【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?

64 到着

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 ズゥン、と大きな音がして地面がぐらりと揺れた。爽真と私が慌てて振り返ると、洞窟の入り口が岩で塞がれている。

「外で何が起こってんだ……!? 公爵様は無事なのか?」

「爽真、気になるけど先を急ぐペエ。ハル様は足止めのために戦ってくれてるペ」

 私が言うと、爽真は迷いを断ち切るように頷いて洞窟の奥へと足を踏み入れた。内部は岩だらけで何の光源もない。爽真が首からさげた光る石だけが頼りだ。

 この石はレゲ爺さんが爽真に持たせたものらしく、分岐点に差し掛かると行き先を示してくれるという不思議な石だ。私も石が示す方向が間違っていないと確信していた。

「また声が聞こえるペエ。光が示す方向から、こっちに来て、早く来てって呼んでるペ」

「おまえの体が呼んでんのかな」

「ううん。もっと小さな子の声だペエ。三歳ぐらいの……」

 島に上陸してからずっと聞こえていた誰かの小さな声は、洞窟に入ると音量を増してハッキリと聞こえるようになっていた。

(この声……セル様が誘拐されたときに聞こえた声と同じだ)

 私が成鳥に変化する直前も、この声が頭のなかに響いていた。ここだよ、迎えにきて――そう言っていたはずだ。

「小さい子の声だから、もしかしたら雛の声かも知れないペ。迎えに来てって言ってるペエ」

「迎えに来て、か……。寂しかったんだろうな。十年以上も結界の中で閉じ込められてたんだもんなぁ。本当ならもう成鳥になって、空を飛んでたんだろうけど……。うわ、凄い水晶の塊だ」

 洞窟はずっと道になっているわけではなく、いきなり広い空間に出たりもする。鍾乳石が天井からぶら下がっていたり、小さな沼があったり、水晶の塊がキノコみたいに地面から生えていたりする。

「こういうのって、人間を惑わすためにあるのかな」
「欲望に負けて手に取ったら、洞窟が崩れるっていうパターンかもしれないペエ。絶対に触ったら駄目ペ」

「それアラジンの話じゃねぇか。俺たちは魔法のランプを探しに来たんじゃないぞ。……いてっ」
「どうしたペエ?」

 爽真は急に立ち止まり、脚を手で触って「怪我した」と呟いた。脚を触った右手に少し血が付いている。

「岩にぶつかったペエ?」
「いや、そうじゃなくて……何かに噛まれたみたいだ。いてぇ!」
「……そ、爽真……」

 異変を感じ、暗がりに目をこらせば、無数の光る小さな目が私たちを見ていた。ざわざわと蠢く気配もする。

「あれってネズミか? ネズミって人間を襲うのかよ」
「魔物だったら襲うかもしれないペエ」
「くっそぉ! とりあえず走るぞ!」

 爽真はヤケクソのように叫び、光る石が示す方向に走り出した。すぐ近くでチィ、チィと鳴き声が聞こえ、爽真が走りながら「いてぇ!」と叫ぶ。

「爽真、頑張ってペエ。負けないでペエ!」
「わぁかってるよ! 陸上部エースの走りを見せてやらぁ!」

 
爽真は台詞に負けない走りを見せ、時には沼に脚を突っ込み、時には頭を鍾乳石にぶつけながら洞窟を駆け抜けた。

 背中から見ていると、爽真の首に血の筋が垂れている。かなり怪我をしたらしい。

「頑張って……爽真、頑張ってペエ……!」

「こんぐらい平気だ。ネネリムと公爵様は命がけで戦ってんだからさ……! 水晶が増えてきた、目的地が近いかもしれない!」

 道はいつの間にか下り坂に変わっていた。ほとんど滑り落ちるようにして坂をくだると、青い水晶に囲まれた空間に出る。立ち上がった爽真の姿をいくつもの巨大な水晶が映し出し、まるで鏡の部屋に迷いこんだみたいだった。

