コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま

文字の大きさ
29 / 51

29 魔法使いの杖……?

しおりを挟む
 翌週、魔法の授業で自分の杖を見つけることになった。学園には雑木林があり、そこの一画にセンカマドという特殊な木が何本か生えているのだ。枝から自分の杖を見つけるのが今日のミッションである。

 龍脈から養分を得たセンカマドは千回燃やしても灰にならないのでその名になったようだが、明らかにナナカマドのパクリだと思う。雑木林のなかで見つけたセンカマドには、南天のような赤い実がたくさん付いていた。

「見た目は完全にナナカマドだよね……」

「デザインした奴が手を抜いたのかもねぇ」

 私の隣でティナがぼそりとつぶやいた。私の怪力はいまや学園中に知れ渡っており、破壊行為を恐れたマルコ爺さんが私たちにペアで行動するように言ったのだ。いちおう指輪を嵌めてはいるが、ティナというストッパーがいたほうがより安全だと考えたのだろう。ひどい話だ。

 マルコ爺さんの説明によると、自分の杖となる枝はひと目でわかるらしい。枝に手を触れるとまるで意志を持ったかのようにぽきりと折れ、魔法の杖に変化すると言っていた。本当ならすごいことで、私はセンカマドを見ながらワクワクしていた。

「ルシーフェル様! どちらが魔法使いとして相応しい杖を探せるか、勝負いたしましょう!」

 センカマドの周囲をうろついていると、後ろから甲高い声がした。クラリッサである。彼女はめでたく二週間の謹慎がとけ、学園に戻ってきたのだ。

「そーですね。頑張りましょうね」

「んもうっ、覇気のないお返事だこと! そんな事では、わたくしのライバルとは言えませんことよ!」

 クラリッサはぷんぷん怒りながら別の木に行ってしまった。そう言われてもね、私はクラリッサのライバルをやる気がないし。
 確かに殿下は私を目に掛けてくれていると思うが、あれは生徒会長として面倒を見てるだけだろう。ティナと私が問題児だから。

「殿下はルシーのこと気に入ってると思うけどな。やっぱりキラキラしてたら駄目なの?」

 ティナは私と二人のときだけ気さくな話し方をする。
 かなり小さな声だけど。

「正直いうとさ。殿下がどうこうじゃなくて、ただ穏やかな人生を歩みたいんだよ……。もう男で悩むのはコリゴリというか」

「……もしかして、前世で彼氏と何かあった?」

「べ、別になにも。それより、落とし穴っていつ頃なのかな?」

「落とし穴は主人公が殿下を攻略した直後だよ。条件を満たさないと、落とし穴イベントは起こらないと思う。でもわたしはもう殿下のことは諦めたからね……。可能性がなさすぎて、頑張る気も失せたわ」

 ええぇ、あんなに好き好き言ってたのに。なまの殿下を見て、腹黒さにショックでも受けたんだろうか。
 しかしティナの言う通りだとすれば、落とし穴イベントは起こらないかもしれない。あるいはクラリッサが殿下と結ばれた時に何か起こるとか?

 考え事に沈みかけたが、他の生徒の「あったー!」だの、「コレが俺の杖か!」だの叫ぶ声でハッと我に返る。今はとりあえず、杖さがしをしなければ。

「あ、わたしの杖あった」

「え」

 声で振り返ると、ティナが触れた枝の一部がほのかに光り、ぽきんと音を立てて折れた。ティナの手に落ちた枝は光りながら形を変え――。

「うわぁ、すごい。加工品みたいに綺麗になったね」

「画面で見たのと同じ杖だわ」

 まるで彫刻刀で削ったかのように、精緻な模様が彫り込まれた杖になった。大きさは指揮者のタクトぐらいだけど、手で持つ部分にはつる草や花の模様があって可愛い。いいなぁ、私もティナみたいな杖がほしい。
 しかしいくら木の枝を見上げてもピンと来るものがなく、がっくりと肩を落としたとき。

「……ん?」

 木の根元が妙に気になった。そこから「手でさわって」というテレパシーのようなものを感じる。でも魔法の杖ってタクトぐらいの大きさのはずなのに、なぜ太い幹の部分から信号が発せられているのか。嫌な予感……。

