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墓守
追悼
しおりを挟む「……う、ぐ……」 古木の根元で、レナードが苦悶の声を漏らしながら意識を取り戻した。視界は赤く霞み、脇腹には焼けつくような激痛が走る。戦闘が終わったことを悟った彼は震える腕で地面を押し、どうにか体を起こし、カイルの下へ駆け寄った。
「隊長……エイラ、殿は……?」
その問いに、立ち尽くすカイルは答えなかった。ただ、大きな掌の中で、片方のレンズが砕けた丸メガネを静かに握りしめているだけだった。レナードの視線がその先に移り、泥濘の中で物言わぬ骸となったエイラと、周囲に散らばる測量班の変わり果てた姿を捉えた。
「そんな……馬鹿な……」
レナードの膝が再び折れる。グンナーら弓兵組も合流したが、その表情は一様に暗い。彼らは生存者を探して周囲を捜索したが、返ってくるのは無慈悲な報告だけだった。
「隊長、測量班は……全滅です。馬もアラクネの叫び声に怯えて、森の奥へ逃げ去りました。残った機材も、馬車が横転した衝撃でほとんどが使い物になりません」
グンナーの声には、精鋭部隊としての矜持をへし折られた苦渋が混じっていた。
かつての街道を取り戻すための測量機材、そして何より代えのきかない専門家たち。それら全てを失った事実は、第3軍にとって、そして人類の「夜明け」を信じる者たちにとって、あまりに重い損失だった。
カイルは重い腰を上げ、沈痛な面持ちで部下たちを見渡した。
「……遺体をこのまま腐らせるわけにはいかん。ここに埋葬する。機材も、持ち帰る余裕はない。無事なものだけを選別し、後日、回収できるよう印をつけて残していくぞ」
「ですが、それでは今回の遠征は……!」 レナードが声を荒らげようとしたが、カイルの横顔を見て言葉を失った。
カイルは黙々と、自らのモーニングスターを地面に置き、素手で冷たい泥を掘り始めた。2メートルの巨躯を折り曲げ、泥にまみれて墓を掘るその姿は、一人の戦士というよりは、罪を背負った巡礼者のようだった。
数時間後、旧街道の脇には、いくつもの粗末な盛り土と、木切れで作られた十字の墓標が並んだ。 その中の一つ、一番小さな墓標の前で、カイルはエイラの丸メガネを懐へと仕舞い込んだ。
「退却だ。……生きて戻り、この地獄を報告する。それが、生き残った我々の義務だ」
カイルの声は冷徹だったが、その瞳の奥には、激しい自責と深い悔恨が沈んでいた。
一行は負傷したレナードを支え、霧の立ち込める森を背に、基地へと向かって重い足取りで歩き出した。
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