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44 レクオンの過去6
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ルターナと婚約したレクオンだが、最初から順調だったわけではない。というのも、日によってルターナの態度がころころ変わるからである。
『レクオン殿下は物知りなのですね。ラトヴィアの人たちのことは知らなかったので、とても勉強になりました』
『この本が気に入ったのなら、きみにあげようか?』
『えっ、本当ですか? ありがとうございます!』
レクオンがあげると言った本を喜んで受け取ったかと思えば――
『気安く手を握らないでください』
『きみの手が寒そうに見えたから……体調はどうなんだ?』
『たとえ婚約者といえども、婚前の男女が不用意に距離をつめるべきではありません。私の体のことなら大丈夫です』
体調を崩した日には、冷徹な態度でレクオンの手を振り払う。そして少女とは思えないような顔で、にやりと妖艶に笑うのだ。別の日には天使のほほ笑みを見せたくせに。
(なんなんだ、この女は。まったく掴みどころがない……)
女というのは皆こうなのか。だとしたら世の中の男たちも、相当な変わり者だといえる。聖女と魔女が入り混じる女と愛を育むなんて、男にも魔法のような力が必要なんじゃないか?
しかし不思議と、ルターナとの婚約を解消しようとは思えなかった。ケルホーン伯爵家を訪ねるたびに、今日はどちらのルターナなのかと予想するのは楽しい。
元気なルターナであれば「今日は仲良くできそうだ」と思うし、体調を崩したルターナであれば「今日はなにを言われるやら」と妙な緊張を覚える。そう、スリルがあるのだ。
世間一般の婚約者がどういうものなのかは知らないが、少なくとも自分はルターナに満足している。
『婚約してから楽しそうですね』
『そうか?』
『そうですよ。いいなぁ、ものすごい美少女と婚約したんでしょ。僕なんかシェリアンヌを選ぶしかないのに……』
マシュウはたびたびレクオンの執務室へやって来て、他愛もない世間話をする。今日は未来の婚約者について愚痴をいいに来たらしい。レクオンもシェリアンヌの顔も性格も好きではないから、弟の気持ちは分かる。
そういえば、マシュウはシェリアンヌと頻繁に会っているようだ。ついでに女という生物について訊いてみよう。
『なぁ、マシュウ。シェリアンヌってどんな感じだ?』
『なんですかいきなり。どんなって言われても、あんな感じですよ。傲慢で高飛車で、すぐに威張りちらす嫌味っぽい女です』
『いや、それは知ってるけどな……』
どうやら弟の鬱憤はかなりたまっているようだ。レクオンは弟の感情を逆撫でしないよう、慎重に言葉を選んだ。
『つまり、その……。俺の婚約者は、日によってころころ態度が変わるんだ。天使みたいに素直で可愛い日もあれば、魔女みたいに妖しい笑顔で俺を翻弄することもある』
『兄上を翻弄って、かなりのもんですね。僕と同じ13歳とは思えない……』
『だからおまえに教えてほしいんだ。シェリアンヌもルターナみたいに態度を変えたりするか?』
『んー……。まぁそうですね。シェリアンヌの場合、自分の思い通りになるときはめちゃくちゃ機嫌がいいです。でも少しでも理想からズレると、キーキー叫んでサルみたいに物を投げて暴れるんですよ。周りの大人が媚びへつらってシェリアンヌの機嫌とりするから、自分がいちばん偉いと思い込んでるし……。あいつに比べたら、他の女のほうがずっとマシでしょ』
『……そうかもな。おまえの話を聞いてたら、俺の婚約者はかなりまともなんじゃないかと思えてきた』
『ずるい……』
マシュウは恨めしそうな目をして、「兄上にたくさんの公務が来るように調整します」と呪いの言葉を吐いて出て行った。
その日の内にいきなり大量の書類が回ってきたが、もちろんマシュウを恨んだりはしなかった。可愛い奴めとしか思えない。
サントスはマシュウにも公務をさせるが、国の中枢に関わるような重要な案件は回さないのだ。完全にマシュウを侮っているのである。
コルティニーをいいように使って死に追いやり、その息子さえ駒のように扱う。マシュウの伯父に対する憎しみは、レクオンと同等だろう。
(でも、憎しみがあっても……マシュウは利用され続けるだろうな)
可愛い弟だから、彼が王太子になっても構わない。でもその場合には、マシュウがサントスよりも強い力で王宮を支配する必要がある。今のマシュウには無理だろう。やはり自分が王太子になって、奪われた権威を取り戻すしかないのだ。
父はマシュウが17歳になったときに、どちらを王太子にするのか知らせると告げた。少なくともあと四年間は、ダゥゼン公爵家の力を抑えておかねばならない。
『レクオン殿下は物知りなのですね。ラトヴィアの人たちのことは知らなかったので、とても勉強になりました』
『この本が気に入ったのなら、きみにあげようか?』
『えっ、本当ですか? ありがとうございます!』
レクオンがあげると言った本を喜んで受け取ったかと思えば――
『気安く手を握らないでください』
『きみの手が寒そうに見えたから……体調はどうなんだ?』
『たとえ婚約者といえども、婚前の男女が不用意に距離をつめるべきではありません。私の体のことなら大丈夫です』
体調を崩した日には、冷徹な態度でレクオンの手を振り払う。そして少女とは思えないような顔で、にやりと妖艶に笑うのだ。別の日には天使のほほ笑みを見せたくせに。
(なんなんだ、この女は。まったく掴みどころがない……)
女というのは皆こうなのか。だとしたら世の中の男たちも、相当な変わり者だといえる。聖女と魔女が入り混じる女と愛を育むなんて、男にも魔法のような力が必要なんじゃないか?
