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51 私たちだけの物語
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ディオン学園の生徒会室は、サイモンの研究室の隣にあったらしい。学園長の部屋のように分厚いドアだなと思っていたが、まさか生徒会室だとは知らなかった。
内部まで広く、会議室の他に資料室や給湯室、仮眠室までついているという設備の良さ。生徒用というより、社長が使う部屋のような感じだ。
その資料室で、私とティナ、クラリッサは鉛筆を動かしている。
「うう、しんどい……。テスト勉強もつらかったけど、資料を作るのもつらい……」
「頑張れ。もう少しで終わるから、頑張れ……」
「もうお二人とも、さっきからブツブツ言いすぎですわよ。それでも救国の乙女ですか?」
クラリッサに叱られても、「ふぁい」という気の抜けた返事しか出てこない。どうしてこうなってしまったんだ。
学園祭のあと、三年生の先輩がたは就職や学院に向けた試験勉強のため、生徒会もクラブ活動も引退してしまった。例年だと5月ごろに生徒会役員を決める選挙を行っていたが、ドラゴン騒動で出来なかったのだ。
そこで今回だけ特別に生徒会長――つまり殿下による指名で決めることになり、選ばれたのが私とティナ、クラリッサの三人であった。
会長は殿下で、副会長はカイラーとサイモン。会計が私、書記がティナとクラリッサの二人。学園の英雄となってしまった私たちに不満をぶつける人は誰もいなかったし、面倒見のいいクラリッサは女子生徒から密かに人気がある。もうやるしかない。
「なんどやっても数字がずれるよぉ。どうしてなの?」
「ティナ、書くところを間違ってますわ」
クラリッサは生徒会に入ったことで活躍が認められ、無事にサイモンと婚約できたらしい。公爵家に挨拶に行った折にはなんとサイモンは五体投地して父親に婚約を頼んだというから、本当にクラリッサのことが好きなのだ。私も五体投地するサイモンが見たかった……。
壁に掛けられたカレンダーに視線を向ける。もう8月だ。生徒会の仕事もやっと慣れてきたと思ったけど、今日は三年生の先輩がたが卒業する日である。今ごろは講堂で、卒業証書の授与が行われているはずだ。殿下たちも卒業生に送辞を述べているだろう。
「さあ、そろそろ終わらせないとパーティーに間に合わないよ。着がえて講堂に行かなきゃ」
「お、終わったぁ……!」
「では参りましょう!」
生徒会室を出て鍵をかけ、急いで女子寮へもどる。卒業パーティーは婚約者が決まった在校生なら参加できるので、全員でパーティへ行こうと決めたのだ。色々あったけど、私たちはみんな好きな人を見つけて無事に婚約できたから。
アリシア達と合流し、私の部屋で一斉に着がえた。ドレスは複雑な作りになっているので、ひとりで着替えられない。私のドレスはお母さまがかなり気合を入れて用意してくれたエンジ色のドレスだ。手伝いながら着替えを終わらせ、薄く化粧をほどこす。
「ルシー様、眉毛が生えて良かったね」
「うん……。もうなにが何だか分からないよね」
そうなのだ。ドラゴンを吸収して以来、なぜか少しずつ眉毛が生えてきたのである。もう何も考えまい……。この世界におちょくられているという事は分かっているが、私は全てを受け入れよう。眉毛をドラゴンだと思って可愛がります。
他の生徒たちも着がえ終わったようで、夕方になった空の下をぞろぞろと講堂目指して歩いていく。出入り口でそれぞれのパートナーのところへ移動し、私とティナ、クラリッサも殿下たちを探した。でも金・赤・青の派手な色なので、すぐに見つけられる。
「殿下!」
「やあ、来たね。美しい令嬢がた」
殿下は私の手をとり、そっと口付けた。カイラーとサイモンまで真似して、ティナとクラリッサの手にキスをしている。礼服を着た殿下は見とれるほど格好よく、見てたらクラクラしてきた。
不思議だ。私は鬼塚さんのような渋い男性が好きだったのに、今は殿下のことしか頭にない。最初は殿下のモテそうな見た目に警戒してたけど、ずっと優しくしてもらったから好きになって……。
「で……ウィル様。行きましょうか」
「そうだね、ルシー」
初めて名前で呼ぶと、ウィル様は嬉しそうに微笑んで私の頬にキスをした。私も応えるように、彼の頬にキスしてあげる。
