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66 最後のあがき1
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「今日の議事はここまでだ! シェリアンヌを捕らえよ!」
国王イザイアスの命令で、レクオンとマシュウも騎士たちに混じって議場を抜け出した。終戦の処理はオーランドがやってくれるだろう。
しかしようやく黒幕を追い詰めることが出来たのに、娘が逃げ出すとは予想外である。
思わず愚痴がもれた。
「ったく……。せっかくサントスを失脚させたのに、娘のほうがしぶといなんてな」
「まぁでも、シェリアンヌらしい行動ですよ。だって彼女、父親がしでかした罪なんて全然知らなかったみたいですし。いきなり父親が失脚したから領地に引っ込めなんていわれても、大人しく従う性格じゃないでしょ」
シェリアンヌを追いかけて廊下を走っていると、隣を進むマシュウがやけに晴れやかな顔でいう。レクオンは恨めしい気持ちになった。
「あの女が逃げ出したのは、マシュウのせいでもあるぞ。婚約破棄はあとで言えば良かったじゃないか……。王太子だって、なにも諦める事もなかったろうに」
「駄目ですよ」
マシュウにしては珍しく厳しい声だった。レクオンはふと気になり、弟の顔をちらりと伺う。いつも柔らかく笑っているはずの顔は、怖いぐらい真剣だった。
「僕はシェリアンヌの婚約者なのに、あいつを止めることもなく野放しにしてきた。もちろん注意ぐらいはしましたけど、シェリアンヌは僕の言葉なんか全部無視するから……。そんな無力な奴が王太子だなんて、許されることじゃありません。僕もシェリアンヌの事に関しては責任があるんです」
「それはおまえだけの責任じゃないだろ。俺だって……」
「それにね、マリベルからも相談されてたんです」
「――何を?」
いきなり話にマリベルが出てきて、レクオンは足を止めそうになった。が、マシュウを追いかけるように再び走り出す。シェリアンヌは王宮を知り尽くしているため、複雑に入り組んだ廊下ばかり選んで進んでいるようだ。ちょこまかと動き回り、なかなか捕捉できない。
「シェリアンヌはシーナさんに、ずっと変な物を送りつけていたそうですよ。王都でお茶にさそい、子宝に恵まれますようにと言いながら、ラベンダー入りのお守りを手渡したんだそうです。それも一度だけじゃなく、兄上の古城にも何個も送ったみたいで……。ラベンダーには子供を流してしまう作用があります。あの女はシーナさんと兄上を苦しめるために、善人面して贈り物をしたんですよ。王家の――僕たちの事情を、すべて知っているくせに……!」
「そんな事が、あったのか……。シーナの様子がおかしいのは気づいていたが、贈り物のことは知らなかった……」
「僕は止めるように言いましたけど、あいつは当たり前のように無視しました。どうですか? この話を聞いてもまだ、シェリアンヌを許せますか? 僕には無理です。性根が腐ったあいつのことも、無力な自分のことも許せない……。兄上がなんと言おうと、僕はシェリアンヌと王太子の座を放棄します」
「……分かった。おまえの言い分はもっともだ」
レクオンが呟いたとき、ようやくシェリアンヌが一つの部屋に入るのが見えた。王太子宮のなかに作られた、シェリアンヌのための部屋だ。
ずっと王太子の婚約者だった彼女は、王太子宮のなかにわざわざ自分専用の部屋を作らせたのである。未婚の状態でここまで図太いことをしたのはシェリアンヌが初めてだろう。
「開けなさい、シェリアンヌ! 隠れても無駄だぞ! もうきみの父には何の力もない!」
マシュウが叫びながらドアを開けようとしたが、びくともしなかった。やはり鍵を掛けたようだ。しかも特注で作られたドアは強固で、騎士の体当たりでもまったく揺らがない。
「仕方がない、斧でやぶるしか――」
「無理やり入って来たら、自害するわよ!」
レクオンの声に被さるようにして、部屋の中からシェリアンヌがさけぶ。彼女の宣言を聞いた騎士たちはぴたりと動きをとめた。
王族が暮らす聖なる場所で自害するなどあってはならないことだ。しかも場所は次代の王の寝所がある王太子宮である。絶対に穢すわけにはいかない――騎士たちは困り果ててマシュウとレクオンを見たが、二人の王子も同じ思いだった。
ドアを破壊するぐらいなら王家の歴史に傷が残るような事にはならないだろうが、王太子宮で令嬢を自害させたとなると――。
「くそっ……! 本当にいやな女だな!」
「あいつ、最初からこれが狙いで逃げたんですね。という事は、次は――」
「自害されたくなかったら、わたくしを王太子妃にすると約束しなさい! 陛下が書いた正式な誓約書を見せてくれたら、部屋から大人しく出てあげるわよ」
やはりそう来たか――レクオンとマシュウは顔を見合わせてげんなりした。
「もう公爵令嬢じゃなくなった娘が、王太子妃になんかなれるわけないのに……。あいつ自分の要求がどれだけ滅茶苦茶か分かってんのかな」
