コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま

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47 落とし穴

 その後はティナが言った通り、たびたび地震が起きるようになった。最初は火山活動のためかと思われていたが、震源がディオン学園の付近だと気づくと王宮魔法院から人が来て、連日のように先生たちと何か相談している。

「最近、地震が多いですわね」

「先生がたも何か調べているようですわ」

「怖いですね……」

 食堂で昼食をとっていると、アリシア達が不安そうに言う。でも私とティナは何かを説明することもなく、黙っていた。ゲームだのドラゴンだの言っても信じにくいだろうし、いたずらに彼女たちの不安を煽りたくなかったのだ。

 私たちに出来ることは、先生たちの調査が終わるのを待つこと――と思って大人しくしていたが、ある日の午後、とうとう問題が起きた。

「大変だぁー!! 地下からイノシシの魔物が出た! 早く逃げろー!!」

 授業中で静まり返った教室に、誰かが叫ぶ声が響いた。声は外から聞こえてきて、視線をそちらに向けると講堂のあたりで黒い服を着た人たちが大騒ぎしている。あの黒い服は、魔法院に所属する人のものだ。

「あれって、まさか……」

「ティナ、行こう!」

 逃げ惑う生徒たちにまざり、私とティナは魔法の杖を持って講堂へ向かった。どうやら講堂の床下が地下神殿につながっているらしい。地下へと通じる扉を先生と魔法院の人たちが力ずくで抑えているが、何かが扉の向こうからドン!ドン!とぶつかり、今にも押し破られそうだ。

「も、もうダメだ……!」

「生徒は早く逃げなさい!」

 ひとりの先生が叫んだ途端、扉がものすごい勢いで開いて、中からイノシシの大群が飛び出した。普通のイノシシじゃなく、頭に二本の角が生えている。

 角ありイノシシは猪突猛進の言葉どおり、講堂の出入り口も吹っ飛ばしてどこかへ向けて駆けだした。私とティナも追いかける。

「な、何あれ? イノシシってあんなんだっけ?」

「龍脈に触れると、普通の動物でもモンスター化するんだよ。どっかの穴に入ったときに、龍脈にさわっちゃったんじゃない? ああもう、足が速いなぁ!」

 ティナは杖をふるって風の壁を作った。壁に弾き飛ばされたイノシシがこっちに飛んできたので、バット杖でガンッと打ち返す。
 今は二つの指輪をはずしているので、私の魔力は筋力に全振り状態なのだ。多分、バット杖で大木を折ったりもできると思う。しないけど。

「ルシー! 大丈夫か!」

「俺たちも手伝うぜ!」

 殿下とカイラーが来て、二人は火と風をまぜて巨大な炎の壁を作った。うわお、すごい。イノシシが何匹か黒コゲになったが、とにかく数が多くて足が早いので追いかけるのが大変だ。

「中庭にイノシシを追い込んでください! わたしが穴を作ります!」

 ティナはそう叫び、土の魔法を使って中庭に巨大な穴を作った。殿下とカイラーによる炎の壁がイノシシたちを穴へと追い込むが、何匹かは逃げようとする。私は逃げ出したイノシシをバット杖で打ち、穴にぽいぽいと入れた。私の仕事だけ、なんか地味……。

「よし、全部入った! 焼くぜ!」

 カイラーが穴に向かって火の塊を投げ込むと、灼熱の炎が舞い上がった。あっつぅ。怖いので火が消えてから穴を覗き込むと、底のほうでイノシシが焦げている。私は両手を合わせ、彼らの冥福を祈った。ごめんね、成仏してね。
 隣で同じように手を合わせていたティナが、「あっ」と声を上げる。

「どうしたの?」

「これって、落とし穴になるんじゃない? わたしが穴を掘っちゃったわ……」

「ああ……」

 どうも『ティナ恋』の世界では、何があってもイベントは発生するらしい。たとえシナリオ通りではなくても、階段から落ちるとか、落とし穴が出来るという事象は必ず起こるようだ。

 イノシシ問題が解決してほっと息をついた瞬間、地面を揺るがすようなもの凄い声が学園中に響いた。

 ――グォオオオ!!

 鳴き声にあわせて、空気がビリビリと震える。思わず耳を塞ぎたくなるような声だ。

「こ、これって……」

「ドラゴンの声だろうな」

「すげー声!」

 講堂のあたりに集まっていた先生たちも「まさか」だの、「ドラゴンが復活した!?」だの言って大騒ぎしている。マルコ爺さんが大慌てでやってきて、ティナに手招きした。

「ティナ嬢、一緒に来とくれ! 今からワシ達で地下神殿へ向かう。誰かが怪我をしたら、回復魔法をかけて欲しいんじゃ」

「あっ、はい! 行ってくるね!」

 呼ばれたティナがマルコ爺さんと走って行くが、私は不安であった。イノシシ相手でさえ何も出来なかった先生たちが、ドラゴンに立ち向かえるんだろうか。

 地下神殿への扉が開くと、魔物が外部に逃げないよう、学園に結界が張られる仕組みになっているらしい。学園のなかから出られないのと同じで、外からも入れなくなるのだ。だからドラゴン問題は先生と生徒で解決するしかない。

「先生たちには無理だろうな」

「怪我しねーといいけどなぁ。どうせ俺たちが行くことになるだろうし、今のうちにサイモンを呼んどこーぜ」

 殿下とカイラーはあっさりと結論を出し、サイモンがいる研究室へ行ってしまった。しばらくして制服を着た二人の少年と、ゴツイ鎧を着込んだ少年が出てくる。鎧の人物が歩くたびに、ガシャ、ガシャと変な音がした。

「さ、サイモン様……ですか? 眼鏡しか見えてないんですけど」

「ついに完成したぞ。その名も、衝撃吸収鎧だ! 校舎の屋上から落ちても壊れず、しかも軽くて疲れにくい!」

「王宮にもこんな鎧があったけど、着ている奴を見たのは初めてだぜ。ぷっ、ゴツすぎ!」

「怪我するよりはいいんじゃないか?」

 話しているうちに、講堂の出口から先生たちがゾロゾロと出てきた。誰もが青ざめて汗だくになっているが、ティナだけは元気そうだ。

「ティナ、どうだった?」

「ドラゴンはまだ完全体じゃなかったよ。弱ってて、尻尾しか動かせないみたい。でも先生たちが近づいたら尻尾をブンブン振って追い払うから、何人か尻尾に当たって骨折しちゃって……。すぐに回復魔法で治したけどね」

「つまり、手も足も出なかったんだな。行こーぜ。やっぱ俺らが頑張るしかねぇよ」

「よ、よし……! い、行くか!」

「行ってくるね。ルシーは校舎の中で待ってるんだよ?」

「はぁい」

 不満そうに返事をしてしまったが、殿下は私の頭をよしよしと撫でてくれた。三人と鎧人よろいじんは講堂へ向かい、先生たちと何か話し込んでいる。

 最初は抵抗を示していた先生たちだったが、殿下がイノシシの穴を指さすと急に静かになった。マルコ爺さんがカイラーの肩をぽんとたたき、激励している。何がなんでも王太子を守れとでも言ってるんだろう。
 そして四人は講堂の中に消え、私も仕方なく教室へ戻ることにした。
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