しかし不思議と、ルターナとの婚約を解消しようとは思えなかった。ケルホーン伯爵家を訪ねるたびに、今日はどちらのルターナなのかと予想するのは楽しい。
元気なルターナであれば「今日は仲良くできそうだ」と思うし、体調を崩したルターナであれば「今日はなにを言われるやら」と妙な緊張を覚える。そう、スリルがあるのだ。
世間一般の婚約者がどういうものなのかは知らないが、少なくとも自分はルターナに満足している。
『婚約してから楽しそうですね』
『そうか?』
『そうですよ。いいなぁ、ものすごい美少女と婚約したんでしょ。僕なんかシェリアンヌを選ぶしかないのに……』
マシュウはたびたびレクオンの執務室へやって来て、他愛もない世間話をする。今日は未来の婚約者について愚痴をいいに来たらしい。レクオンもシェリアンヌの顔も性格も好きではないから、弟の気持ちは分かる。
そういえば、マシュウはシェリアンヌと頻繁に会っているようだ。ついでに女という生物について訊いてみよう。
『なぁ、マシュウ。シェリアンヌってどんな感じだ?』
『なんですかいきなり。どんなって言われても、あんな感じですよ。傲慢で高飛車で、すぐに威張りちらす嫌味っぽい女です』
『いや、それは知ってるけどな……』
どうやら弟の鬱憤はかなりたまっているようだ。レクオンは弟の感情を逆撫でしないよう、慎重に言葉を選んだ。
『つまり、その……。俺の婚約者は、日によってころころ態度が変わるんだ。天使みたいに素直で可愛い日もあれば、魔女みたいに妖しい笑顔で俺を翻弄することもある』
『兄上を翻弄って、かなりのもんですね。僕と同じ13歳とは思えない……』
『だからおまえに教えてほしいんだ。シェリアンヌもルターナみたいに態度を変えたりするか?』
『んー……。まぁそうですね。シェリアンヌの場合、自分の思い通りになるときはめちゃくちゃ機嫌がいいです。でも少しでも理想からズレると、キーキー叫んでサルみたいに物を投げて暴れるんですよ。周りの大人が媚びへつらってシェリアンヌの機嫌とりするから、自分がいちばん偉いと思い込んでるし……。あいつに比べたら、他の女のほうがずっとマシでしょ』
『……そうかもな。おまえの話を聞いてたら、俺の婚約者はかなりまともなんじゃないかと思えてきた』
『ずるい……』
マシュウは恨めしそうな目をして、「兄上にたくさんの公務が来るように調整します」と呪いの言葉を吐いて出て行った。
その日の内にいきなり大量の書類が回ってきたが、もちろんマシュウを恨んだりはしなかった。可愛い奴めとしか思えない。
サントスはマシュウにも公務をさせるが、国の中枢に関わるような重要な案件は回さないのだ。完全にマシュウを侮っているのである。
コルティニーをいいように使って死に追いやり、その息子さえ駒のように扱う。マシュウの伯父に対する憎しみは、レクオンと同等だろう。
(でも、憎しみがあっても……マシュウは利用され続けるだろうな)
可愛い弟だから、彼が王太子になっても構わない。でもその場合には、マシュウがサントスよりも強い力で王宮を支配する必要がある。今のマシュウには無理だろう。やはり自分が王太子になって、奪われた権威を取り戻すしかないのだ。
父はマシュウが17歳になったときに、どちらを王太子にするのか知らせると告げた。少なくともあと四年間は、ダゥゼン公爵家の力を抑えておかねばならない。
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