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第5話
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「きみ、すごいな」
手合わせが終わると、勇者は笑顔でエルを褒めた。
切り株に腰掛けて額の汗を拭う。同時にシャツのボタンとズボンの紐を緩め、汗を蒸散させていく。
「んなこと言ってオレの結局一発も入らなかったじゃねえか! また嫌味かよ。くっそー!」
一方、その場で芝生にへたりこんでしまったエルの金髪からは、汗が激しく滴り落ちていた。
肩もまだ上下に動いている。
「嫌味じゃないって。本当に上手だったよ。正直すごく驚いた。基本がしっかりしていているのもわかる。学校でちゃんと勉強していたんだね」
「フン。剣も魔法も上位三人には入ってたぞ」
「それはすごい。僕は魔法が苦手だし、そのうち僕より完成度の高い冒険者になるだろうね。ああ、そういえば最初に道で会ったときに町のかたがおっしゃっていたね……イタズラ好きなのはともかく学校の成績は優秀だったとか」
とにかく関心しきりの勇者。
しかしエルとしては、結果が出なかった勝負に対し満足することはできなかった。
「あーあ。一発くらい入ると思ったんだけどなあ」
「ふふ、それは仕方ないよ。あ、自分の剣じゃなかったからやりづらかった……とかもあるんじゃないかい」
「それは全然ねえよ。オレが持ってる剣より使いやすかった。妙に振りやすくないか? コレ」
少し呼吸が整ったエルが立ち上がり、借りたままの剣を軽く振る。
「魔王討伐に使った剣だよ、それ」
「あ!?」
エルの体がビクンと硬直した。
「あんたアホか! んな大事なもん、知り合ったばかりの子どもに簡単に貸すな!」
そう言って、エルは勇者に剣を差し出した。
「ふふふ。自分で子どもって言ったね」
「うぜえ。ホラ返す。さっさと取れ」
「それ、あげるよ」
「……」
優しく微笑む勇者を、エルは睨んだ。
「いらね! こういうのは一生大事に取っとくもんだろ!」
彼が剣を受け取る。
一瞬、笑顔が退廃的な色を帯びたように見えた。
剣を両手で持ったまま、何かを考えるように眺め始める。
その好機をエルは逃さなかった。
スッと、切り株に座る勇者の後ろに周る。
「スキあり!」
紐が緩められていた勇者のズボンの中に、エルの右手が入った。
「あっ」
少し慌てたような声を出した。
勇者は剣を持ったまま切り株から離れようとしたが、後ろから抱きつくような体勢のエルは左手に力を入れ、それを阻止する。
「く……」
また声が漏れる。エルがすぐ手を引き抜かず、そのまま探るように指を動かし始めたためだった。
「これが勇者のタマで……これがチンコか、やっぱけっこうデケぇな――」
「はい終わり」
剣を足元に置いて両手を自由にした勇者が、エルの手を引き離した。
「あ、くそ、逃げるの早ぇな。でも直接触ったぜ。どうだ勇者さん」
「完全に油断してたよ。一本取られたな。参りました」
「あの感じだと、触られても全然何ともないってわけじゃなさそうだな」
「そりゃあ、まあ、そうだね」
「ざまあ……って、怒んねえのかよ!」
「まあね。それより、だいぶ音がしてしまったから、誰かに見られてしまったかもしれない。しまったな。そこまで考えていなかった」
勇者が二階建ての大きな宿屋を見上げた。
ここは裏庭。全部屋の窓からここを見ることは可能なうえ、周囲の高さのある建物からも丸見えだ。
「きみが来たことがバレてしまうと、また町長たちに迷惑がかかってしまいそうだ」
「んなもん、どうでもいい」
「きみも叱られてしまうかもしれない。もしそうなったらごめんよ」
「それもどうでもいいっての」
とりあえず誰か来る前に――。
と撤収をすすめられたエルは、また不意打ちしてやるという捨て台詞を残し、帰った。
まだ大きくはない背中を見送ると、勇者はゆっくりとした動きで後片付けに入った。
「一生、ね……」
