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28 あんなとこに!
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翌日、私はお祖父様のために用意された客間を訪れていた。
私とフェリオスが昨夜話した内容を聞かせるとお祖父様はとても喜び、今日中にこの城を発つと言う。
「もうお帰りになるの? もう少しゆっくりされては……」
「教皇が何日も国を空けるわけにはいかんからのう。今ごろ大司教が悲鳴を上げとるじゃろうし」
ああ、大司教様に代わりをさせてハートンへ来たのね。
今ごろひいひい言っておられるだろうな。教皇はロイツの要として、膨大な知識を蓄えているから。
「婚約の話も気になっておったんじゃが、もう一つララに渡したい物があっての」
お祖父様はそう言うと、荷の中から小さな本を取り出した。それほど厚い本ではないが、かなり古そうだ。表紙や角が擦り切れてボロボロになっている。
「その本、初めて見ましたわ。大聖堂の書庫にもありませんでしたよね?」
「うむ。ちと特殊な本での……一般向けではないので、儂が個人的に保管しておった。でもララには参考になるかもしれん。読んでごらん」
「え? ええ……」
一般向けじゃないのに、私には参考になる?
どういう意味かと考えつつ本を読み始めたが、最初の数ページで手が止まってしまった。
「お、お祖父様! この本って……!!」
「その本はな、千年ほど前にロイツにいた巫女姫が書いた本じゃ。彼女は生と死をくり返し、その度に記憶が残っておったらしい。繰り返しの原因を探るために手記を残したようで、それをまとめたのが今ララが持っておる本じゃ」
「……どうして私にこの本を?」
まさかと思いつつ訊くと、お祖父様はシワだらけの顔で二ッと笑った。
「ララが生まれた時から不思議だったよ。どうしてこの子は、教えていない事でもすぐに出来るのかと。薬の知識や治療もしかり、竪琴の演奏もしかり――ララも記憶があるんじゃろう。女神様の奇跡が孫に起こるとは、なんと光栄なことか」
「きっ、気づいて、らしたの……」
「そりゃのう。儂はおまえの親代わりじゃからの。フェリオス殿下との婚約も、過去を振り返った上で決めたのだろうが……儂はララに、心に偽りのない人生を歩んでほしい。幸せになりなさい」
「……分かりました。ありがとう、お祖父様」
お祖父様の横に膝をつき、白い衣装ごと抱きしめた。私が子供の頃に比べたら、お祖父様の体はかなり縮んでしまっている。
でも小さくても、やっぱり頼りになる人だ。
めそめそ泣いている私の背中を、お祖父様がぽんぽんと優しくたたく。
私、昨晩から泣きすぎかしら。
お祖父様は昼食後にハートンの城を発った。フェリオスはお祖父様と固い握手を交わし、必ず幸せにすると大真面目な顔で誓っていた。
正直、かなり恥ずかしい。
教皇猊下を一目見ようと大勢の人が集まっていたし。
「猊下が認めてくださって本当に良かった。もう婚約の書類を探すのはやめるだろう?」
「ええ、やめますわ」
お祖父様が乗った白い馬車を見送り、フェリオスが安心しきった顔で言う。
でも私にはまだ気になることがあるのよ。
「ねえ、フェリオス様。今後一切、あの書類を探さないと誓いますわ。だから隠し場所を教えてくださらない? 何日も探したのに見つからないなんて、本当に悔しくて……」
「エイレネの離宮は探したんだろう?」
「え? ええ、イリオン様が探してくださいましたけど。……えっ!? あそこにありましたの!?」
仰天する私を見て、美しい婚約者がニヤリと笑う。
やっぱりこの人、性格が捻じ曲がってるんじゃないの?
婚約したままで大丈夫なのか、不安になってきた。
「エントランスにある、キノコの椅子。あれはな、中が物入れになっているんだ。フタは鍵で閉まっているけどな」
「あんなとこに!? ちょ、大切な書類をあんな奇天烈な場所に隠すなんて……! まぁ可愛いですけども!」
「可愛いだろう? 何しろエイレネがデザインしたのだから。でも中身が物入れになっているのは、作った工房の者と俺しか知らないんだ」
「~~っ!!」
ぐっ、ぐううう!
悔しいぃ!
