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15 行ってきます
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準備は万端だ。寮生活で必要となる荷物を馬車に積み込み、あとは出発するだけ。私は侯爵家の門に立ち、家族へ別れの挨拶をする。
「では行ってまいります!」
「頑張るんだぞ、ルシー。くれぐれも変な男の誘いに乗らないようにな! ああ、本当は学園内に護衛を入れたいのに……!」
「あなたったら、ディオン学園は生徒と教師しか入れないとご存知でしょう。ルシー、健康に気をつけてね。お店のことは、わたくしとエマで何とかしておきますからね」
「はい、よろしくお願いします」
お手入れハサミの通販に関しては、お母さまとエマに一任する事にした。ハサミを買うついでに眉毛の相談を受けたりもするのだが、私のように毛が薄いことを気にする人もいるらしい。今ではそんな人たちのために、アイブロウも販売している。うす茶からこげ茶まで合計五種類のラインナップ。調合を詳しく書いたレシピがあるので、私がいなくても大丈夫だろう。
売り上げのお金は使うこともなく、セラフィスのために貯金している。弟が家を継ぐことになったら、お姉ちゃんからのプレゼントとして渡す予定だ。何かと物入りになるだろうから。
そして、そのセラフィスは――。
「たまには帰ってきてね、姉上! 俺、待ってるからさ」
なんと一人称が「僕」から「俺」に変わってしまった。どうしてなんだ、カイラーのせいなのか? 雄介(前世の弟)も小学校に入ったあたりから俺呼びが始まったが、姉としては複雑である。僕って呼ぶのも可愛かったけどなあ。
「長期休みには帰ってくるね。それじゃ、行ってきます!」
手を振りながら家族と別れ、エマと一緒に馬車に乗る。エマはディオン学園に着くまでの付き添いで、敷地内に進入できるのは生徒と教師だけだ。
ディオン学園は貴族を対象とした授業料がべらぼうに高い学校で、『自立と自律』をモットーとしている。基本的に自分のことは自分でしなければならない。当然、侍女やメイドを入れることもできないので、甘やかされて育った令嬢や令息にとってはつらい三年間になることだろう。
まあ、前世で一人暮らしをしていた私には余裕ですけども。
王都へは馬車で三日もかかるので、道中はホテルで宿泊した。お父さまがすでに手配してくれていたからチェックインは楽であった。でも一番いい部屋だったので少し気後れする。前世の貧乏体質がなかなか抜けないようだ。
そして、三日目の夕方。
「あれが、王立ディオン学園……!」
「寮が完備されてるせいか、とても大きいですね!」
本当に大きい。背後に王宮が見えているが、ほぼ同じぐらいの規模があるのではなかろうか。広い敷地内には校舎のほかに男子寮、女子寮、講堂と巨大な建物が並ぶ。校舎だけでも四つの棟に別れているし、まるで大学のような雰囲気だ。
学園の門で受付し、馬車で女子寮へ向かう。明日が入学式とあって、私のように故郷から移動してきた馬車が他にもいくつか見られた。護衛として付いてきた騎士が荷物を女子寮の部屋まで運んでくれた、のだが。
「あれ? 私ってひとり部屋なのかな?」
「旦那さまが寄付金を積んで、お嬢さまのために個室にしたんですよ。ひとり部屋の方が、ストレスがないだろうと申されて」
そうだったんだ。ゲームでは嫌われてるから個室になったような描写だったけど、現実では解釈が少し違うのかもしれない。
侯爵家の私の部屋も広かったけど、あてがわれた部屋も同じように広かった。小さなキッチンまで付いていて、マンションでいうと1kタイプである。
私とエマは分担して荷物を片付け、クローゼットに学園の服を仕舞ったりした。なんと懐かしい、ブレザーだ。着るのは十年以上ぶり。
膝下まである長いスカートはタータンチェック柄で、上着は紺色。首もとのリボンはエンジ色。日本の高校生が着ている制服にそっくりで、とても可愛い。ただ、スカートの丈は長めだけど。
「では、お嬢さま。お体に気をつけて……」
「うん。エマ、ここまで本当にありがとう。ひとりでも何とか頑張ってみるよ!」
「お嬢さま……!!」
私とエマはひしっと抱き合い、別れを惜しんだ。エマには感謝してもしきれない。エマのおかげでセラとも仲良くなれたし、ハサミ事業もうまく行ったのだ。
私はエマと護衛の騎士を門まで見送り、侯爵家の紋が入った馬車が消えてしまうまでじっと立っていた。
