コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま

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13 切腹の覚悟です

 裏庭につくとすでにカイラーとセラは二人乗りを楽しんでいた。セラが座り、カイラーが立ちこぎ中である。まるで本当の兄弟のようで、私の嫉妬心がメラメラと燃え上がった。

 おのれ、カイラーめ……!
 貴殿の子がコワモテになる呪いをかけてやろうか!

「へえ、あれがブランコか。初めて見たけど、とても楽しそうだね」

「楽しいですよ。うちの庭師が作ってくれたのですが、使用人たちも気に入ってたまに乗っています」

 ブランコを作って以来、夕方になると「ほっほ~い!」という奇声が裏庭にこだまし、悪霊か、魔物かとウワサになったものだ。しかし声の正体がエド爺だと知った使用人たちは安堵し、休憩時間に乗りにくる者も増えつつある。
 ブランコビジネスもいいな。『ティナ恋』の世界って公園がないし、空き地を開拓してブランコやすべり台を置いてみたい。ゆくゆくは、アスレチックのような場所を――。

「僕も乗っていいかな?」

「アスレ……えっ? あ、どうぞどうぞ」

 あっぶな、隣に王太子がいるってこと忘れてた。
 この国のナンバー2なんだから、もっと緊張感を持たねば……!

 王太子は空いているブランコに座り、器用にこぎ出した。初めてとは思えない自然な動きで、エド爺に通じるものを感じる。

 しかし爺のようなギュンギュン直角こぎではなく、適度な角度とスピードで――なんと表現したらいいんだろう。そう、柔軟材のCMのような爽やかさだ。軽やかな風が彼の金髪をゆらしている。洗いあがり柔らか。清々しい香り。

「ルシーも乗るかい?」

 爽やかなイメージを楽しんでいたのに、馴れなれしい呼び声で一気に現実へ引き戻された。おいおい王太子、初対面から愛称呼びかい!
 私は地面に片膝をつき、王太子をキッと睨みつけた。

「恐れながら申し上げます!」

「えっ? どうして急にかしこまったんだ?」

 今から殿下に失礼なことを言うからだよ。時代劇とかでよく見るやつだ。殿に対して無礼な忠言をした臣下は、その直後に切腹を命じられる。私も今から死ぬかもしれぬ。

「殿下と私は今日が初対面のはずです。初日からルシーと呼ばれるのは、いささか抵抗がございます。ですから、その……」

「ああ……。きみは嫌がるタイプなんだな。ごめんね、今度から気をつけるよ」

 っかああ~! 「嫌がるタイプなんだな」と来た!
 そうかいそうかい、今まであんたの傍には嫌がらない女が多かったって訳かい。何という天然の女たらし!

 こいつぁ予想以上に危険人物だ。たらしこんだ後、結婚を匂わせて直前で裏切るにちがいない。もうその手には乗るものか。

「それで、ルシー嬢。ブランコは何からヒントを得て作ったのかな?」

 “嬢”つけただけ!
 ひとの話を聞いてるようで聞いてない人だ。でも国のトップに立つには、これぐらい厚かまし……鋼のメンタルが必要なのかもしれない。羨ましい図太さである。
 だけどもう気にしないことにした。ルシーフェルと呼ばれるとどうしても堕天使を連想するから、ルシー呼びの方がマシだ。

「ええと……。ブランコは、何かの書物で見たのです。確か、東のほうの国だったかしら」

「……極東の?」

「え? 極東? そこまで東じゃないと思いますけど。すみません、あまり詳しくは覚えてませんわ。オホホ」

 私は適当にごまかし、ブランコに乗ることにした。
 早く帰ってほしいのに王太子はニヤニヤしながら私を見ているし、カイラーは相変わらずセラと遊んでいる。いつまでいる気なんだろう。

「どうしてブランコを作ったの?」

「どうしてって……弟と遊ぶためです。私は子供の頃から怒りっぽくて、ずっとセラにも使用人達にも怖がられてました。だから今、関係改善のために頑張ってるってとこですかね」

「ふうん。ちゃんと自己分析できるなんて偉いじゃないか。僕は努力する女性は好きだよ。頑張ってね、応援するよ」

「はあ、どうも」

「…………手強いな……」

 ん? 何だって?
 急に小さな声でぼそっと言うので聞き取れず、額にいやな汗が流れる。返事をしなかったのはまずいだろうか?

 王太子は相変わらず微笑んだままブランコに乗る私をじっと見ているが、能面のように貼り付いた笑顔がマジで怖い。腹の底では別のことを考えていそうな顔だ。
 お願いだからもう帰ってください。

「お~い、殿下! そろそろ帰ろうぜ!」

「ああ、そうだな。では僕たちは失礼するよ。ルシー嬢は今年の秋に、王都のディオン学園に入るんだろう?」

「え、ええ。その予定です」

「何か困ったことがあれば、僕かカイラーを頼るといい。きみに会うのを楽しみにしているよ」

「あ、ありがとう、ございます……」

 多分、何があっても頼らないと思うけど。可能な限り近づかないようにすると思うけど。

 カイラーが帰ったあとセラフィスは少し寂しそうだったので、夕方になるまで裏庭で鬼ごっこやかくれんぼをして遊んだ。
 寝る前にエマへたっぷり報酬を渡し、ようやくあわただしい一日を終えたのだった。
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