「つっ、次に何か探しものがあれば、今度こそ勝ちますわ! あなたの思考パターンは何となく分かりました!」
「何となく、ぐらいでは勝てないと思う。だから俺の全てを知ってくれ」
フェリオスは楽しげに言って、私の顎をくいっと持ち上げた。
ちゅ、と音がして頬に柔らかなものが触れ、見ていた使用人たちが「きゃああっ」と黄色い悲鳴を上げる。
「ひっ、なにを……!?」
「今さら驚かなくてもいいだろう。昨夜はあなただって、俺の背中に腕を回して――」
「だめ!! それ以上言ったらだめです!!」
私は大声で叫んでその場をあとにした。
後ろからくっくっと笑う声が聞こえたけど、赤くなった顔を見られるのが嫌だから絶対に振り返ってあげない。
ああやっぱり、もっと慎重に婚約者を選ぶべきだったかしら。
今さらながら後悔してしまった。
私とフェリオスが昨夜話した内容を聞かせるとお祖父様はとても喜び、今日中にこの城を発つと言う。
「もうお帰りになるの? もう少しゆっくりされては……」
「教皇が何日も国を空けるわけにはいかんからのう。今ごろ大司教が悲鳴を上げとるじゃろうし」
ああ、大司教様に代わりをさせてハートンへ来たのね。
今ごろひいひい言っておられるだろうな。教皇はロイツの要として、膨大な知識を蓄えているから。
「婚約の話も気になっておったんじゃが、もう一つララに渡したい物があっての」
お祖父様はそう言うと、荷の中から小さな本を取り出した。それほど厚い本ではないが、かなり古そうだ。表紙や角が擦り切れてボロボロになっている。
「その本、初めて見ましたわ。大聖堂の書庫にもありませんでしたよね?」
「うむ。ちと特殊な本での……一般向けではないので、儂が個人的に保管しておった。でもララには参考になるかもしれん。読んでごらん」
「え? ええ……」
一般向けじゃないのに、私には参考になる?
どういう意味かと考えつつ本を読み始めたが、最初の数ページで手が止まってしまった。
「お、お祖父様! この本って……!!」
「その本はな、千年ほど前にロイツにいた巫女姫が書いた本じゃ。彼女は生と死をくり返し、その度に記憶が残っておったらしい。繰り返しの原因を探るために手記を残したようで、それをまとめたのが今ララが持っておる本じゃ」
「……どうして私にこの本を?」
まさかと思いつつ訊くと、お祖父様はシワだらけの顔で二ッと笑った。
「ララが生まれた時から不思議だったよ。どうしてこの子は、教えていない事でもすぐに出来るのかと。薬の知識や治療もしかり、竪琴の演奏もしかり――ララも記憶があるんじゃろう。女神様の奇跡が孫に起こるとは、なんと光栄なことか」
「きっ、気づいて、らしたの……」
「そりゃのう。儂はおまえの親代わりじゃからの。フェリオス殿下との婚約も、過去を振り返った上で決めたのだろうが……儂はララに、心に偽りのない人生を歩んでほしい。幸せになりなさい」
「……分かりました。ありがとう、お祖父様」
お祖父様の横に膝をつき、白い衣装ごと抱きしめた。私が子供の頃に比べたら、お祖父様の体はかなり縮んでしまっている。
でも小さくても、やっぱり頼りになる人だ。
めそめそ泣いている私の背中を、お祖父様がぽんぽんと優しくたたく。
私、昨晩から泣きすぎかしら。
お祖父様は昼食後にハートンの城を発った。フェリオスはお祖父様と固い握手を交わし、必ず幸せにすると大真面目な顔で誓っていた。
正直、かなり恥ずかしい。
教皇猊下を一目見ようと大勢の人が集まっていたし。
「猊下が認めてくださって本当に良かった。もう婚約の書類を探すのはやめるだろう?」
「ええ、やめますわ」
お祖父様が乗った白い馬車を見送り、フェリオスが安心しきった顔で言う。
でも私にはまだ気になることがあるのよ。
「ねえ、フェリオス様。今後一切、あの書類を探さないと誓いますわ。だから隠し場所を教えてくださらない? 何日も探したのに見つからないなんて、本当に悔しくて……」
「エイレネの離宮は探したんだろう?」
「え? ええ、イリオン様が探してくださいましたけど。……えっ!? あそこにありましたの!?」
仰天する私を見て、美しい婚約者がニヤリと笑う。
やっぱりこの人、性格が捻じ曲がってるんじゃないの?
婚約したままで大丈夫なのか、不安になってきた。
「エントランスにある、キノコの椅子。あれはな、中が物入れになっているんだ。フタは鍵で閉まっているけどな」
「あんなとこに!? ちょ、大切な書類をあんな奇天烈な場所に隠すなんて……! まぁ可愛いですけども!」
「可愛いだろう? 何しろエイレネがデザインしたのだから。でも中身が物入れになっているのは、作った工房の者と俺しか知らないんだ」
「~~っ!!」
ぐっ、ぐううう!
悔しいぃ!
「つっ、次に何か探しものがあれば、今度こそ勝ちますわ! あなたの思考パターンは何となく分かりました!」
「何となく、ぐらいでは勝てないと思う。だから俺の全てを知ってくれ」
フェリオスは楽しげに言って、私の顎をくいっと持ち上げた。
ちゅ、と音がして頬に柔らかなものが触れ、見ていた使用人たちが「きゃああっ」と黄色い悲鳴を上げる。
「ひっ、なにを……!?」
「今さら驚かなくてもいいだろう。昨夜はあなただって、俺の背中に腕を回して――」
「だめ!! それ以上言ったらだめです!!」
私は大声で叫んでその場をあとにした。
後ろからくっくっと笑う声が聞こえたけど、赤くなった顔を見られるのが嫌だから絶対に振り返ってあげない。
ああやっぱり、もっと慎重に婚約者を選ぶべきだったかしら。
今さらながら後悔してしまった。
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