四回目の人生は、お飾りの妃。でも冷酷な夫(予定)の様子が変わってきてます。

千堂みくま

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27 エンヴィードの皇族

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 毒に体を慣らすというのは特別なことではない。

 ひとは生まれた直後は母乳で育つが、徐々に他の食べ物も口にして体を慣らしていくからだ。食べ物には微量ながら、毒が含まれるものもある。

 でもフェリオスの様子だと、そういう話とは全く次元が違うような気がする。

「毒というのは……?」

「食事に何の毒が入っているのか、俺たちには何も知らされない。事前に対処させないためだろう。食べた直後に吐くこともあったし、体が痺れることもあった。ちょうど十歳になった頃だったかな……毒の痛みがひどくて錯乱したせいか、自分で熱湯を浴びてしまったんだ。それで火傷の跡が残った」

「そんな酷い訓練を……」

 たった十歳の男の子が、毒と火傷を同時に負うなんて……。
 きっと地獄のような苦しみだっただろう。

 想像しただけで涙がにじんだ。

「訓練は12歳になるまで続くが、大抵はそれまでに命を落とす。だからエンヴィードの皇子は三人しかいない。イリオンから、妃の話は聞いたか?」

「ええ。最初八人いらしたのに、今は一人しか残っていないと……」

「七人の妃は、自分の子が死んでいくのに耐えられなくて自害したんだ。残った一人は俺とエイレネの母だが……いまは心を病んでいる。あなたは会わないほうがいい」

「……っ、う……」

「大丈夫か?」

 思わず泣き出してしまった私を、フェリオスが心配そうに見ている。

 本当はあなたが泣きたいはずなのに。
 でもあなたは泣けないまま、大人になってしまったんでしょう?

 涙を流しながらフェリオスの左肩を撫でると、彼は困ったように笑って私を優しく抱きしめた。
 出来るのなら、子供のあなたに会って苦しみを取り除いてあげたい。

 でもそれは無理だから。
 せめて今だけは……。

「皇太子は――レクアム兄上は、この悪しき風習を終わらせようとしている。でも父は恐らく許さないだろう。弱い者は死に、強い者が皇帝になるべきだと考える人だから……」

「エイレネ様をハートンへ連れてこられたのも、お父上が原因なのですか?」

「そうだ。エイレネの偏食は兄たちの訓練を見ていたせいだが、あの子は皇城の中でずっと見殺しにされてきた。よほどの大怪我でない限り、薬師も呼んでもらえない場所なんだ」

「では私がエイレネ様を守りますわ。姫だけじゃなく、あなたの事だって守ってみせます!」

「……ありがとう。ララシーナに出会えて、本当によかった……」

 フェリオスは微笑みながら言って、私にそっと口付けた。唇を重ねたまま大きな手が私の髪を撫でている。私はそれに応えるように、彼の背中に腕を回した。

 婚約を解消しなくて良かった。
 もしそんな事をしていたら、フェリオスをさらに孤独へ追い込むことになっていただろう。
 私にはもう、この人を苦しめるような真似は出来ない。

 フェリオスのように強い男性を守るというのはおかしいかも知れないけれど、この先なにが起こっても、私は――私だけは、彼を守ってあげよう。ずっと味方でいよう。

 だから女神様。どうか私の願いをかなえてください。
 私たちを引き離さないでください――。

 そう祈らずにはいられなかった。
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