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35 バザーにて
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レクオンに事情を教えてほしいと言うべきかどうか悩んでいる間に、一回目のバザーを開く日を迎えた。古城でお茶会をした際に他の令嬢たちにもバザーのことを話したら、翌日から次々と荷が届いたのだ。サイズが合わなくなった服やあまった布と糸、野菜と干し肉、魚の漬物まである。
王都には救貧院という仕事を失った人が暮らす場所があるが、そちらに荷を送ってもまだ大量に残ったので、何回かに分けてバザーを開くことになった。今日はその一回目という訳だ。一週間前から王都の広場に貼り紙をして周知をはかったためか、朝早くから古城の前に人だかりが出来ている。
ガーデンの一画をバザーの会場にし、警備のための騎士もレクオンが配置してくれた。用意は万端だ。時間がきて門を開くと、一気に人が流れ込んだ。
「慌てなくても大丈夫です。品物はたくさんありますから!」
手伝いに来てくれたクレアが声を張り上げている。ブリジットは彼女の隣でお釣りを用意したり、品物を渡したりと忙しそうだ。シーナもマリベルと一緒に店番をしたが、目が回るようだった。
(すごいわ……用意した品があっという間に無くなっていく)
野菜は欲しい人がたくさんいそうなので、ひとりにつき何個と数を決めて売った。タダ同然の値段にしたので飛ぶように売れる。売り上げは微々たるものだろうけど、このお金で後日お菓子を買い、王都に住む子供たちに配る予定だ。
品物を手に入れた人々の半分はすぐに帰っていくが、なぜか帰らない人たちもいる。年配のお年寄りや働き盛りの男性たちだ。彼らは一様にシーナに対してなにか言いたげな視線を向けていたが、シーナの前に人が少なくなった頃に老人のひとりがこちらへ歩いてきた。警備をする騎士たちが怪訝そうな顔で見守る。
「突然の失礼をお許しください。レクオン殿下の奥方様でいらしゃいますか?」
「ええ、そうですけど……」
シーナが答えると、老人の後ろにいた若い男性も話しかけてくる。
「レクオン殿下は、もう公務には戻られないのでしょうか?」
「公務は今でもされてますわ。マシュウ殿下の補佐をなさっています」
「ああ、やっぱりそうか……」
「もう完全に、王太子は諦めてしまわれたんだな……」
人だかりの中から失望したような暗い声が聞こえた。どうやらこの人たちは、レクオンに対して王太子になることを望んでいたらしい。
(バージル様の言葉は本当だったんだわ……)
彼らの様子を見ているうちに、グラーダの領主バージルが言っていたことを思い出した。バージルは確か、レクオンが公爵になったときに王都の人たちはがっかりしたのだと教えてくれたはずだ。
彼らの代表なのか、老人が重苦しい口調でシーナに頼み込む。
「どうか奥方様からも、レクオン様を説得していただけないでしょうか。王都での暮らしはひどくなる一方です。このままでは貴族以外の民は逃げ出すでしょう。飢えた子供たちが死んでしまう前に、どうか……」
「……分かりました。レクオン様には必ずお話を伝えておきます。わたしも説得してみますが、レクオン様にも深い事情がおありのようなので……うまくいかないかもしれません」
「どうか、よろしくお願いします」
老人が頭を下げて引き取ろうとしたとき、突然ガーデンの中に悲鳴が響いた。
「やめて! アタシが買ったモンなんだよ! なにすんだい!?」
「うるせぇ!」
荒っぽい男たちが五人ほど乱入し、バザーの会場で暴れている。彼らは買い物客の荷を奪おうとしたり、品物が入った木箱をひっくり返したりするので場が騒然となった。
「オスカー、門を閉鎖しろ! 残りの騎士たちは客の保護にあたれ!」
バルコニーから様子を伺っていたレクオンが叫ぶと、ガーデンに集まった人たちからわぁっと歓声が上がる。
「レクオン殿下だ!」
「レクオン様、どうか王宮へ戻ってください!」
「オレ達を助けてください……!」
彼らの叫びは悲痛で、シーナの胸はずきりと痛んだ。希望の光が見いだせない苦しさをシーナはよく知っている。自分の力ではどうにもできない絶望も……。
(わたしではこの人たちを助けられない。ダゥゼン公爵に対抗できるような、圧倒的な権力がある人じゃないと……)
宰相という地位につくダゥゼン公爵に対抗できるのは、マシュウかレクオンぐらいのものだろう。宰相は国王の補佐をするのだから、レクオンの父王はあてに出来ないということだ。