「すげえ……ここが聖なる巣サンクタムか」
「爽真、あっちだペエ。向こうから声が聞こえるペエ」

 あまりにも声が大きくて頭がくらくらしてきた。ほとんど泣き叫んでいるような声だ。私が後ろからフリッパーで右、左、と案内して爽真がその通りに足を動かす。

 水晶は鏡のように姿を映すので、どこが道なのか分かりにくく、爽真は何度か水晶におでこをぶつけていた。手探り状態で壁を触りながら水晶の道を進むと、ひときわ広い空間に出る。

「あった……。莉乃の体だ」
「氷づけみたいだペエ。本当に生きてるペ?」

 広間の奥に大きな水晶の柱があり、私の体はその中で眠っていた。紺色のブレザーとスカートを着て、青白い顔で柱の中に浮いている。本当に生きているんだろうか?

 ――だ、れ……?

「私だペエ。迎えにきたペエ。今から出してあげるペ」

「賢者レゲは、莉乃が行ったら自然に結界が解けるだろうって言ってたぜ」

 爽真は紐をといて私を水晶の床に降ろした。導かれるように水晶の柱に近寄る。

 ――ま、ま……。まま……。

「ごめんね、私はママじゃないペエ……。ごめんね……」

 フリッパーで柱に触れると、そこから砂のように水晶が溶けていった。ざああ、と音を立てて白い砂になり、床の水晶に染み込んでいく。
 中から出てきた私の体を爽真が支え、床にそっと寝かせてくれた。

「おいで……あなたの体を返すペエ」

 フリッパーを広げて自分の体に抱き付いた。とくん、とくんと鼓動が聞こえる。私の体はちゃんと生きている。抱きついていると体の輪郭があやふやになり、二つの体が溶けて混ざり合ったみたいだった。重力が遮断されて浮いてるように感じる。

 やがて体がじわじわと重くなり、目を開ければ水晶の天井と心配そうな爽真の顔が見えた。唇が強張って、言葉を出しにくい。

「そう、ま……」
「莉乃!? 元の体に戻ったのか!?」
「うん……。でも、すごく……体が重い……」

 自分の体じゃないみたいに、手も足も、目蓋でさえ重く感じる。爽真の手を借りてなんとか体を起こすと、私の膝の上で聖獣の雛が泣いていた。

「まぁま、まま……! ママ!」
「――ん? ママ?」
「これ、まさか……刷り込みってやつなんじゃねぇの?」
「まさかぁ。だって私は人間で」
「ママ!」

 雛は涙でぐしゃぐしゃになりながら「ママ」と叫び、私に勢いよく抱きついた。衝撃で体が倒れ、床にゴンと頭をぶつける。

「いだぁ!」

「わ、わりぃ……。驚きすぎて力が抜けた。どうすんだよ、こいつ」

「うーん……。連れて帰るしかないんじゃない? こんなに泣いてたら、置き去りに出来ないし……」

 雛は相変わらず泣きじゃくりながら私にしがみ付いている。ふわふわした白い羽毛と、黒い円らな瞳を涙で濡らしながら。

「これは可愛いわ……。庇護欲をかき立てられる愛くるしさだわ。私ってこんなに可愛かったんだね!」

「はぁ、しょうがねぇなあ。賢者レゲが何とかすんだろ。とりあえず、俺がおまえ達を担いで外に出してやる」

「ありがと。ペペ――今からあなたの名前はペペだよ。私たちと一緒にお外に出ようね」

 泣いていた雛は顔を上げ、「ペエ?」と首をかしげた。なんと言う可愛さ。身悶える可愛さだ。

「ペペ、ママとおそとでるペエ? いっしょペ?」
「そうだよ。一緒だよ」
「ペエ!」
「はぐあぁ。可愛い……!」
「莉乃がペペをおんぶしろよ。ほら、この紐で」

 爽真は白けた顔をしながら、私の体にペペをおんぶさせて紐で固定した。かなり事務的な動きだった。無駄なものは一切ない感じ。

 しかしペペをおんぶして立とうとした私は大いによろけ、爽真に激しく体当たりしてしまう。タックルされた爽真は少しふら付いたものの、しかめっ面をしながら私に肩を貸して歩き出した。
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