虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま

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34 薄い会話

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 誘われるばかりでは何なので、レクオンの古城でもお茶会を開くことになった。レクオンはどこでも好きな場所を使えといい、お茶会のテーブルやティーセットを揃えてくれる。

 前日にお茶会の準備を終えてからバザーの荷を確認していると、執務を終えたレクオンが様子を見にやってきた。

「シーナにも友人が出来たんだな。喜ばしいことだ」

「……はい、とても嬉しいです」

 友人が出来たことは本当に嬉しい――が、お茶会で得たものはそれだけではなかった。先日キャスリンから聞いた話はいまだにシーナに重くのし掛かっている。でもだからといって、レクオンにどうにか出来ないかと頼むのも悪いような気がして……誤魔化すように別の話題をふることにした。

「だからレクオン様にも、マシュウ様と仲良くして欲しいんですけど……。今日もほとんど話さないまま、追い出しちゃったんですか?」

 本当は弟を可愛いと思っているくせに、変な意地をはらないでほしい。二人が仲良くする姿を見たい――そんな願いを込めてレクオンをじっと見つめると、夫はほんの少しだけ目元を赤らめる。

「……その目で見つめられると、ほだされそうになるな」

「絆される? 何にですか」

「無自覚なのか……」

 レクオンは「なんて厄介なんだ」と呟き、荷物を集めた部屋からこそこそ出て行った。少しホッとする。シーナはお茶会でのことをあれこれ訊かれたくないと思っているが、レクオンだって弟との関係を探られたくないと思っているはずだ。
 必然的に会話は薄っぺらいものになってしまうけれど、今はまだ深い話をする気にはなれなかった。


 翌日は曇り空のせいか少し肌寒く感じられたので、城のなかでお茶会を開いた。大規模なものではなく、温室と隣接したサロンを使ったこじんまりしたお茶会だ。テーブルに軽食とお菓子を用意して、おのおの好きなソファに座る。
 知り合いになった令嬢にはすべて誘いの手紙を出したが、ほとんどの人が来てくれたようだ。

「シーナ様、ごきげんよう」

「あの……ごきげんよう、シーナ様……」

「まぁ、クレアにブリジットまで……二人とも来てくれてありがとう」

 背が高いクレアの後ろに小さなブリジットが立つ様子は何ともほほ笑ましい。シーナがにっこりすると、ブリジットまでつられたように笑う。クレアとブリジットは同い年ながら姉妹のようで、やはりルターナのことを思い出した。

 好きなお菓子を皿にのせて、ソファや椅子に座る。クレアはスコーンで、ブリジットはマカロンだ。お菓子をつまみながら、ブリジットがぽつぽつと話した。

「今までのお茶会って、苦手だったんですけど……。シーナ様のところは、大丈夫みたいです。シーナ様は、あの……変な言いかたですけど、無駄に威張り散らしたりなさらないので……」

 威張り散らすの言葉に笑いそうになった。シーナが威張れる日は来るのだろうか。

「わたしに威張ることって出来るのかしら……。今でも自分に自信がないのよね。どうやって威張ったらいいのかも分からないわ」

「それでいいと思います。そもそも、威張るから偉いわけじゃないですもの。誰かのために役立とうとするから尊敬されるわけで、何もしてない人が威張っても感じが悪いだけです」

「ああ、そうね……。クレアの言うとおりだわ」

 シーナはレクオンを尊敬しているが、彼が王子だから偉いと思うのではない。いつも他人のことを思いやり、懸命に公務へ打ち込んでいるから尊敬できるのだ。まぁ、マシュウ王子に対する態度はいまいちだけれど……。

 クレアはスコーンを美味しそうに食べていたが、手元を見ながら物憂げなため息をついている。

「はぁ……。私はスコーンがとても好きなんですけど、そのうち食べられなくなるかもしれないですね……」

「あ、そうだったわ。小麦の値段が上がっているのよね。バザーでパンを配ろうと思っていたのに、思ったよりも高くて驚いたの」

「バザーって――王都の住民むけにですか?」

「ええ。このままだと王都から人がいなくなるような気がして……。何か出来ないかなと思ったの」

「それはいいですね! 私も売れそうな物をあとで送ります」

「あの……私も、送ります……」

「ありがとう。なるべく日持ちのする食料がいいと思うわ。とにかく食べ物が少ないみたいだから」

 クレアは暗い顔で何か考え込む様子を見せたが、やがてシーナとブリジットのほうに身をよせ、小さな声でささやくように言った。

「あまり大きな声では言えないんですけど……王都の人たちは、税金が上がったせいで暮らしがきつくなったでしょう? 集めた税金は、戦争の準備に使うらしいです」

「えっ――それ本当なの?」

「はい。私の父は大臣なので、父の動向をよく見てたら分かります。去年からずっと、父の執務室で軍備がどうだの税金がどうだのばかり話題になってますもの。でね、戦争をすると決めたのが、宰相の――」

「ダゥゼン公爵、なのね……? 怖いわ……」

「そうそう。ディレイムは二年も小麦の不作が続いてるけど、隣国のギルートには豊かな穀倉地帯があるからね。公爵はそこを奪おうと提案したみたいよ」

「不作だからって、他人のものを奪うの? 強引すぎるように思うけれど……」

「ダゥゼン公爵家のひと達には、罪悪感みたいなものはないですから。公爵はシェリアンヌ様がそのまま大人になったような人物ですし、側近や親族たちも手っ取り早い方法だと公爵を支持したらしいです」

(まるで義父みたいだわ。自分のことしか考えてないのね……)

 シーナはグレッグのことを思い出し、ぶるりと身を震わせた。グレッグの場合は屋敷で威張り散らすだけだったが、ダゥゼン公爵は国の中枢にいる宰相だ。自己中心的な人物が権力をほしいままにした場合、どんな恐ろしい事態になるのかよく分かる。

 以前レクオンも税金の話をしていたから、彼も当然ながら戦争のことは知っていたはずだ。あの時のレクオンは暗い顔で、戦争を喜んでいるようには見えなかった。

(このままでいいのかしら。必要かどうかも分からない戦争のために、無理やりお金を集めるなんて……)

 レクオンに戦争を止めるよう、頼むべきだろうか。でもシーナはまだ彼が抱える事情を知らない。いつまで待ってもレクオンは話してくれず、信頼を得られていないようで悲しい。
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