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21 フェリオス、弟を叱る
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早朝、フェリオスは弟の部屋を訪ねていた――いや、無理やり侵入していた。
寝ている弟の上から容赦なくシーツを取っぱらう。
「おはよう、イリオン。さっさと起きろ」
「うぅ……あっ兄上ぇ!? なんだよ、こんな朝っぱらから!」
「文句を言いたいのは俺の方だ。よくもララシーナに余計なことを言ったな。どういうつもりだ?」
寝台に起き上がってぶうたれていた弟は急に気まずそうな顔をし、うろうろと視線をさまよわせる。
どう言い訳しようかと考えている様子だ。
「余計というかさ、本当のことでしょ。父上は二人の結婚を認めてない。それに兄上だって、義姉上になにも話してないじゃんか」
「好かれているかどうかも分からないのに、俺たちのやたら暗くて重たい話を聞かせるわけがないだろう。好かれていたとしても、事情を話した直後に逃げられる可能性もある」
そう、逃げられたら困るのだ。
フェリオスはすでにララシーナを気に入っているのだから。
ロイツ聖国の巫女姫は秘匿され、俗世から離れた大聖堂のなかで育つ。一般人が彼女の姿を目にすることはほとんどない。
未婚とあれば尚さらで、だからこそ巫女姫の姿が見えないよう塔の中に部屋を用意したのだが……彼女はそれを別の意味に受け取ったらしい。
まさかメイドに扮して脱出するとは。
――確かに、政略結婚だと言ってしまったのは俺だが……。
外の世界を恐れる、か弱い姫なのだと思った。政略結婚だと告げれば、大人しく受け入れるだろうと思った。だが、自分はとんでもない勘違いをしていたようだ。巫女姫は想像をはるかに超えて逞しい。
ララシーナならば、この国の妃として生きていける。
彼女は皇子の妃として相応しいものを持っている。そして何より、自分はララシーナに惹かれている。
絶対に、逃がしはしない。
フェリオスは決意を新たにし、黒い瞳を鋭く光らせた。
「おまえ、これ以上余計なことを言うなよ? 言ったら――どうなるか分かるな?」
「な、なんだよぉ。どうなるってのさ?」
弟皇子は目に涙を浮かべて震えている。
命を取られるとでも思っているのだろうか?
フェリオスはにやりと笑い、イリオンへ告げた。
「おまえとは絶交だ。今後、ハートンへ入ることを禁ずる」
「ひっひでぇ! 今まで散々仕事を手伝わせてきたくせに、僕を使い捨てにするのかよ!?」
「落ち着け。おまえがララシーナに余計なことを言わなければ、絶交したりはしない。彼女は恐らく、婚約の書類を捜すようおまえに協力を求めるはずだ。手伝う振りをするのはいいが、見つけても隠しておけよ。まあ恐らく見つけられないだろうが」
「婚約の書類? なんでそんなもんを……」
「昨夜、婚約を破棄しようと言われた」
「はぁあ? あいつ、よく堂々とそんなこと言えたなあ! やっぱり兄上よりもロイツを取るのかよ……ひぇっ!?」
言い放った瞬間、部屋の気温が急激に下がった。
イリオンの両腕にぶわっと鳥肌がたち、体が勝手に震えだす。
冷気の出どころなど調べるまでもない。
寝台のすぐ横に立つ兄である。
「ごご、ごめんなさい! 嘘です! 義姉上は戦争を回避するためによくよく考えた上で、そのような結論を出したのだと思います!」
「そうだろうな。ララシーナは可愛くて聡明な女性だ。一国の姫として、すべき事を考えただけだろう」
「かっ、可愛い? フェリオス兄上が、エイレネ以外にその言葉をいうなんて……」
「可愛いだろうが。瑞々しい青葉のようなつぶらな瞳も、片手に収まりそうな小さな顔も。おまえは童顔だと言ったが、俺はララシーナの可愛らしさは完璧だと思う。あれ以上、手を加える必要はない。今の状態で完全だ」
「………………」
もうなにを言っても無駄な気がする。
イリオンは今後、義姉の顔に関する話題は出さないようにしようと決意した。
「で、でもさ。結局、父上に認めてもらえないのは困るでしょ。どうすんの?」
「レクアム兄上に頼もうと思う。皇太子に認めてもらえば、父上も少しは話を聞いてくれるかもしれん」
「レクアム兄上ぇ? でも父上とレクアム兄上って、微妙な関係じゃない?」
「兄上に付いている貴族だって多いはずだ。少しは変化があるだろう。おまえも協力しろ」
「はぁ、分かったよ」
イリオンはぶつぶつ言いながら寝台から降り、着がえ始めた。弟がこの城に滞在するのもあと数日だ。ララシーナと協力したところで、恐らく書類は見つけられないだろう。
――兄上に書簡を出しておこう。あの事を条件にすれば、きっと了承してくれるはずだ。
レクアムは秘密を抱えている。だがそれを知るのは、選ばれた側近とフェリオスぐらいのものだろう。ひとの秘密を取り引きに使うなんて卑怯な気もするが、フェリオスも人生がかかっているのだ。簡単にあきらめたくない。