「しかも父上はサントスに激怒してたから、娘もさっさと王都から追い出したいと思ってるだろう。まず無理に決まってるが、とりあえず今の状況を報告するしかないな」
国王イザイアスの命令で、レクオンとマシュウも騎士たちに混じって議場を抜け出した。終戦の処理はオーランドがやってくれるだろう。
しかしようやく黒幕を追い詰めることが出来たのに、娘が逃げ出すとは予想外である。
思わず愚痴がもれた。
「ったく……。せっかくサントスを失脚させたのに、娘のほうがしぶといなんてな」
「まぁでも、シェリアンヌらしい行動ですよ。だって彼女、父親がしでかした罪なんて全然知らなかったみたいですし。いきなり父親が失脚したから領地に引っ込めなんていわれても、大人しく従う性格じゃないでしょ」
シェリアンヌを追いかけて廊下を走っていると、隣を進むマシュウがやけに晴れやかな顔でいう。レクオンは恨めしい気持ちになった。
「あの女が逃げ出したのは、マシュウのせいでもあるぞ。婚約破棄はあとで言えば良かったじゃないか……。王太子だって、なにも諦める事もなかったろうに」
「駄目ですよ」
マシュウにしては珍しく厳しい声だった。レクオンはふと気になり、弟の顔をちらりと伺う。いつも柔らかく笑っているはずの顔は、怖いぐらい真剣だった。
「僕はシェリアンヌの婚約者なのに、あいつを止めることもなく野放しにしてきた。もちろん注意ぐらいはしましたけど、シェリアンヌは僕の言葉なんか全部無視するから……。そんな無力な奴が王太子だなんて、許されることじゃありません。僕もシェリアンヌの事に関しては責任があるんです」
「それはおまえだけの責任じゃないだろ。俺だって……」
「それにね、マリベルからも相談されてたんです」
「――何を?」
いきなり話にマリベルが出てきて、レクオンは足を止めそうになった。が、マシュウを追いかけるように再び走り出す。シェリアンヌは王宮を知り尽くしているため、複雑に入り組んだ廊下ばかり選んで進んでいるようだ。ちょこまかと動き回り、なかなか捕捉できない。
「シェリアンヌはシーナさんに、ずっと変な物を送りつけていたそうですよ。王都でお茶にさそい、子宝に恵まれますようにと言いながら、ラベンダー入りのお守りを手渡したんだそうです。それも一度だけじゃなく、兄上の古城にも何個も送ったみたいで……。ラベンダーには子供を流してしまう作用があります。あの女はシーナさんと兄上を苦しめるために、善人面して贈り物をしたんですよ。王家の――僕たちの事情を、すべて知っているくせに……!」
「そんな事が、あったのか……。シーナの様子がおかしいのは気づいていたが、贈り物のことは知らなかった……」
「僕は止めるように言いましたけど、あいつは当たり前のように無視しました。どうですか? この話を聞いてもまだ、シェリアンヌを許せますか? 僕には無理です。性根が腐ったあいつのことも、無力な自分のことも許せない……。兄上がなんと言おうと、僕はシェリアンヌと王太子の座を放棄します」
「……分かった。おまえの言い分はもっともだ」
レクオンが呟いたとき、ようやくシェリアンヌが一つの部屋に入るのが見えた。王太子宮のなかに作られた、シェリアンヌのための部屋だ。
ずっと王太子の婚約者だった彼女は、王太子宮のなかにわざわざ自分専用の部屋を作らせたのである。未婚の状態でここまで図太いことをしたのはシェリアンヌが初めてだろう。
「開けなさい、シェリアンヌ! 隠れても無駄だぞ! もうきみの父には何の力もない!」
マシュウが叫びながらドアを開けようとしたが、びくともしなかった。やはり鍵を掛けたようだ。しかも特注で作られたドアは強固で、騎士の体当たりでもまったく揺らがない。
「仕方がない、斧でやぶるしか――」
「無理やり入って来たら、自害するわよ!」
レクオンの声に被さるようにして、部屋の中からシェリアンヌがさけぶ。彼女の宣言を聞いた騎士たちはぴたりと動きをとめた。
王族が暮らす聖なる場所で自害するなどあってはならないことだ。しかも場所は次代の王の寝所がある王太子宮である。絶対に穢すわけにはいかない――騎士たちは困り果ててマシュウとレクオンを見たが、二人の王子も同じ思いだった。
ドアを破壊するぐらいなら王家の歴史に傷が残るような事にはならないだろうが、王太子宮で令嬢を自害させたとなると――。
「くそっ……! 本当にいやな女だな!」
「あいつ、最初からこれが狙いで逃げたんですね。という事は、次は――」
「自害されたくなかったら、わたくしを王太子妃にすると約束しなさい! 陛下が書いた正式な誓約書を見せてくれたら、部屋から大人しく出てあげるわよ」
やはりそう来たか――レクオンとマシュウは顔を見合わせてげんなりした。
「もう公爵令嬢じゃなくなった娘が、王太子妃になんかなれるわけないのに……。あいつ自分の要求がどれだけ滅茶苦茶か分かってんのかな」
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