コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま

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7 エド爺

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 昼食後、私とエマは裏庭に出た。ここは中庭と違って木が多く、しかも幹が太い。いいモノが作れそうだ。

「お嬢さま、どうして裏庭へ?」

「セラフィスのためよ。ここでセラと遊ぶ道具を作るわ。エドじいさーーん!」

 庭師であるエド爺さんを呼ぶと、木の上のほうから「ほいほーい」と声がした。爺さんは枝を切り落とす作業中だったらしい。身軽な動きでひょいひょいと木を降り、私の前にしゅたっと着地。見た目はヨボヨボなのに熟練した動きである。
 しかも視力が弱いため私を怖がることもなく、かつ庭仕事には影響がないという摩訶不思議な爺さんだ。

「ほいほい、お嬢さまか。なんの御用ですかいな?」

「エド爺さんに、ブランコを作ってほしいの」

「ぶらぶら? なんじゃいそりゃ」

「ぶ、ら、ん、こ。木の枝から2本のロープを垂らして結び、そこに丈夫な板を固定するの。板に座ってぶらぶら~っと揺らす遊具よ」

 私は説明しながら細い枝で地面に絵を書いた。
 爺さんとエマは「へえ~」と呟きながら私の絵を見ている。

「原理は簡単じゃな。丈夫なロープと板さえあれば出来る、と。ふむ、やってみよう」

 エド爺さんは言うなりどこかへ消え、次の瞬間には太いロープと木の板を持っていた。多分、庭師の作業小屋に戻ったんだろうけど、目にもとまらぬ動きだ。本当に人間?

 道具も使わずにひょいっと木に登り、太い枝にロープを固定。地面に降りたらすぐに木の板を取り付け。あっという間にブランコが出来てしまった。

「は、はや……。エド爺さんって本当に人間なの?」

「ほっほっほ、なにを言うかと思えば。どれ、試しに乗ってみよう」

 人間かどうかの質問を無視し、早速ブランコにのる老人。しかもなぜか立ち乗りだ。ギュンギュンという効果音が相応しいぐらいの勢いである。あぶなっ。

「ほっほーい。こりゃ楽しいわい」

「あ、危な……! ちょっと爺さん、そろそろ交代してよ!」

「もうちょっとじゃ。強度を調べてから」

「もう充分でしょ! 代わって! かーわって!」

 童心に返ってしまった爺さんと私。「かーわって」とか言うの、子供のころ以来だわよ。
 なんという屈辱。エド爺さんめ!

「いやあ楽しかった。強度は大丈夫なようじゃ」

「そりゃ、あんだけこいで何ともないならね。私も乗ってみよ~っと」

 うきうき。ブランコなんて乗るの、何年ぶりかなぁ。少なくとも二十年以上たってるわよね。今は弟のためという大義名分があるから、恥ずかしさもない。

 木の板に座り、足を伸ばしたり曲げたりする。徐々にスピードが出てきた。

「あ~たっのしい! 風が気持ちいいわぁ~」

「お、お嬢さま。あたしも乗ってよろしいですか?」

「勿論いいわよ」

 靴を地面にこすりつけて、ざざ、ざざーっとスピードを下げる。懐かしい感覚だ。エマに交替してふと周囲を見渡すと、エド爺さんがいない――かと思ったら、他の木にブランコを作っている。気に入ったみたいだけど、一体いくつ作るつもりなんだろ。

「楽しいのう! 愉快だのう!」

 ――ギュン! ギュン!

 老人とは思えない動きだ。どうやら爺さんは立ち乗りオンリー派みたいだけど、ほぼ直角ぐらいまでこいでも落ちないのは何故なのか。靴が板にへばりついてるのか。エド爺さんは妖怪かもしれない。

 ひと通りブランコの安全性を調べた私とエマは屋敷に入り、セラフィスの部屋を訪ねることにした。訪問リトライである。
 今度こそ、と祈りながらドアをノックすると、侍従は私の顔を見て首をかしげた。怖いはずなのに怖くない、どうして?と思ってそうな顔だ。
 私はここぞとばかりにするりと弟の部屋に侵入する。

「セラ、裏庭で一緒に遊ばない? ブランコを作ったのよ」

「……だれ?」

 姉を見てきょとんとするセラ。
 分からないだと……!?

「お、お姉ちゃんよ。眉毛があるから分からないかな?」

「あー、姉上! すごい、怖くないよ! 眉毛って大切なんだね!」

 そうよ。眉毛は動物のなかでヒトだけが持つ、特別な物なの。コミュニケーションツールなのよ――って、某幼女番組の受け売りだけどね。私だってぼーっと生きてるわけじゃないのだ。

「怖くないなら遊ぶよ! 姉上、一緒に行こう」

「う、うん!」

 6歳児が私の手をきゅっと握り、早く行こうと誘っている。う、嬉しいよお。セラと手を繋いだの初めてだよ。6年もかかったけど、ようやくここまで来たんだ……!
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