ゲームは終わり、これからは私たちだけの物語だ。この先も色々あるだろうけど、自分たちの手で未来を作っていこう。
私はウィル様と一緒に、会場へ向かって足を踏み出したのだった。
完
内部まで広く、会議室の他に資料室や給湯室、仮眠室までついているという設備の良さ。生徒用というより、社長が使う部屋のような感じだ。
その資料室で、私とティナ、クラリッサは鉛筆を動かしている。
「うう、しんどい……。テスト勉強もつらかったけど、資料を作るのもつらい……」
「頑張れ。もう少しで終わるから、頑張れ……」
「もうお二人とも、さっきからブツブツ言いすぎですわよ。それでも救国の乙女ですか?」
クラリッサに叱られても、「ふぁい」という気の抜けた返事しか出てこない。どうしてこうなってしまったんだ。
学園祭のあと、三年生の先輩がたは就職や学院に向けた試験勉強のため、生徒会もクラブ活動も引退してしまった。例年だと5月ごろに生徒会役員を決める選挙を行っていたが、ドラゴン騒動で出来なかったのだ。
そこで今回だけ特別に生徒会長――つまり殿下による指名で決めることになり、選ばれたのが私とティナ、クラリッサの三人であった。
会長は殿下で、副会長はカイラーとサイモン。会計が私、書記がティナとクラリッサの二人。学園の英雄となってしまった私たちに不満をぶつける人は誰もいなかったし、面倒見のいいクラリッサは女子生徒から密かに人気がある。もうやるしかない。
「なんどやっても数字がずれるよぉ。どうしてなの?」
「ティナ、書くところを間違ってますわ」
クラリッサは生徒会に入ったことで活躍が認められ、無事にサイモンと婚約できたらしい。公爵家に挨拶に行った折にはなんとサイモンは五体投地して父親に婚約を頼んだというから、本当にクラリッサのことが好きなのだ。私も五体投地するサイモンが見たかった……。
壁に掛けられたカレンダーに視線を向ける。もう8月だ。生徒会の仕事もやっと慣れてきたと思ったけど、今日は三年生の先輩がたが卒業する日である。今ごろは講堂で、卒業証書の授与が行われているはずだ。殿下たちも卒業生に送辞を述べているだろう。
「さあ、そろそろ終わらせないとパーティーに間に合わないよ。着がえて講堂に行かなきゃ」
「お、終わったぁ……!」
「では参りましょう!」
生徒会室を出て鍵をかけ、急いで女子寮へもどる。卒業パーティーは婚約者が決まった在校生なら参加できるので、全員でパーティへ行こうと決めたのだ。色々あったけど、私たちはみんな好きな人を見つけて無事に婚約できたから。
アリシア達と合流し、私の部屋で一斉に着がえた。ドレスは複雑な作りになっているので、ひとりで着替えられない。私のドレスはお母さまがかなり気合を入れて用意してくれたエンジ色のドレスだ。手伝いながら着替えを終わらせ、薄く化粧をほどこす。
「ルシー様、眉毛が生えて良かったね」
「うん……。もうなにが何だか分からないよね」
そうなのだ。ドラゴンを吸収して以来、なぜか少しずつ眉毛が生えてきたのである。もう何も考えまい……。この世界におちょくられているという事は分かっているが、私は全てを受け入れよう。眉毛をドラゴンだと思って可愛がります。
他の生徒たちも着がえ終わったようで、夕方になった空の下をぞろぞろと講堂目指して歩いていく。出入り口でそれぞれのパートナーのところへ移動し、私とティナ、クラリッサも殿下たちを探した。でも金・赤・青の派手な色なので、すぐに見つけられる。
「殿下!」
「やあ、来たね。美しい令嬢がた」
殿下は私の手をとり、そっと口付けた。カイラーとサイモンまで真似して、ティナとクラリッサの手にキスをしている。礼服を着た殿下は見とれるほど格好よく、見てたらクラクラしてきた。
不思議だ。私は鬼塚さんのような渋い男性が好きだったのに、今は殿下のことしか頭にない。最初は殿下のモテそうな見た目に警戒してたけど、ずっと優しくしてもらったから好きになって……。
「で……ウィル様。行きましょうか」
「そうだね、ルシー」
初めて名前で呼ぶと、ウィル様は嬉しそうに微笑んで私の頬にキスをした。私も応えるように、彼の頬にキスしてあげる。
ゲームは終わり、これからは私たちだけの物語だ。この先も色々あるだろうけど、自分たちの手で未来を作っていこう。
私はウィル様と一緒に、会場へ向かって足を踏み出したのだった。
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