父親を人質に取られたキャスリン達のことも心配だし、やっぱりレクオン様に話をしてみよう――騒然となったガーデンのなかで、シーナは静かに決意を固めた。
王都には救貧院という仕事を失った人が暮らす場所があるが、そちらに荷を送ってもまだ大量に残ったので、何回かに分けてバザーを開くことになった。今日はその一回目という訳だ。一週間前から王都の広場に貼り紙をして周知をはかったためか、朝早くから古城の前に人だかりが出来ている。
ガーデンの一画をバザーの会場にし、警備のための騎士もレクオンが配置してくれた。用意は万端だ。時間がきて門を開くと、一気に人が流れ込んだ。
「慌てなくても大丈夫です。品物はたくさんありますから!」
手伝いに来てくれたクレアが声を張り上げている。ブリジットは彼女の隣でお釣りを用意したり、品物を渡したりと忙しそうだ。シーナもマリベルと一緒に店番をしたが、目が回るようだった。
(すごいわ……用意した品があっという間に無くなっていく)
野菜は欲しい人がたくさんいそうなので、ひとりにつき何個と数を決めて売った。タダ同然の値段にしたので飛ぶように売れる。売り上げは微々たるものだろうけど、このお金で後日お菓子を買い、王都に住む子供たちに配る予定だ。
品物を手に入れた人々の半分はすぐに帰っていくが、なぜか帰らない人たちもいる。年配のお年寄りや働き盛りの男性たちだ。彼らは一様にシーナに対してなにか言いたげな視線を向けていたが、シーナの前に人が少なくなった頃に老人のひとりがこちらへ歩いてきた。警備をする騎士たちが怪訝そうな顔で見守る。
「突然の失礼をお許しください。レクオン殿下の奥方様でいらしゃいますか?」
「ええ、そうですけど……」
シーナが答えると、老人の後ろにいた若い男性も話しかけてくる。
「レクオン殿下は、もう公務には戻られないのでしょうか?」
「公務は今でもされてますわ。マシュウ殿下の補佐をなさっています」
「ああ、やっぱりそうか……」
「もう完全に、王太子は諦めてしまわれたんだな……」
人だかりの中から失望したような暗い声が聞こえた。どうやらこの人たちは、レクオンに対して王太子になることを望んでいたらしい。
(バージル様の言葉は本当だったんだわ……)
彼らの様子を見ているうちに、グラーダの領主バージルが言っていたことを思い出した。バージルは確か、レクオンが公爵になったときに王都の人たちはがっかりしたのだと教えてくれたはずだ。
彼らの代表なのか、老人が重苦しい口調でシーナに頼み込む。
「どうか奥方様からも、レクオン様を説得していただけないでしょうか。王都での暮らしはひどくなる一方です。このままでは貴族以外の民は逃げ出すでしょう。飢えた子供たちが死んでしまう前に、どうか……」
「……分かりました。レクオン様には必ずお話を伝えておきます。わたしも説得してみますが、レクオン様にも深い事情がおありのようなので……うまくいかないかもしれません」
「どうか、よろしくお願いします」
老人が頭を下げて引き取ろうとしたとき、突然ガーデンの中に悲鳴が響いた。
「やめて! アタシが買ったモンなんだよ! なにすんだい!?」
「うるせぇ!」
荒っぽい男たちが五人ほど乱入し、バザーの会場で暴れている。彼らは買い物客の荷を奪おうとしたり、品物が入った木箱をひっくり返したりするので場が騒然となった。
「オスカー、門を閉鎖しろ! 残りの騎士たちは客の保護にあたれ!」
バルコニーから様子を伺っていたレクオンが叫ぶと、ガーデンに集まった人たちからわぁっと歓声が上がる。
「レクオン殿下だ!」
「レクオン様、どうか王宮へ戻ってください!」
「オレ達を助けてください……!」
彼らの叫びは悲痛で、シーナの胸はずきりと痛んだ。希望の光が見いだせない苦しさをシーナはよく知っている。自分の力ではどうにもできない絶望も……。
(わたしではこの人たちを助けられない。ダゥゼン公爵に対抗できるような、圧倒的な権力がある人じゃないと……)
宰相という地位につくダゥゼン公爵に対抗できるのは、マシュウかレクオンぐらいのものだろう。宰相は国王の補佐をするのだから、レクオンの父王はあてに出来ないということだ。
父親を人質に取られたキャスリン達のことも心配だし、やっぱりレクオン様に話をしてみよう――騒然となったガーデンのなかで、シーナは静かに決意を固めた。
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