さあ、ここからは一人だ。明日の入学式を終えたらいよいよゲーム開始である。私は女子寮に戻り、万全の体制を整えてから眠った。
「では行ってまいります!」
「頑張るんだぞ、ルシー。くれぐれも変な男の誘いに乗らないようにな! ああ、本当は学園内に護衛を入れたいのに……!」
「あなたったら、ディオン学園は生徒と教師しか入れないとご存知でしょう。ルシー、健康に気をつけてね。お店のことは、わたくしとエマで何とかしておきますからね」
「はい、よろしくお願いします」
お手入れハサミの通販に関しては、お母さまとエマに一任する事にした。ハサミを買うついでに眉毛の相談を受けたりもするのだが、私のように毛が薄いことを気にする人もいるらしい。今ではそんな人たちのために、アイブロウも販売している。うす茶からこげ茶まで合計五種類のラインナップ。調合を詳しく書いたレシピがあるので、私がいなくても大丈夫だろう。
売り上げのお金は使うこともなく、セラフィスのために貯金している。弟が家を継ぐことになったら、お姉ちゃんからのプレゼントとして渡す予定だ。何かと物入りになるだろうから。
そして、そのセラフィスは――。
「たまには帰ってきてね、姉上! 俺、待ってるからさ」
なんと一人称が「僕」から「俺」に変わってしまった。どうしてなんだ、カイラーのせいなのか? 雄介(前世の弟)も小学校に入ったあたりから俺呼びが始まったが、姉としては複雑である。僕って呼ぶのも可愛かったけどなあ。
「長期休みには帰ってくるね。それじゃ、行ってきます!」
手を振りながら家族と別れ、エマと一緒に馬車に乗る。エマはディオン学園に着くまでの付き添いで、敷地内に進入できるのは生徒と教師だけだ。
ディオン学園は貴族を対象とした授業料がべらぼうに高い学校で、『自立と自律』をモットーとしている。基本的に自分のことは自分でしなければならない。当然、侍女やメイドを入れることもできないので、甘やかされて育った令嬢や令息にとってはつらい三年間になることだろう。
まあ、前世で一人暮らしをしていた私には余裕ですけども。
王都へは馬車で三日もかかるので、道中はホテルで宿泊した。お父さまがすでに手配してくれていたからチェックインは楽であった。でも一番いい部屋だったので少し気後れする。前世の貧乏体質がなかなか抜けないようだ。
そして、三日目の夕方。
「あれが、王立ディオン学園……!」
「寮が完備されてるせいか、とても大きいですね!」
本当に大きい。背後に王宮が見えているが、ほぼ同じぐらいの規模があるのではなかろうか。広い敷地内には校舎のほかに男子寮、女子寮、講堂と巨大な建物が並ぶ。校舎だけでも四つの棟に別れているし、まるで大学のような雰囲気だ。
学園の門で受付し、馬車で女子寮へ向かう。明日が入学式とあって、私のように故郷から移動してきた馬車が他にもいくつか見られた。護衛として付いてきた騎士が荷物を女子寮の部屋まで運んでくれた、のだが。
「あれ? 私ってひとり部屋なのかな?」
「旦那さまが寄付金を積んで、お嬢さまのために個室にしたんですよ。ひとり部屋の方が、ストレスがないだろうと申されて」
そうだったんだ。ゲームでは嫌われてるから個室になったような描写だったけど、現実では解釈が少し違うのかもしれない。
侯爵家の私の部屋も広かったけど、あてがわれた部屋も同じように広かった。小さなキッチンまで付いていて、マンションでいうと1kタイプである。
私とエマは分担して荷物を片付け、クローゼットに学園の服を仕舞ったりした。なんと懐かしい、ブレザーだ。着るのは十年以上ぶり。
膝下まである長いスカートはタータンチェック柄で、上着は紺色。首もとのリボンはエンジ色。日本の高校生が着ている制服にそっくりで、とても可愛い。ただ、スカートの丈は長めだけど。
「では、お嬢さま。お体に気をつけて……」
「うん。エマ、ここまで本当にありがとう。ひとりでも何とか頑張ってみるよ!」
「お嬢さま……!!」
私とエマはひしっと抱き合い、別れを惜しんだ。エマには感謝してもしきれない。エマのおかげでセラとも仲良くなれたし、ハサミ事業もうまく行ったのだ。
私はエマと護衛の騎士を門まで見送り、侯爵家の紋が入った馬車が消えてしまうまでじっと立っていた。
さあ、ここからは一人だ。明日の入学式を終えたらいよいよゲーム開始である。私は女子寮に戻り、万全の体制を整えてから眠った。
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