 無視してそこから離れようとしたが、幹の一部は懸命に私へ念波を送ってくる。
 さわってぇ~、無視しないでぇ~。

「ったく、しょうがないなぁ」

 呼びかけてくる幹の一部にそっと手を当てると、ボキッ!と激しい音がして木がえぐれた。うげ、大丈夫なのか。ここから木が弱って死んだりしないだろうか。

 不安に思いつつ木材に目を向ければ、ティナの時と同じように光りながら形が変わっていく。さぞかしお洒落な杖になるのだろうと思いきや――。

「…………」

「ルシーの杖……ほぼ木製のバットじゃない?」

 最初は光ったものの、ほとんど形に変化がなかった。先端は太く、グリップ部分は細く。握る部分には滑りどめのテープを巻いたような模様が彫られている。

 ナメてんの?
 ねえ、私のことナメてんの?

 もう確信した。ティナ恋はクソゲーである。たとえ万人が素晴らしいゲームだと褒め称えようと、私にとってはクソゲーである。デザインした奴は誰だ!

「くっ……! デザイナーめ!」

 低い声でうめく私の背後でティナが爆笑している。あんたはいいよね、主人公だからさ。魔力に属性もなく、杖は木製バットの私はどうすりゃいいのか。バットを振り回して暴れろとでもいうのか?
 それって、もしかしなくてもヤンキー。眉毛ナシで杖はバットとか……。

「よおクラリッサ。おまえ、停学処分になるぐらい殿下のことが好きなんだってな」

「でも殿下は停学になるような女を選ばないと思うぜ。何なら、オレがおまえを嫁にしてやろうかぁ? ハハハ!」

 背後から下卑た笑い声が聞こえ、私は思わずバットを構えた。5mほど離れた場所にクラリッサと二人の男子生徒が立っている。
 やはりか。クラリッサが停学になった時から、こういう事態になると思った。私はバッ……杖を肩に乗せたまま、男子生徒へ声をかける。

「あらあら、困ったわねぇ。私の杖(バット)が獲物を見つけたと喜んでいるわぁ」

「!? る、ルシーフェル様!?」

「そっ、その杖は――杖、なのか!?」

 杖とはいえない形状だが、ガイゼル侯爵令嬢たる私に偉そうなことは言えまい。杖を肩にトントンさせながら話を続ける。

「私にはこの子の声が聞こえるの。不埒な外道の生き血を吸いたい、体を真っ赤に染め上げたい……ってね。さあ、どちらが生け贄になってくれるのかしら?」

 ホームラン宣言するかのように杖をビシッと男子に向けると、二人は震え上がって叫んだ。

「すっ、すみませんでしたァ!」

「もうクラリッサには近づきません!」

 ふっ、外道どもめ。男子二人が走り去ったあとにクラリッサへ視線を向けると、彼女は私の杖を見て目を丸くしている。杖の勝負はクラリッサの勝ちだろう。私のコレは杖とは呼べないし……と思ったのだが。

「すっ、素晴らしい杖ですわ……! 太さといい、形状といい……史上最強の名に相応しい!」

 クラリッサが寝言をつぶやいている。どうしちゃったの、どこから見てもただの木製バットだよ? まぁバットを知らないクラリッサには分からないだろうけど。

「クラリッサ様の杖も、素敵ですね」

 横で見ていたティナが遠慮がちに言った。一応クラリッサを褒めようとしてるらしい。そのクラリッサの杖もなかなかキワドイ代物しろものであった。

「そうでしょう! わたくしの杖も素敵でしょ? 特にこの、先端の部分が!」

 クラリッサの杖は二本の細い枝が絡む形になっており、先端は別れてハート型になっている。百均の玩具コーナーで見た魔法の杖にそっくりだ。未就学児なら喜んで手に取るであろう。

 周囲を見渡せば、他の生徒が手にしている杖はほぼ指揮者のタクトであった。私やクラリッサのように何らかの役目が与えられた者は、一般的な形状から外れてしまうらしい。外れたくなかった……。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...