コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま

文字の大きさ
49 / 51

49 吸収

しおりを挟む
「私、ドラゴンと話をしてみる。でも吸収されそうになったら、みんなが止めてね」

「わ、分かった! 任せといて」

「気をつけろよ」

「私は全力で逃げる!」

「僕も一緒に行くよ。きみ一人を危険な目に会わせられない」

 殿下は私の手をきゅっと握った。私はこくりと頷き、二人でゆっくりとドラゴンへ歩いていく。私たちが近づいてもやはりドラゴンは大人しく、真っ赤な目でじっと私を見ていた。

 赤い瞳を見つめ返すと、頭の中にドラゴンの過去が流れ込んでくる。龍族のなかで一匹だけ黒い体と赤い目を持ったせいで迫害され、一人ぼっちになった子供の龍。どこにも居場所がなく、龍脈から出たところで人間に退治され……そして、神殿に封印されたのだ。

 悲しくて涙がぼろぼろ溢れた。この子は私と同じだ。見た目がみんなと違うという理由で、一人ぼっちになってしまった可哀相な子なんだ。

「ルシー? どうして泣いてるんだ?」

「この子の過去が見えたんです。ドラゴンって普通は緑色の体なのに、ひとりだけ黒い体だからっていじめられて……それで龍脈から出ちゃったの。私、この子を助けてあげたい……」

 私は手を伸ばし、黒い龍の体にそっと触れた。触れた瞬間はぶるっと震えたたものの、赤い瞳はルビーのように澄み渡っていてとても綺麗だ。

 ――私と一緒においで。これからは私がずっと、あなたのそばにいてあげる。

 心で念じると、ドラゴンは「ギャオウ」と小さく鳴いた。黒い鱗から光があふれ、ドラゴンの体から出た光の粒子が私に吸収されていく。

「ルシー……!!」

「ルシー! 大丈夫なの!?」

 殿下とティナの声が聞こえる。大丈夫だよ。私の心はちゃんとここにあるから。
 ドラゴンの光が入るたびに、体がぽかぽかとして温かい。足りないものがやっと見つかったような感覚で、なんとも不思議な気分だ。

 ドラゴンが丸ごと私に吸収されてからそっと目を開けると、心配そうな三人の顔があった。鎧人はなにを考えてるか分からない。

「ふふ。大丈夫、ちゃんと私のままだよ。ほら、体だって人間のままでしょ?」

「もっ、もう、心配させて! でも良かったぁ……。やっとこのゲームをコンプリートできたわ! やったぞー、完璧にクリアしたぞー!!」

「よく分かんねーけど、良かったなぁティナ! わははっ」

 カイラーがティナの体を持ち上げ、二人はくるくると回りだした。真夏の浜辺でたわむれる恋人たちのようだ。さすがリア充。

「良かった……。安心したよ」

 殿下がほっとしたようにつぶやき、私に向かって両手を広げている。多分、胸に飛び込んでこいってことだろう。私は空気を読み、彼の胸に抱きついた。
 好きな人に抱きしめてもらうのって、最高に幸せだ。

「不思議なことだが、恐らくドラゴンの魔力とルシー嬢の魔力が相殺されたんだろう。それでルシー嬢の魔力は恐ろしいほど多かったのだな! やはりルシー嬢は素晴らしい実験ざいりょ……ぐえっ」

 殿下が振り上げた杖がサイモンのかぶとにあたり、ぐわわ~んと変な音が響いた。こいつは本当に天才なのかと疑問を感じる。あんまりデリカシーがないと、クラリッサにも愛想つかされるかもよ。

 私たちは皆で講堂へ戻り、待っていた先生たちに全てを報告した。私がドラゴンを吸収したと聞いて場は騒然となったが、サイモンのタブレット板で魔力値を測ると、なんと数値は600まで減っている。

 属性まで土に変わり、ちょっと魔力が多い普通の少女になってしまった。怪力がなくなったのはちょっと残念な気もする。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...