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11 お茶会ひらく
ダイエットが何とか成功し、6月に入った。『ティナ恋』の世界にも暦があって一年は12の月に分かれているが、梅雨のない6月というのは不思議なものだ。雨は降るけど何日も続いたりはせず、外でガーデンパーティーなんかも出来る。
「皆さま、ようこそお越しくださいました。本日は私が主人を務めさせて頂きます」
今日は中庭にテーブルセットを出し、お茶会を開いている。メンバーはガイゼル内に住んでいる令嬢たち。伯爵家や子爵家、男爵家から合計三人の少女に来てもらった。彼女たちはみな14歳で、年齢以外にもひとつの共通点がある。
「ルシーフェル様、今日はお招き頂きありがとうございます。とても素敵なお庭ですね」
伯爵令嬢アリシアが言うと、
「本当に。それにルシーフェル様も、とてもお綺麗です」
子爵令嬢イレーヌが続く。
「今日のルシーフェル様、不思議と怖くな……あっ、失礼しました! 穏やかで、淑女の鑑のようだと言いたかったんです……!」
三番目は男爵令嬢、ウェンディだ。やはり眉毛があるだけで、私の恐怖値は減るらしい。
上から順番にアイウエオ順なのはゲーム会社が手を抜いた結果なのかも知れないが、分かりやすくて大変結構である。
三人の令嬢たちは皆、眉毛に問題を抱えている。エマと同じく伸ばしっぱなしで、なんの手入れもしていないのだ。私は親方に作ってもらった二種類のハサミと眉毛用コームを、令嬢たちの視界に入るようそっとテーブルの中央に置いた。
「ルシーフェル様、これは……? とても小さなハサミですね。形も違うし……」
「眉を整えるためのハサミです。先が丸くなっているのは安全のため、こちらの鋭利な方はかなり細かい調整が可能です。まずは私の侍女、エマの顔をご覧ください」
背後に控えていたエマがすっと歩み出て、前髪をがっと手で持ち上げた。デコ全開。このプレゼンテーションが成功した暁には、エマに臨時報酬を出すと約束している。前髪の上げっぷりから、彼女の本気度が伝わってくるようだ。臨時報酬を何に使うつもりなんだろう。
「まあ、なんて上品な眉! 薄くてしかも形が良くて……!」
「こちらのハサミで切ったのですか? 眉毛を切るハサミがあるなんて驚きです! 初めて見ました」
「皆さまさえよろしければ、ここでカット致しましょう。この小さな櫛は眉毛専用で、整えながら切ることが出来ますの」
「わたくし、お願いしたいですわ!」
「あ、わたしも……」
イレーヌとウェンディがいっせいに手を挙げ、私は彼女たちの眉毛を順番にカットしてあげた。一人ひとり顔の雰囲気が違うので、個性をつぶさない眉毛を目指す。これはもしかしたら職業に出来るかも知れない。結婚の予定もないし、学園を卒業したらサロンでも開こうかな。
「ふう……。いかがですか?」
カット後に手鏡を渡すと、二人は「雰囲気がすごく変わったわ!」だの「お顔が明るく見えるわね!」だのキャアキャア言って喜んでいる。若い娘さんたちのテンションはすごい。
ふと横を見ると、アリシアだけ暗い顔で紅茶をすすっていた。眉毛の話を持ち出してからずっとこんな調子だ。どうしたのだろう。
「アリシアはやめておきますか? 何だか悩んでいる様子ですね」
「あたくしのお母さまは、あまり顔をいじるなと仰る人なのです……。生まれたままがいい、自然なのが一番いいって。でもあたくしだって、お洒落な顔になりたいのに……」
「アリシア……」
やっぱり顔をいじるべきではないと思っている人もいるのだ。
私はアリシアの手を優しくにぎり、彼女の瞳を見つめながら語りかけた。
「自然に見えるようにカットすることも出来るわ。少しだけ、切ってみる?」
「は、はい……! じゃあ、ほんの少しだけ……」
眉毛コームを動かし、毛が重なって濃く見える部分だけ切ってあげた。これだけでも雰囲気は変わるだろう。鏡を見たアリシアはとても喜んでくれた。
「眉毛だけで、こんなに顔の雰囲気が変わるんですね……! ルシーフェル様、ぜひお礼をさせてくださいませ!」
「わたくしも! お洒落にしてもらったんだもの、何かしないと気がすみませんわ」
「お気持ちだけで充分です……と言いたいところですが、ひとつだけ。もし他のご令嬢に眉のことを訊かれたら、今日の出来事をお伝えくださいませ。先の丸いハサミは鼻――お口のヒゲを切ることも出来ますし、とても便利なのです。皆さま、よろしくお願いしますね」
危なかった。侯爵令嬢が「鼻毛」という単語を口にするわけにはいかん。
この三人からどれだけ口コミが広がるか分からないが、上手く行けば私は大儲けだ。お金ザクザク、ウッハウハ――アカン! そうじゃない、菩薩になるんでしょ! お顔のケアは、慈善事業なんだから!
「ルシーフェル様……! なんて謙虚で、天使のようなお方!」
「お任せください、必ずこのハサミを広めてみせますわ」
「わたしも家族や友人に紹介しておきますね!」
お茶を飲んだあと、令嬢たちはウキウキと帰っていった。帰宅後に眉毛自慢をするのだろう。いいなあ、切れるだけの眉毛があって。私もいつか自分の眉毛を切ってみたいけどなあ……。でもお茶会は大成功したのだし、まあいいか。
ハサミを片付けようとしたとき、お父さまの執事が大あわてで中庭へやって来た。
「お、お嬢さま! 王太子殿下がお越しです!」
「へっ?」
「エマ、すぐにお茶の用意を!」
「はい!」
「えっ? お?」
おーたいし。おうた…………王太子だと!? 何故!?
