ばかりだ。
朝餐と晩餐の部屋にはテラスが付いていて、出窓になった大きなガラスの扉から月がよく見えている。今夜もネックレスにしっかり月光を当てておかないとな、と思いながら食事をした。
食事を終えたカイザーはホルストさんと浴室に向かい、私は廊下で待機している。正直ほっとした。お風呂の世話までしろと言われたらどうしようかと思った。
いくら男になったとはいえ、カイザーの裸を見るのは抵抗がある。ゴダの温泉では浴衣を着ていたから何とかなっただけで。裸の男性とか無理。
浴室から出てきたカイザーはバスローブを着ていた。熱いのかちゃんと着ていないせいで、前がはだけて胸とかお腹とか見えている。私はなるべく見ないように下を向いていた。なんで私の方が恥ずかしくならなきゃいけないのよ。理不尽だ。
「ユリアン、拭いてくれ」
カイザーは自分の部屋に入ると椅子に座り、私にタオルを手渡した。ぬれた金髪をタオルでごしごし拭いていると、ホルストさんが私に櫛を差し出してくる。髪をとかしてって事ですかね。
タオルの下でクシャクシャになったカイザーの髪の毛を丁寧にとかしていく。横から見たとき、カイザーが気持ち良さそうに目を閉じているのが見えた。こんな顔もするんだ。まるでブラッシングされている猫みたいだった。
ひと通りお世話が終わったので失礼します、と部屋を出ようとすると、カイザーが寂しそうな顔をしている。
「一緒に寝たりは……出来ないよな」
「……。僕は二つ隣の部屋にいますから。おやすみなさい」
一緒に寝るとか。無理、絶対ムリ。だいたいそれ、侍従の仕事じゃないし。
はあ、とため息をついているとホルストさんが苦笑いしている。
「すみません、ユリアン君。陛下はあなたに甘えているようです」
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「ええ。昨日まではもっと自分でやっておられたんですけど。あなたは婚約者さまに似てるので、甘えたくなるんだと思います」
「そうですか……。明日からも頑張りますので、よろしくお願いします」
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