コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま

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21 階段おち

 不安だったが、何ごともなく一週間を終えた。週末は日本と同じく二日間の休みがあり、月曜から授業再開である。
 私はアリシア達に誘われ、馬用の競技場へ来ていた。女子のダンスを男子が見学できるのと同じように、女子は男子専用の授業を見学できるのだ。

 二時間連続で乗馬をするのか、休み時間になっても外で男子たちが馬に乗っている。でも一年生ではなくひとつ上の学年――二年生だ。
 授業が終わるなり急いで来てみたが、着いた頃には柵の周りが女子生徒だらけであった。場所とり負けてしまった。仕方なく、前から二列目で競技を見学する。

「あっ、殿下ですわ!」

 誰かが叫ぶと、他の女子が「えっ」と小さくつぶやいて視線をさまよわせた。みんな動きが同じだ。完全にシンクロしている。
 やがてコースに学園で最も目立つ少年が現れ、場はシンと静まり返った。この状況で馬に乗るのはつらいと思うが、殿下には大したことではないらしい。余裕の表情である。さすが鋼のメンタル。

 殿下が馬に乗って障害物を越えると、柵の外にいる女子が「きゃあああ!」。でも他の男子が同じことをしても「しーん」。なんやねんその塩対応は。いじめだ。差別だ。

 何となく不憫になり、名前も知らない生徒が障害を越えるたびに拍手をおくることにした。私の中でルシーが怒っているのだ。見た目だけで人を判断するなと。
 殿下とカイラー、そして攻略対象とおぼしき髪色がハデな少年には拍手しない。だって「きゃあああ!」で拍手がかき消されるからね。

 ひどい世界だ。見た目が麗しくない者にはつらい世界だ……。日本と同じだけど、世知がらいなぁ。

 先生が途中でやってきて、次の授業も男子の見学をしていていいと言う。私はもう教室へ戻りたかったが、アリシア達が嬉しそうだったので何も言えなかった。新・ルシーは空気を読める子なのだ。

 ようやく乗馬が終わり、へとへとになった男子生徒が柵から出てきた。人気のある男子には女子が「これで汗を拭いてください!」なんて言いつつ布を渡している。ああ、青春。

 ちなみに私は手ぶらである。ほっかむりしていた布はいわくつきの危険な代物シロモノなため、実家に封印してきた。誰も発見しませんように。

「殿下! タオルをどうぞ!」

 他の女子を押しのけるようにして、ティナが殿下へタオルを差し出す。強い。さすがリア充だ。
 と、何故か殿下と目が合った。何か言いたげに私を見るので、手をぶらぶらさせて何も持っていないとアピールしておく。見ても無駄だ!

「……ありがとう」

 殿下は口元だけの笑みでタオルを受けとり、周囲から「きぃいっ!」と悔しそうな声が上がった。見ていた他の女子も「何なのあの子」だの「男爵家のくせに」だの言っている。

 紗里――じゃなかった、ティナぁ~! 悪目立ちしてるよ……!

 見てるとハラハラする。大丈夫なのか、あいつは。ゲームを知らない女子は、男爵家の令嬢は殿下と結ばれるわけがないと思ってんのに。

 ゲームではティナの言動を気にする人はいなかったけど、やはり現実は違うようだ。男をとっかえひっかえする令嬢は、他の女子にとっても印象が悪いらしい。
 でも男子生徒はティナを気にしていない様子なので、男子にはゲームの力が働いている――のかも? よく分からんけど。

 カーン、カーン。
 今日も学園長が忠実に仕事をしている。私たちは教室に戻り、次の授業の用意を始めた。ティナのことは気になるが、私が彼女に注意したらそれこそ悪役令嬢になってしまいそうで怖い。だから何も出来ない……と思っていたのだが。

「ルシーフェル様。ティナ嬢に注意した方がよろしいのではないでしょうか?」

 昼食の時間、私たちはいつものように五人でテーブルを囲んでいた。アリシアが私に言うと、他の二人もうんうんと頷く。

「注意というと……乗馬でのアレですか?」

「ええ。少々、やり過ぎな印象を受けました。しかも殿下だけではなく、アレックス様やライアン様とも親しくされている様子で……。貴族の令嬢として、いかがなものかと思います」

「アレックス様とライアン様も伯爵家の令息とあって、女子生徒に人気ですからね。自分から敵を作っているようなものですわ」

「ルシーフェル様、侯爵令嬢としてガツンと言ってやってください!」

 ええ~、こういう展開になるわけぇ?
 どうしても私を悪役令嬢にしたいのか、ゲームの世界とやらは!

「わ、わかりました……。放課後にでも、ティナ嬢に声をかけてみますね」

「「「よろしくお願いします!」」」

 三人の声がかぶった。よほど腹に据えかねているらしい。
 私が思うに、ティナは紗里奈としての意識のほうが強いのかもしれない。日本人の感覚のまま貴族社会にデビューしたから、慣習とかしきたりみたいなものに付いて行けない……のかも?

 厄介なことになってしまった。どう声をかけたらいいかなぁ。
 ティナ、ヤバイよヤバイよ!――違うな、もっと侯爵令嬢っぽくか。ティナ、おイタがすぎますわよ――嫌味っぽいか。ううむ、難しい。

 悩みながら過ごし、一日の最後を迎えた。六時間目は刺繍なので、専用の部屋に移動する。次の授業が終わったら、ティナに声をかけよう……覚悟を決め、少し前を歩くピンクの髪を見つめた。一年生の女子全員でぞろぞろと移動しているが、周囲が茶系なのでピンク色はかなり目立つ。

 ずっと目で追っていたが、階段に差し掛かった瞬間、急にピンクの頭が見えなくなった。
 そして――

「きゃああああ!!」

 鋭い悲鳴と一緒に、ガシャーン!と何かが落ちる音。
 何が起こったの!?

「どいて! どいてちょうだい!」

 私は周囲に叫びつつ、階段の上から見下ろした。
 そして階下に落ちているティナを発見し、愕然としたのだった。
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