「皆さま、ようこそお越しくださいました。本日は私が主人を務めさせて頂きます」
今日は中庭にテーブルセットを出し、お茶会を開いている。メンバーはガイゼル内に住んでいる令嬢たち。伯爵家や子爵家、男爵家から合計三人の少女に来てもらった。彼女たちはみな14歳で、年齢以外にもひとつの共通点がある。
「ルシーフェル様、今日はお招き頂きありがとうございます。とても素敵なお庭ですね」
伯爵令嬢アリシアが言うと、
「本当に。それにルシーフェル様も、とてもお綺麗です」
子爵令嬢イレーヌが続く。
「今日のルシーフェル様、不思議と怖くな……あっ、失礼しました! 穏やかで、淑女の鑑のようだと言いたかったんです……!」
三番目は男爵令嬢、ウェンディだ。やはり眉毛があるだけで、私の恐怖値は減るらしい。
上から順番にアイウエオ順なのはゲーム会社が手を抜いた結果なのかも知れないが、分かりやすくて大変結構である。
三人の令嬢たちは皆、眉毛に問題を抱えている。エマと同じく伸ばしっぱなしで、なんの手入れもしていないのだ。私は親方に作ってもらった二種類のハサミと眉毛用コームを、令嬢たちの視界に入るようそっとテーブルの中央に置いた。
「ルシーフェル様、これは……? とても小さなハサミですね。形も違うし……」
「眉を整えるためのハサミです。先が丸くなっているのは安全のため、こちらの鋭利な方はかなり細かい調整が可能です。まずは私の侍女、エマの顔をご覧ください」
背後に控えていたエマがすっと歩み出て、前髪をがっと手で持ち上げた。デコ全開。このプレゼンテーションが成功した暁には、エマに臨時報酬を出すと約束している。前髪の上げっぷりから、彼女の本気度が伝わってくるようだ。臨時報酬を何に使うつもりなんだろう。
「まあ、なんて上品な眉! 薄くてしかも形が良くて……!」
「こちらのハサミで切ったのですか? 眉毛を切るハサミがあるなんて驚きです! 初めて見ました」
「皆さまさえよろしければ、ここでカット致しましょう。この小さな櫛は眉毛専用で、整えながら切ることが出来ますの」
「わたくし、お願いしたいですわ!」
「あ、わたしも……」
イレーヌとウェンディがいっせいに手を挙げ、私は彼女たちの眉毛を順番にカットしてあげた。一人ひとり顔の雰囲気が違うので、個性をつぶさない眉毛を目指す。これはもしかしたら職業に出来るかも知れない。結婚の予定もないし、学園を卒業したらサロンでも開こうかな。
「ふう……。いかがですか?」
カット後に手鏡を渡すと、二人は「雰囲気がすごく変わったわ!」だの「お顔が明るく見えるわね!」だのキャアキャア言って喜んでいる。若い娘さんたちのテンションはすごい。
ふと横を見ると、アリシアだけ暗い顔で紅茶をすすっていた。眉毛の話を持ち出してからずっとこんな調子だ。どうしたのだろう。
「アリシアはやめておきますか? 何だか悩んでいる様子ですね」
「あたくしのお母さまは、あまり顔をいじるなと仰る人なのです……。生まれたままがいい、自然なのが一番いいって。でもあたくしだって、お洒落な顔になりたいのに……」
「アリシア……」
やっぱり顔をいじるべきではないと思っている人もいるのだ。
私はアリシアの手を優しくにぎり、彼女の瞳を見つめながら語りかけた。
「自然に見えるようにカットすることも出来るわ。少しだけ、切ってみる?」
「は、はい……! じゃあ、ほんの少しだけ……」
眉毛コームを動かし、毛が重なって濃く見える部分だけ切ってあげた。これだけでも雰囲気は変わるだろう。鏡を見たアリシアはとても喜んでくれた。
「眉毛だけで、こんなに顔の雰囲気が変わるんですね……! ルシーフェル様、ぜひお礼をさせてくださいませ!」
「わたくしも! お洒落にしてもらったんだもの、何かしないと気がすみませんわ」
「お気持ちだけで充分です……と言いたいところですが、ひとつだけ。もし他のご令嬢に眉のことを訊かれたら、今日の出来事をお伝えくださいませ。先の丸いハサミは鼻――お口のヒゲを切ることも出来ますし、とても便利なのです。皆さま、よろしくお願いしますね」
危なかった。侯爵令嬢が「鼻毛」という単語を口にするわけにはいかん。
この三人からどれだけ口コミが広がるか分からないが、上手く行けば私は大儲けだ。お金ザクザク、ウッハウハ――アカン! そうじゃない、菩薩になるんでしょ! お顔のケアは、慈善事業なんだから!
「ルシーフェル様……! なんて謙虚で、天使のようなお方!」
「お任せください、必ずこのハサミを広めてみせますわ」
「わたしも家族や友人に紹介しておきますね!」
お茶を飲んだあと、令嬢たちはウキウキと帰っていった。帰宅後に眉毛自慢をするのだろう。いいなあ、切れるだけの眉毛があって。私もいつか自分の眉毛を切ってみたいけどなあ……。でもお茶会は大成功したのだし、まあいいか。
ハサミを片付けようとしたとき、お父さまの執事が大あわてで中庭へやって来た。
「お、お嬢さま! 王太子殿下がお越しです!」
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