コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま

文字の大きさ
3 / 51

3 ああ弟よ

しおりを挟む
 平べったい鍋に砂糖と水を混ぜたものを流し込み、火にかける。キツネ色に変わったら火から鍋をおろして、冷たいお皿に中身を出す。ひと口大になるよう、何個かに分けるのがポイントだ。冷えて固まったらフライ返しなどで突ついて皿からはがす。

「……できた……」

 にぃっと微笑むと、周囲からひっと息を飲む気配が伝わってきた。笑い方がヤバかったらしい。笑顔の練習した方がいいかも。

「お、お嬢さま。それは……?」

 勇気を振りしぼった様子の料理長が質問してきた。
 よくぞ訊いてくれたわ。

「これはね、べっこう飴よ。庶民のソウルフードであり、貧乏だった我が家の味方で――ごふっ! げふん!」

「大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫よ。変なことを思い出しただけだから。まぁとにかく、素朴な味わいが楽しめるお菓子なの。私が必要なのは二個ぐらいだし、残りは皆で食べてみてね」

「ほほお、初めて見ました! これがソウルフード……!」

 厨房にいた使用人たちは一つずつとって口に入れ、「染みるわぁ」的な顔をしている。侯爵家では普段から豪勢な食事ばかりなので、べっこう飴はむしろ貴重なのだ。素朴でじぃんと染みるような味わいは、彼らにとって新鮮だろう。

 予想どおりの好感触に勢いづいた私は、飴をふたつ皿にのせて弟の部屋を訪ねることにした。
 が、その前に。

「エマ! エマ、来てちょうだい!」

「はぁい、ただ今!」

 侍女のエマを呼ぶと、背後にしゅたっと降り立つ気配がした。まるで忍びのような動きだが、いつも非常識な呼び出しを受けていたエマからするとこれが当たり前である。ブラック企業もまっ青な勤務体制だ。本当に可哀相。

「エマ、さっきは色々投げちゃってごめんね。怪我しなかった?」

「!? っは!? はい! だい、じょぶです!?」

 質問を受けているのに、疑問符で答えを返してきた。かなり動揺しているようだ。気の毒なので、あまり追い詰めないようにしてあげよう。

「実はセラフィスの部屋に行こうと思うんだけど、私ひとりで行ってもドアを開けてくれないような気がするの。エマが取り次ぎしてくれない?」

「あっ、そういう事ですか。分かりました、参りましょう」

 セラフィスの部屋につくと、弟の侍従がドアをほそ~く開けた。セラフィスはまだ6歳だが、侍女ではなく侍従(男)が傍仕えである。弟の女嫌いはすでに始まっているのだ。
 侍従は私の顔を見るなり怯えてドアを閉めようとしたが、エマがすかさず足をガッ!と突っ込む。すごいわ、エマ。悪質な訪問販売みたいだわよ。

「今まで意地悪してごめんなさい。私、セラフィスと仲良くしたいの。お菓子を作って持ってきたから、せめてこれだけでも手渡してもらえないかしら……」

 しおらしい態度でエマの後ろから侍従に声をかけると、彼はおどおどしながらドアを開けた。よっしゃ。訪問販売開始である。
 しかしいきなりお宅の中にずかずかと入りこんだりはしない。まずは玄関――ドア前からご機嫌伺いだ。

「セラフィス……セラ。おいで、飴を持ってきたわよ。美味しいわよ~」

 セラフィスは窓際に置かれたソファに座って本を読んでいたようだが、姉の顔を見てビクゥ!と体を震わせた。反応がヤバイ。引きつけを起こしたりしませんように、と祈りながらさらに声をかける。

「セラ、何もしないからおいで。怖くないよ~」

 お菓子あげるから、おじちゃんとおいで。大丈夫、なぁんにもしないから。
 やってる事は完全に誘拐犯である。

 セラフィスはお母さまの顔を忠実に再現した美少年なので、尚のこと自分が惨めな気がしてきた。ゲーム会社め、私になんの恨みがあるんだ。

「お嬢さま、セラフィス様が……!」

 エマの声でふと我に返ると、可愛い弟が目の前までおずおずと歩いて来てるではないか。どうやら妙なお菓子につられたらしいが、今がチャンス!
 私はべっこう飴をのせた皿を彼の目線まで下げ、よく見えるようにしてあげた。

「これはべっこう飴っていうお菓子よ。甘くて美味しいの。セラも食べてみて?」

「べっこうあめ……」

 6歳児が小さな手で飴をとり、口に入れる。うっわ可愛い。なにこの生き物、無性に母性をくすぐられる! 前世の私にも弟がいたけど、美少年の可愛さは格別だ。思わず笑みがこぼれる。

「お、おいしいかい?」

 にやぁり。

「うっ、うわあああん! こわいよお!」

「あっ、セラ……」

 私の微笑みを見たセラフィスは青ざめ、皿を持って部屋に入ってしまった。弟の侍従が慌ててドアを閉め、私とエマは廊下にぽつーん状態。
 何でや、何があかんかったんや。エセ関西弁が出てしまうぐらいショックだ。

「駄目でしたね……」

「うん……」

 敗因はすでに分かりきっている。
 とりあえず、何でもいいから眉毛をかこう。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...