じきにララシーナも起き出してくる時間だ。
フェリオスは弟の部屋から廊下に出て、執務室へと歩き出した。
寝ている弟の上から容赦なくシーツを取っぱらう。
「おはよう、イリオン。さっさと起きろ」
「うぅ……あっ兄上ぇ!? なんだよ、こんな朝っぱらから!」
「文句を言いたいのは俺の方だ。よくもララシーナに余計なことを言ったな。どういうつもりだ?」
寝台に起き上がってぶうたれていた弟は急に気まずそうな顔をし、うろうろと視線をさまよわせる。
どう言い訳しようかと考えている様子だ。
「余計というかさ、本当のことでしょ。父上は二人の結婚を認めてない。それに兄上だって、義姉上になにも話してないじゃんか」
「好かれているかどうかも分からないのに、俺たちのやたら暗くて重たい話を聞かせるわけがないだろう。好かれていたとしても、事情を話した直後に逃げられる可能性もある」
そう、逃げられたら困るのだ。
フェリオスはすでにララシーナを気に入っているのだから。
ロイツ聖国の巫女姫は秘匿され、俗世から離れた大聖堂のなかで育つ。一般人が彼女の姿を目にすることはほとんどない。
未婚とあれば尚さらで、だからこそ巫女姫の姿が見えないよう塔の中に部屋を用意したのだが……彼女はそれを別の意味に受け取ったらしい。
まさかメイドに扮して脱出するとは。
――確かに、政略結婚だと言ってしまったのは俺だが……。
外の世界を恐れる、か弱い姫なのだと思った。政略結婚だと告げれば、大人しく受け入れるだろうと思った。だが、自分はとんでもない勘違いをしていたようだ。巫女姫は想像をはるかに超えて逞しい。
ララシーナならば、この国の妃として生きていける。
彼女は皇子の妃として相応しいものを持っている。そして何より、自分はララシーナに惹かれている。
絶対に、逃がしはしない。
フェリオスは決意を新たにし、黒い瞳を鋭く光らせた。
「おまえ、これ以上余計なことを言うなよ? 言ったら――どうなるか分かるな?」
「な、なんだよぉ。どうなるってのさ?」
弟皇子は目に涙を浮かべて震えている。
命を取られるとでも思っているのだろうか?
フェリオスはにやりと笑い、イリオンへ告げた。
「おまえとは絶交だ。今後、ハートンへ入ることを禁ずる」
「ひっひでぇ! 今まで散々仕事を手伝わせてきたくせに、僕を使い捨てにするのかよ!?」
「落ち着け。おまえがララシーナに余計なことを言わなければ、絶交したりはしない。彼女は恐らく、婚約の書類を捜すようおまえに協力を求めるはずだ。手伝う振りをするのはいいが、見つけても隠しておけよ。まあ恐らく見つけられないだろうが」
「婚約の書類? なんでそんなもんを……」
「昨夜、婚約を破棄しようと言われた」
「はぁあ? あいつ、よく堂々とそんなこと言えたなあ! やっぱり兄上よりもロイツを取るのかよ……ひぇっ!?」
言い放った瞬間、部屋の気温が急激に下がった。
イリオンの両腕にぶわっと鳥肌がたち、体が勝手に震えだす。
冷気の出どころなど調べるまでもない。
寝台のすぐ横に立つ兄である。
「ごご、ごめんなさい! 嘘です! 義姉上は戦争を回避するためによくよく考えた上で、そのような結論を出したのだと思います!」
「そうだろうな。ララシーナは可愛くて聡明な女性だ。一国の姫として、すべき事を考えただけだろう」
「かっ、可愛い? フェリオス兄上が、エイレネ以外にその言葉をいうなんて……」
「可愛いだろうが。瑞々しい青葉のようなつぶらな瞳も、片手に収まりそうな小さな顔も。おまえは童顔だと言ったが、俺はララシーナの可愛らしさは完璧だと思う。あれ以上、手を加える必要はない。今の状態で完全だ」
「………………」
もうなにを言っても無駄な気がする。
イリオンは今後、義姉の顔に関する話題は出さないようにしようと決意した。
「で、でもさ。結局、父上に認めてもらえないのは困るでしょ。どうすんの?」
「レクアム兄上に頼もうと思う。皇太子に認めてもらえば、父上も少しは話を聞いてくれるかもしれん」
「レクアム兄上ぇ? でも父上とレクアム兄上って、微妙な関係じゃない?」
「兄上に付いている貴族だって多いはずだ。少しは変化があるだろう。おまえも協力しろ」
「はぁ、分かったよ」
イリオンはぶつぶつ言いながら寝台から降り、着がえ始めた。弟がこの城に滞在するのもあと数日だ。ララシーナと協力したところで、恐らく書類は見つけられないだろう。
――兄上に書簡を出しておこう。あの事を条件にすれば、きっと了承してくれるはずだ。
レクアムは秘密を抱えている。だがそれを知るのは、選ばれた側近とフェリオスぐらいのものだろう。ひとの秘密を取り引きに使うなんて卑怯な気もするが、フェリオスも人生がかかっているのだ。簡単にあきらめたくない。
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