そしてエルに貸していた剣を鞘にしまう際、そうつぶやいた。
(続く)
手合わせが終わると、勇者は笑顔でエルを褒めた。
切り株に腰掛けて額の汗を拭う。同時にシャツのボタンとズボンの紐を緩め、汗を蒸散させていく。
「んなこと言ってオレの結局一発も入らなかったじゃねえか! また嫌味かよ。くっそー!」
一方、その場で芝生にへたりこんでしまったエルの金髪からは、汗が激しく滴り落ちていた。
肩もまだ上下に動いている。
「嫌味じゃないって。本当に上手だったよ。正直すごく驚いた。基本がしっかりしていているのもわかる。学校でちゃんと勉強していたんだね」
「フン。剣も魔法も上位三人には入ってたぞ」
「それはすごい。僕は魔法が苦手だし、そのうち僕より完成度の高い冒険者になるだろうね。ああ、そういえば最初に道で会ったときに町のかたがおっしゃっていたね……イタズラ好きなのはともかく学校の成績は優秀だったとか」
とにかく関心しきりの勇者。
しかしエルとしては、結果が出なかった勝負に対し満足することはできなかった。
「あーあ。一発くらい入ると思ったんだけどなあ」
「ふふ、それは仕方ないよ。あ、自分の剣じゃなかったからやりづらかった……とかもあるんじゃないかい」
「それは全然ねえよ。オレが持ってる剣より使いやすかった。妙に振りやすくないか? コレ」
少し呼吸が整ったエルが立ち上がり、借りたままの剣を軽く振る。
「魔王討伐に使った剣だよ、それ」
「あ!?」
エルの体がビクンと硬直した。
「あんたアホか! んな大事なもん、知り合ったばかりの子どもに簡単に貸すな!」
そう言って、エルは勇者に剣を差し出した。
「ふふふ。自分で子どもって言ったね」
「うぜえ。ホラ返す。さっさと取れ」
「それ、あげるよ」
「……」
優しく微笑む勇者を、エルは睨んだ。
「いらね! こういうのは一生大事に取っとくもんだろ!」
彼が剣を受け取る。
一瞬、笑顔が退廃的な色を帯びたように見えた。
剣を両手で持ったまま、何かを考えるように眺め始める。
その好機をエルは逃さなかった。
スッと、切り株に座る勇者の後ろに周る。
「スキあり!」
紐が緩められていた勇者のズボンの中に、エルの右手が入った。
「あっ」
少し慌てたような声を出した。
勇者は剣を持ったまま切り株から離れようとしたが、後ろから抱きつくような体勢のエルは左手に力を入れ、それを阻止する。
「く……」
また声が漏れる。エルがすぐ手を引き抜かず、そのまま探るように指を動かし始めたためだった。
「これが勇者のタマで……これがチンコか、やっぱけっこうデケぇな――」
「はい終わり」
剣を足元に置いて両手を自由にした勇者が、エルの手を引き離した。
「あ、くそ、逃げるの早ぇな。でも直接触ったぜ。どうだ勇者さん」
「完全に油断してたよ。一本取られたな。参りました」
「あの感じだと、触られても全然何ともないってわけじゃなさそうだな」
「そりゃあ、まあ、そうだね」
「ざまあ……って、怒んねえのかよ!」
「まあね。それより、だいぶ音がしてしまったから、誰かに見られてしまったかもしれない。しまったな。そこまで考えていなかった」
勇者が二階建ての大きな宿屋を見上げた。
ここは裏庭。全部屋の窓からここを見ることは可能なうえ、周囲の高さのある建物からも丸見えだ。
「きみが来たことがバレてしまうと、また町長たちに迷惑がかかってしまいそうだ」
「んなもん、どうでもいい」
「きみも叱られてしまうかもしれない。もしそうなったらごめんよ」
「それもどうでもいいっての」
とりあえず誰か来る前に――。
と撤収をすすめられたエルは、また不意打ちしてやるという捨て台詞を残し、帰った。
まだ大きくはない背中を見送ると、勇者はゆっくりとした動きで後片付けに入った。
「一生、ね……」
そしてエルに貸していた剣を鞘にしまう際、そうつぶやいた。
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